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一方その頃。
ガ―レットたちは王都から少し離れた位置にある栄えた都市。
その街の外れにある特に大きな屋敷。
彼の父親が所有する、数ある屋敷のうちの一つだ。
そこの一室で、ガ―レットは椅子に座って寛いでいた。
その隣には魔導師の少女メリーランがいる。
彼女は幼い頃からずっとガ―レットと一緒にいた。
なぜ一緒にいるのかは、誰も知らないらしい。
ただ分かることといえば、ガ―レットのことを誰よりも信頼しているということくらいだろう。
ガ―レットも彼女に対して悪い感情は無いらしく、よく二人で行動を共にしていた。
「そろそろ食事の時間でございます」
扉の向こう側から、女の声が聞こえてきた。
メイドである彼女が、食事の時刻であることを告げてきた。
広間には朝食の用意がされていた。
既にルイサとキョウナは来ていた。
「今日は何の肉かなー?」
「昨日の夕食の時と同じじゃないの?」
「うへぇ…」
キョウナの言葉にルイサが嫌そうな顔をする。
三人で食事を摂り始めたガ―レット達。
するとそこへ、遅れてやって来た少女ミドリとバッシュがやってきた。
眠そうな目を擦りながらミドリがパンを掴む。
「あぁ、いい匂い…」
「遅いぞガキ」
そのまま席に着いたミドリとバッシュ。
そして全員揃っての朝食が始まった。
ガ―レットがサラダを頬張っていると、部屋の外から声がかかった。
執事の男が部屋に入って来たのだ。
彼は執事長だ。
「おはようございます皆様。本日の朝のご予定ですが…」
「あぁ…いい。適当にやっといてくれ」
「かしこまりました」
執事長が部屋から出て行った後、ミドリとバッシュは食べ終わった食器を片付けに行った。
残ったガ―レットとメリーランはそのまま食事を続ける。
するとそこに、また別の少女が現れた。
その少女の名はメイカだ。
ガ―レットに好意を抱いているらしく、事あるごとに彼にアプローチをしている。
しかしガ―レットは相手にしていない。
「あっ、ガ―レット!おはよう!」
「ん?あぁ、おはよう」
「ねぇ聞いてよー」
「はいはいわかったわかった。とりあえず座れ」
そう言ってガ―レットは椅子を引く。
その後、メイカの話を聞きながら、朝食を終えた。
ミドリとバッシュは特にすることも無いのか、屋敷の資料室に向かった。
ガ―レットとメリーランも準備を整える。
「えっ!?どこ行くの?」
「街に出てみる」
「私もついてく!」
「ダメだ」
「なんでよぉ~」
「お前がいたら面倒なことになる」
「もう、そんなこと言わずにさ~」
「しつこいな。好きにさせてくれよ」
「むぅ…分かった。我慢する」
膨れ面になりながらも、素直に引き下がるメイカ。
そんな彼女の頭を撫でながら、ガ―レットは屋敷を出ていった。
メリーランも一緒だ。
街の中を歩くガ―レット。
特に目的があるわけではないが、気ままに歩いているようだ。
「メイカのヤツには飽きたな」
「では追い出しますか、ガ―レットさん?」
「そうだな。数日中にはそうしようと思う」
メリーランは黙って頷いた。
「あぁ、それにしても暇だな」
欠伸混じりに呟いた。
貴族でもある彼が、何故冒険者としても働いているのか。
それはただ単に『趣味だから』というだけである。別に金にも困っていない。
気が向いたときに人を雇い、冒険者として働く。
飽きたら捨てる、女は貰う。
そういった日々を過ごしていた。
「騎士連中の訓練場にでも顔を出してみるか…」
「騎士の…ですか」
「ああ。メリー、お前も来るか?」
「はい、では…」
有力貴族の息子と言うこともあり、彼は騎士達にも顔がきく。
暇つぶしに訓練場を訪れることにした。
屋敷から少し離れた場所にある、騎士達の鍛錬所。
そこでは多くの兵士達が、剣を振るったり魔法を放ったりしていた。
中には実戦を想定した模擬戦を行っている者もいる。
とはいえ、ガ―レットから見ればそこまでレベルの高い者とは言えなかった。
「相変わらずだな…」
溜息交じりにそう言った。
その時だった。
一人の兵士がこちらに向かってきた。
そしてガ―レットの前で立ち止まると、姿勢正しく敬礼をした。
「これはガ―レット殿ではありませんか!」
「よう。元気そうだな」
「ええ、まあ…」
兵士は苦笑いを浮かべた。
彼もまた、ガ―レットと同じく騎士である。
階級はそれなりに高いらしいが、あまり出世には興味がないらしく、こうして雑用ばかりやっている。
ちょうどいい。
そう思ったガ―レットは彼に訓練場の案内をさせることにした。
「ここが新しくできた倉庫、そして向こうが第四武器庫です。こちらも最近できたばかりです」
「へぇ…色々あるじゃないか」
ガ―レットは軽く笑う。
とはいえ、すぐに飽きてしまった。
やはり訓練をしている者達に興味を示した。
暇つぶしにちょうどいい。
そう考えた彼は騎士団の剣術訓練に乱入した。
当然、兵士達からは非難の声が上がった。
だが彼は気にしない。そのまま訓練に参加した。
「ほら、どうした?もっと打ち込んで来いよ」
「くそっ、化け物が…!」
「誰が化け物だ、おい」
兵士達に稽古をつけるガ―レット。
その様子を、メリーランは遠目で眺めていた。
「あれがガ―レットさんの実力…凄まじいですね…」
メリーランが一人呟く。
その視線の先には、大勢の兵士達を相手に戦うガ―レットの姿があった。
しかし、突然彼の動きが止まった。
「ん?なんだ…?」
首を傾げるガ―レット。すると次の瞬間、空気が大きく揺れ始めた。
まるで地震のような激しい振動が、その場にいる全員を襲う。
「うおっ!?」
「きゃあ!」
悲鳴を上げる兵士たち。
メリーランもその衝撃で転倒してしまった。
しかしガ―レットだけは違った。
しっかりと両足で立っている。
「一体、なにが…」
「……」
「あちらをご覧ください」
メリーランが指さす方向を見るガ―レット。
そこには騎士団長の男が立っていた。
今のは彼の気迫によるものだったのだ。
彼の名は『ダレル・デクスター』。
若い頃は王国最強の騎士と言われていた男だ。
現在は後進の育成に努力している。
「貴公か…こんなところになんの用だ?」
「何だアンタか。情けない騎士たちに修行付けてたんだよ」
「ふん、相変わらず口が悪いな。それにしても、ずいぶんと派手に暴れているようだな。さすがに目に余るぞ」
「お前に言われる筋合いはないな。俺は俺のしたいことをしているだけだ」
「ほう…では、私も私のやりたいようにするまでだな」
「おいメリー!お前は下がってろ」
二人の会話を聞いて、兵士やメリーラン達は困惑していた。
彼らが知る限り、二人は決して仲が良いとは言えない間柄なのだ。
メリーランがその場を離れる。
それを確認すると、ダレルは訓練生の一人に声をかける。
そして、彼の持っていた訓練用の木刀を受け取った。
ガ―レットも同じく訓練用の木刀を持つ。
「お手合わせ願おうか」
「いいだろう。久しぶりに本気が出せそうだ」
それを合図に、両者は同時に駆け出した。
そして激しくぶつかり合う。
剣同士がぶつかるたびに衝撃波が飛ぶ。
「やるな」
「そちらこそ」
互いの剣技をぶつけあう二人。
傍から見れば互角の戦いにも見えるが、実際は少し違っていた。
「(こいつは…)」
心の中で舌打ちをするダレル。
その理由は単純明快である。
戦いが始まってから数分経つが、未だに彼は攻撃に転じることができなかった。
理由は簡単である。
ガ―レットの実力が想像以上だったからだ。
「くっ…」
思わず声を漏らしてしまうダレル。その顔には焦りの色が出始めていた。
そんな彼を見て、ガ―レットは不敵な笑みを浮かべた。
そして一気に間合いを詰めると、渾身の一撃を放った。
なんとか受け止めたものの、ダレルは大きく吹き飛ばされてしまう。
体勢を立て直すため、彼は後方へと跳躍する。
だが着地と同時に足を滑らせてしまった。
「くそっ…!」
悪態を吐きながら立ち上がるダレル。
そんな彼に、ガ―レットは容赦なく追撃を仕掛けた。
「どうした、もう終わりか?またかかってこないのか?」
余裕の表情で問いかけてくるガ―レット。
その言葉に、ダレルはさらに苛立ちを募らせる。
だが彼は冷静さを保とうとした。
ここで怒りに身を任せるわけにはいかない。
そう考えた彼は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
挑発してくるガ―レットに対し、静かに言い放つ。
「これ以上はしても意味が無いだろう。私の負けだ」
「へ、最初からそう言えばいいんだよ」
そう言いながら、ガ―レットは上機嫌で去っていった。
メリーランを連れて。
彼が去っていった後の修行場は、怪我人が多発していた。
騎士見習いの一人がダレルに問う。
「なぜあのような男を好きにさせているのですか?」
「…単純な理由だ。『実力』がある『貴族』だからだ」