そして数日後のことだった。
いつものように、リオンはアリスの仕事を手伝っていた。
と、そこに…
「リオンさん、今日はちょっと手伝ってもらいたいことがあるのですけど大丈夫ですか?」
「もちろん、オレが手伝えることなら」
リオンは笑顔で答えた。
アリスが頼ってくれることが嬉しいのだ。
そんな彼にアリスがお願いしたのは、街への薬の売り歩きだった。
一緒について来てほしい、とのことだった
「ある程度、薬を作ったらこうやって街に売りに行くんです」
「なるほど」
「それでリオンさんに、一緒に来てもらえたらと思って」
「ああ、分かった」
リオンは快く引き受けた。
アリスとしても、単純に運べる量が二倍以上になる。
それに、一人で行くよりも二人で行った方が安全だろう。
リオンは、薬の入った箱を持っていく。
中にはいくつか薬が入っている。
傷薬や痛み止め、風邪薬などだ。
リオンはそれらを布で包んで、背中に背負った。
「よっと、結構重いな」
「そうですか?私はこのくらいなら全然平気です」
「けっこう力持ちなんだね」
「まぁ、これでも慣れてますから」
照れ臭そうに笑うアリス。
彼女は意外と体力があるようだ。
リオンは内心感嘆していた。
そういえば、彼女の仕事を手伝うようになってから、以前よりも体が動くようになった気がする。
これも彼女のおかげかもしれない。
リオンは密かに感謝した。
「量があるから、ちょっと遠くまで売りに行こうと思います」
アリスはそういうと、リオンに地図を手渡した。
それはこの辺りの簡易的な地図だ。
アリスの住む森を中心に、周辺の村などが描かれている。
「ここが、私達の住む森です」
「へぇ」
地図にはいくつかの印がついている。
恐らくは、そこがアリスが薬を売りに行ったことのある場所なのだろう。
これから行く町は、この近辺では一番大きな町らしい。
名を『リーブルシティ』という。
地方貴族も住む街だとか。
「ここからだとかなり遠いんだな」
「そうですね。それと、この町に行く道中に小さな村があるので、そこの薬屋にも売りに行きます」
そういいながら、アリスは地図にある村を指さした。
どうやらそこがアリスの言う村らしい。
行商のようなもののため、しばらくは家に帰らない。
家にある食べ物もある程度まとめて持っていく。
「この『グリーンリレイア』の村に寄ってからリーブルシティに向かいます」
「了解。それじゃあ出発しようか」
「はい。半日もあればつきますよ」
「なるほど…あッ!」
リオンはそう言うと、家からあるものを持ってきた。
それは以前書いた、キョウナの特徴を書いた紙だった。
「それはキョウナさんの…」
「もしかしたら他の町にいるかもしれないからね」
「なるほど。行商人の方にも尋ねてみるといいかもしれませんね」
「うん」
リオンは地図を見ながら目的地を確認。
そして二人は出発した。
アリスは箱を大事そうに持ち、リオンは荷物を背負っている。
そのため、歩くペースは遅くなった。
それでも二人で話しながら歩いていると、時間は早く過ぎていく。
二人はその間に、いろいろなことを語り合った。
「ところで、リオンさんはどうして冒険者になろうと思ったんですか?」
「んー、そうだな」
リオンは少し考える。
特に理由があったわけではない。
だが、強いていうならば…
「憧れかな」
「憧れ?」
「うん、昔読んだ本に書いてあったんだよ」
「どんな内容なんですか?」
「冒険者っていうのは、困っている人を助ける存在だって…」
興味深々といった様子のアリス。
リオンは少し恥ずかしかったが、自分の考えを話し始めた。
「だから、自分も誰かを助けられるような人間になりたいって思ったんだ」
「素敵な物語ですね」
「ありがとう」
アリスは微笑みながら言った。
リオンはその言葉を聞いて嬉しくなる。
「アリスちゃんはどういった理由で薬を作っているんだ?」
「えっ!?」
「あっ、いや!話したくなかったら別に…」
リオンは慌てて取り繕う。
しかし、アリスは首を横に振った。
「いえ、大丈夫ですよ。実はですね…」
アリスは少しだけ顔を赤らめながら、語り出した。
「私、小さい頃に両親を亡くしてるんです」
「…そうなのか」
「はい。それで、おじさんに引き取られたんですけど…」
そこで、アリスは悲しげな表情を浮かべる。
きっと辛い思い出を思い出しているのだろう。
リオンは心配になったが、彼女の話は続く。
「その人はお金が無くて生活も苦しくて。それで、私が自分で稼げば家計の助けになるんじゃないかと思って」
「そうだったのか…」
「まぁ、結局は上手くいかなくて、おじさんには迷惑をかけてばかりだったんですけどね…」
アリスは自嘲気味に笑った。
リオンはなんて声をかければいいのか分からず、黙ってしまった。
すると、アリスは明るい声で言った。
まるで、暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように。
彼女は笑顔で続ける。
その顔からは悲しみを感じない。
本当に気にしていないようだった。
むしろ、楽しそうな笑顔だ。
そんなアリスを見て、リオンはホッとした。
そして、同時に思う。
彼女を支えてあげたいと。
「ごめんなさい、暗い話をしてしまって」
「いや、そんなことはないよ」
リオンは否定する。
実際、そんなことはなかったからだ。
ただ…
「やっぱり俺が支えないとな」
「何か言いましたか?」
「いや、なんでも!」
思わず呟いた言葉を聞かれて焦ってしまうリオンだったが、幸いなことにアリスには聞こえていなかったようだ。
「そろそろ着きますよ」
アリスが前方を指さす。
そこには確かに村が見えていた。
「あの村で薬を売ってから、リーブルシティに向かいます」
「了解」
アリスの言っていたグリーンリレイアの村。
村の規模としては中規模くらいだろうか。
村の中には小さな商店がいくつかある。
村人達はのどかに過ごしていた。
「こんにちは」
「おや、アリスじゃないか。久しぶりだねぇ」
「おばちゃん、お元気そうですね」
アリスは親しげに話しかけてきた商店の老婆に挨拶をした。
この村では顔見知りが多いのだろう。
「あんたがこの村に来るのも久しぶりだねぇ」
「ちょっと用事がありまして」
「いつものかい。ところで…」
老婆がリオンの方を向く。
リオンは軽く会釈した。
「そちらは?」
「私の友達です」
「ほぉ。こんな田舎までよく来たねぇ」
「えぇ、まぁ…」
「ゆっくりしていきな。宿なら紹介できるからね」
「ありがとうございます」
老婆は店の奥に入っていった。
どうやら、奥にある住居に住んでいるらしい。
「この村にはよく来るのか?」
「はい。一か月に一度は必ず来ています」
「へー、凄いな」
「そんなことありませんよ」
謙遜しながら言うアリス。
リオンは素直に感心していた。
彼女の作った薬は液体状の物が多い。
それを瓶に入れ、さらに運搬中に割れぬように頑丈な木の箱にいれている。
当然、重さはかなりのモノになる。
あの森からそれを売りに来るというのは、かなりの労力を必要とするだろう。
「じゃあ、早速行きましょうか」
「そうだな」
二人は店を後にすると、目的の場所へと向かった。
そこは、雑貨屋のような見た目をしている。
「こんにちは」
「あっ!アリスちゃん!いらっしゃい!」
「お久しぶりですね、エミルさん」
アリスは店内に入ると、店員らしき女性に声をかけた。
女性は二十代前半といったところだろうか。
長い髪を後ろで束ねており、眼鏡をかけている。
美人というよりは可愛いという言葉の方が似合う容姿をしていた。
「これ、いつもの薬です!」
箱の中から液体状の薬の入った瓶を二つ。
粉の薬の入った小さな瓶を三つ。
そして干した薬草を十束。
「ありがとう、いつも助かるよ。はい、お金」
「確かに受け取りました」
アリスはカウンターに置かれたお金を確認すると、鞄の中へと入れた。
「それにしても、アリスちゃんのお薬は効果が高いよね。どこで仕入れてるの?」
「秘密です」
「うぅ…教えてくれてもいいじゃない…」
「ダメですよ」
アリスは苦笑いを浮かべながら言った。
それからしばらく、世間話を続けるアリスとエミルの二人。
彼女にもいろいろ苦労があるんだな、そう思うリオンだった。
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