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部屋を飛び出た鳴海は、それから夜を徹して捜索に当たった。
全体の行方不明者リスト片手に街中を探し回る。
中を任された花山院は バタバタと動き回りながらも、確実に仕事をこなしていく
その中にはあの同期の猫咲と印南の姿もあり、彼女を驚かせる。
「幽はん波久礼はんとちがうか」
「柚、久しぶりだね!元気そうで何よりだ!」
「久しぶりの再会がこんな状態じゃカッコつかねぇけどな」
「何言うてんねん。無事で良かったわぁ」
同期2人のケガ自体は(後から来た)花魁坂の治療によって完治しており、安静にしていれば明日には完全復帰できるところまで来ていた。
それでも念のため状態を確認しながら、負傷時の様子や互いの近況について会話する3人。
しかしいつまでものんびりしているわけにはいかない。柚を待っている患者は大勢いるのだ。
2人との会話を泣く泣く切り上げ、彼女は再び戦場へと舞い戻った。
朝方になり、ようやく戻ってきた鳴海と一通りの治療を終えた花山院。
休憩室のソファに並んで座ると、2人は揃って大きく息を吐く。
「疲れた…」
「どすなぁ…目ぇ勝手に閉じるわ」
「俺も。…柚が来てくれて良かった。中任せてごめんね」
「気にせんといておくれやす。任されたのはうちどすさかい」
眠気から来るフワフワした空気を纏いながら、鳴海に笑顔を向ける花山院。
頼もしい仲間に恵まれたと鳴海はフッと笑顔をこぼした。
心身ともに疲れ切っているはずなのに、マイナスの言葉が出てこない鳴海。
最後の最後まで仲間のために走り回って、明るい笑顔を皆に向ける。
彼の笑顔と言葉にどれだけの人間が救われているだろう。
自分もその中の1人だと、花山院は改めて自覚する。
そういえば、と思い出した花山院は一度羅刹に帰るか聞いた。
回らない頭で考えた結果…
「…帰らない」
「あら」
「今帰ってもどうせまた出てくる羽目になるし…行方不明者も探しきれてない…」
そう告げると、鳴海はそっと目を瞑った。
日頃から断続的睡眠傾向にありがちな鳴海は空き時間で寝ていることがあるので今の場合のようなことが結構ある。
「寝てもうた」
「…zzZ」
一度仮眠に入ってしまえば最低1時間程は起きないので寒くないように自分の上着を膝に掛けておいた。
「おやすみなさい鳴海はん。お疲れやす」
小さくそう告げると、花山院もまた静かに目を閉じるのだった。
30分程眠っていただろうか…
休憩室をノックする音で目が覚めた花山院。
ドアを開ければ、そこには見慣れた顔が3つ…淀川・朽森・百鬼が立っていた。
「治療お疲れさん。眠いところ悪いが、少しいいか?」
「ええどすえ〜。あ、そやけど静かにおたのもうします。鳴海はん寝てますさかい」
「鳴海先輩も徹夜か?」
「そや。明け方まで捜索に避難までしとったさかいな」
「じゃあ俺、部屋に運ぶよ」
「淀川はんがめっちゃ睨んでんで」
そうして鳴海が眠っているソファから少し離れたところにあるテーブルの周りに集まった4人。
話す内容は、鳴海のこの後の動きについてだ。
これから先も確実に負傷者は増えるし戦闘は避けられない。故に鳴海のような両方出来る人物は必要不可欠である。
「まだしばらく手を借りることになりそうなんだが…どうする?」
「そうどすなぁ…応援要請はしたんどしたかいな?」
「あぁ」
「なら1回戻って、情報共有しとおす。一旦うちの部屋にも帰りたいし」
「鳴海は?」
「このまま残るって言うてましたわぁ。羅刹には人を送るみたいどす」
「分かった。大我、手配頼む」
「了解!風呂とか飯とか大丈夫っすか?せめて鳴海先輩だけでも何か食わせた方がいいっすよ!」
「やったらなんか食べるもの…って、紫苑はん?何してんのん?」
様子を見るため振り返った先で、花山院はソファの前にヤンキー座りをしている朽森を発見する。
ちょっと目を離した隙にそちらへ移動した彼は、鳴海のことを間近で見つめていた。
すかさず淀川が歩いて行き、その首根っこを摑まえる。
「テメェ…近づくなって言ったよな?」
「鳴海先輩が起きそうな気配だったんすよ。目覚めた時、すぐ誰かの顔が見えた方が安心するでしょ?」
「お前じゃなければな」
「まぁまぁそう言わずに~先輩の寝顔っていいじゃないっすか。守ってあげたくなる」
「デストロイ事件再来やな」
「…ん?……紫苑ちゃん…?」
「おはよ~鳴海先輩。少しは寝れた?」
「頭ガンガンする…」
「朝まで働いてた代償だな。寝不足から来る頭痛なんて当たり前だ。」
「そうそう。何ならこの後俺の部屋で一緒に寝る?」
「うわ、軽率に全力で死んでほしい」
「紫苑どけ!鳴海先輩に飯食わせる!いろいろ持って来たから、食えるもん腹に入れてくださいっす!」
「あ、パンがいい」
「よしこの後の流れ伝えるから、食べながら聞けよ」
パンを頬張る鳴海に笑いかけながら、淀川はそう言って今さっき決めた話を伝える。
それから1時間後…
予定通り八咫烏から送られた1人の鬼が羅刹へと向かっていた
Bー2号室にある二段ベッドの上段で、1人の生徒がうなされていた。
脳裏に浮かぶのは、自分の手で命を奪った華厳の滝跡地研究所の所長の姿。
酷い寝汗と共にガバッと起き上がった一ノ瀬は、荒い息のまま”くそ…”と呟いた。
「(寝れそうにねぇし、ちょっと外出るか…あ、鳴海起きてたりしねぇかな…)」
鳴海は眠りが浅いので夜は校内や外を彷徨いてる事があると、以前本人に聞いたことがあった。
思い立ったら無性に顔が見たくなり、迷惑を承知で訪ねようと一ノ瀬は布団から出ようとするが…
そこでふと思い出す。昨日から鳴海は急な出張中であることを。
仕方なくもう一度布団に入った一ノ瀬は、悶々と考えを巡らせる。
「(何か普通に会いに行こうとしたけど、俺って鳴海と今まで通り接していいのか…?)」
彼の問いに答えるのなら、返事はもちろんYESだ。
実際皇后崎は人を殺めた経験があるが、鳴海と普通に関係を築いている。
だが一ノ瀬の中ではそう簡単に割り切れる話ではない。
人を救う援護部隊の鳴海と、人の命を奪った自分。
真逆の立ち位置にいる自分は、もう彼を頼ってはいけないのではないか…
彼に笑顔を向けてもらう資格がないのではないか…
「(鳴海に、どんな顔して会えばいいか…分かんねぇ…)」
思い悩む一ノ瀬を、ベッドの下段にいる同期は少し気にかける。
そうして夜は静かに更けていき、羅刹メンバーは華厳の滝から戻って3日目の朝を迎えた。
鳴海以外の生徒たちは、広いグラウンドで無陀野と向かい合っている。
2日間の休養でしっかりと疲れが取れたので、今日から授業再開というわけ。
「それじゃあ血蝕解放を長く維持する訓練をする。各自血蝕解放しろ」
無陀野の指示に、それぞれが自分の能力を発動する。
が、一ノ瀬だけはどうも様子がおかしい。
華厳の滝にいる時は自由に扱えていた力が、全く使えなくなっていたのだ。
無陀野や皇后崎が静かに見守る中、心配する同期たちに笑顔を見せる一ノ瀬。
授業が終わると、彼の足は自然と保健室へと向かっていた。
昼前ぐらいに羅刹学園へやって来た大那。
与えられた部屋へ荷物を置くと入浴と仮眠を済ませ、15時ごろを目途に保健室集合ということで話がまとまった。
15時ピッタリに保健室のドアを開けると、そこには既に花魁坂がおり、加えて無陀野の姿まであった。
「おつぴよ〜だのちんにきょーやちん」
「よく来てくれた大那。鳴海から話は聞いている」
「ゆっくり寝れた?」
「もちもち。もーね、爆睡!」
「良かった!」
そうして集合した3人は、昨日と今日の出来事について互いに報告し合った。
その中で、大那は一ノ瀬の不調について聞かされることになる。
遠目に見ただけだが華厳の滝での治療中、彼の表情はどこか思い詰めたような感じだった。
原因はやはり…
「んー、人を…殺したからが1番濃いーかも。同じ経験がある人とか見たことあるしぃ一種のスランプだと思ってちょ」
「お前がそう言うのならその可能性が高いな。」
「四季君は元々普通の男の子だったわけだしね…精神的には相当キツイか」
「にーちゃんとは離れた方がいいかもねぇ」
「え、何で?」
「…鳴海が原因か?」
「にーちゃん、人の命を救うことが役目で、皆の前で”誰も死なせない”って宣言したらしーじゃん?」
「そういえば、雪山修行の時は四季君が代わりに鳴海の目標言ってたっけ…」
「だからにーちゃんを見る度に、自分が奪った命のことを考えるんじゃないかなーって 」
「会う度に精神的負荷がかかるから、そもそも会わない方がいいってことね…」
「そゆこと」
「確かに援護部隊の人間に会うのは、今のあいつにとってはツラいことかもしれない。
だがそれを差し引いても、四季にとって鳴海は必要な存在だと思う」
「えっ」
「あいつは鳴海のことを天使だと言っていた。傍にいると安心するんだと、前に話していた」
「ま?あのムキムキゴリラに天使?」
「土に埋められるぞ。…無理に関わろうとしなくてもいい。でも会った時鳴海の方から避けることはしないでやってくれと伝えてくれ」
「俺もその意見に賛成!なるちゃんってさ、自分で思ってる以上に人に安心感をあげられてるんだよ?俺とダノッチも何度も助けられてる。 だから変に態度変えたりしないで、今まで通り明るくて優しいなるちゃんでいれば大丈夫!」
「おkおk〜。にーちゃんに伝えとく〜」
「そういえばなるちゃん大丈夫なの?」
「定期的に連絡はくるがそれ以外は音沙汰無しだ」
「いま、ちーっと忙しいみてぇよ?」
話が一段落着いた大那は、トイレに行くと言って一旦保健室を出た。
戻って来てドアを開けようとすると、中から何やら話し声がする。
耳を澄ませれば、”四季の様子がおかしい”と訴える皇后崎の声が聞こえてきた。
深夜によくうなされていると…
体にも影響が出始めていることに、遠野はまた心配を募らせた。
と、廊下の向こうから不意に聞こえる足音に驚き、咄嗟に隣の部屋へと隠れる。
保健室のドアを開けた時の”すんません…”の声に、彼はそれが渦中の人物であることを知るのだった。