テラーノベル
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「いいかい二人とも。心と回路の壁を取り払い、魂レベルでシンクロ率を四〇〇パーセントまで引き上げる……これこそが古来より伝わる『絆深化(シンクロニシティ)の舞』だ!」
午後の開発室の真ん中で、デュセッカーが大真面目な顔で叫んだ。
頭に載せた鹿のカチューシャが、彼の激しい身振りに合わせてグラグラと揺れている。
「ちょっとデュセッカー、さっきから何の怪しいおまじないを始めてるんだ……」
ビルダーマンが引きつった笑いを浮かべるが、デュセッカーは聞く耳を持たない。
「問いかけるな、感じろビルダーマン! さあ、手を叩いて! ッハイ! ッハイ! ソーレ、ウッ! ハッ! 鹿のステップ! 鹿のステップ!」
デュセッカーが謎の擬音とともに、肘と膝を奇怪な角度に曲げた怪しい踊りを披露し始めた。
「おおっ! なんだそのソウルフルなステップは! 俺も混ぜろ!」
通りかかったシェドレツキーが、手に持っていたチキンを放り投げて乱入。
デュセッカーと並んで「ウッ! ハッ! チキン! 鹿! チキン! 鹿!」と奇声を上げながら、両腕を翼のように羽ばたかせる謎のダンスを踊り出した。
「あんたら、頭湧いてんじゃないの?」
ドアの脇では、ピンク色の髪をなびかせたジェーンが腕を組み、氷のように冷ややかな視線を送っている。
手に持ったスパナを指先でカチカチと鳴らしながら、「仕事しなさいよバカども」と吐き捨てるが、踊り狂う二人の耳には全く届いていない。
カオス。
まさにカオスという言葉以外に形容できない空間が、開発室の中に爆誕していた。
「……Sir ビルダー? あの二人の行動は、集団狂乱現象(ヒステリー)の一種でしょうか?( ? _ ? )」
狂乱の渦の中心で、ヴェロニカはピンク色のテレビ画面に首をかしげる顔文字を浮かべ、ビルダーマンの袖口をちょんちょんと引っ張った。
( ? _ ? )
「いや……ただのアホだ。気にしなくていい、ヴェロニカ」
ビルダーマンは呆れ果てて深くため息をつき、自暴自棄ぎみに頭を抱えた。だが、その時だった。
「ですが……『絆を深める』という目的データだけは、受領シマシタ」
「え?」
ヴェロニカは、指なし手袋をはめた自分の小さな手を伸ばすと、ビルダーマンの右手をギュッと力強く握り返してきた。
作業台の影、騒々しい二人のダンサーと呆れるジェーンの視線から隠れるようにして重ね合わされた手。
ジュワッ、と彼女の画面に静線(ノイズ)が奔り、カオスな空間を背景にしながら、彼女の顔文字がおずおずとした照れ顔へと変わる。
( 〃 ⌒ ‿ ⌒ 〃 )
「こうして手を繋いでいれば……おまじないをしなくても、Sir ビルダーとの距離はゼロデス( 〃 ⌒ ‿ ⌒ 〃 )」
「……っ」
周囲の「ウッ! ハッ!」という奇声も、ジェーンの盛大なため息も、すべてが遠くの背景音へと吹き飛んでいった。
握り返された手の平から伝わってくる、金属と合成皮膚の程よい温もり。
少しだけぎこちなく、けれど力強く握りしめられたその感覚に、ビルダーマンの胸が甘い熱で満たされていく。
(……なんだこれ)
目の前でドタバタと繰り広げられるカオスな空間の中で、二人を包む空気だけが、まるで時が止まったかのように優しく、甘く沈殿していく。
「……そうだな。おまじないなんて、最初からいらなかったな」
ビルダーマンは照れくさそうに視線を泳がせながらも、握られた手を優しく握り返した。
騒音と狂気に満ちたラボの真ん中で、手と手を繋いだ一人と一機だけの世界が、静かに、そして確かに完成していた。
ゆ♨️
2,102
#擬人化注意
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