テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「な、!?仁の弁当デカすぎだろ!」
「そんなことないよ〜。悠斗君は意外に家庭的なんだね」
「意外ってなんだよ!」
「茶色いものばっかりだと思ってたんだろ。俺もそう思ってたしな」
「おい蒼汰まで⋯⋯!よし、お前らの唐揚げいただき!」
「やらないッ」
「悠斗君?だめだよ??」
「うお、お怒り仁到来しちまった」
これは確か、初めて三人で弁当を食べた日。学校の屋上にこっそり侵入して、はしゃいだっけな。
「お、悠斗君起きた。おはよう」
「ふあぁ〜おはよ。仁、起きるの早いな!」
「寝顔を見られたくないからね。もう修学旅行二日目だよ」
「楽しい時間はあっという間だな⋯⋯ん?てか蒼汰いねぇじゃん、トイレ?」
「そこだよ、部屋の隅でぐっすり寝てる」
「うお、マジかよ。どうやったらそんな遠くまで⋯⋯」
「しかも、大の字でうつ伏せなってるね⋯⋯」
「おーい蒼汰。朝だぞ?」
「全然起きない。っていうか寝顔と寝ぐせすごいね」
「なんか、泣きつかれた赤ちゃんみてぇ⋯⋯」
これは修学旅行の時か。そういや、こいつらこんなこと言ってたな。後で仕返ししてやろうか。
「お、おい仁、あの蒼汰が。PCゲームしてるぞ⋯⋯」
「わ、本当だね⋯⋯ん?でも、様子が変じゃ⋯⋯」
「っ!?おい蒼汰、パソコン叩くな!壊れるぞ!?」
「⋯⋯?動かなかったら叩けば直るんじゃないのか?」
「それ昭和のテレビの直し方だろ⋯⋯。あとゲームも消えてるし」
「なんか戻ったら?消えてしまった」
「相変わらず機械音痴だね〜蒼汰君は」
「機械音痴脱出はまだ早かったかー」
これは俺の家で遊んだ時だな。やっぱりパソコンの使い方、二人に教えてもらうか――。
体が冷えているのを感じて目が覚めた。さっきのは夢ではなく、あいつらと過ごした記憶だ。身体を起こして辺りを見渡すと、そこは無限に広がっている、星も雲もない真夜中の夜空のような場所だった。下は薄く水が張ってあり、暗い空が写っていた。
そうか、俺は本当に死んだのか。そのことに悔いはない。いじめから逃れられたし、二人に幸せな記憶が戻って嬉しい。嬉しい、はずなのに。目からポロポロと涙がこぼれた。
本当は俺もあいつらとずっと一緒にいたかった。三人でやりたいこともたくさんあった。でも、その願いは口にした瞬間、誰かを傷つける。俺のエゴでしかないから。ワガママなんて言ってられない。悠斗が死んだ原因の一つは俺だし、俺が記憶を消すことを選んだせいで、二人は心の底からの笑顔を咲かせられない。俺は罰せられるべき存在だ。これが正しい。正しかったんだ。
俺は自分のエゴで流れた涙を無理に抑えるように、そう言い聞かせていた。
一方、悠斗と仁は蒼汰の母からの話を聞いて、蒼汰の死を悔やんでいた。なぜ自殺したのか。そんなことがずっと頭の中でグルグルと二人を悩ませていた。蒼汰の家から出ると、もう空は真っ赤に染まっていた。一日のおわりをいつものように告げる夕日と、なにか良いことがあったかのように元気に鳴くカラスが、今日は何だか妬ましかった。
空を見上げていると、どこからか視線を感じた。何だと思い、辺りを見渡すとそこは見知らぬ場所だった。薄暗く、狭い路地で不気味な雰囲気だ。
「お、おい仁。ここどこかわかるか?」
「ごめん、僕もわからない。少しぼーっとしてたけど確かに、いつもの道を歩いてきたはずなんだけど」
俺も仁と同じで、いつもの道を通ってきたはずなのだ。すると、幼さもあるが水のような澄んだ声で不意に呼ばれた。
「こんばんは。急ですみません、ここに連れてきたのはワタシなんです。少し伝えたいことがありまして」
そこにいたのは長い銀髪と暗い紫色の瞳が特徴的な少女と貝紫色に光る魂のようなものだった。その姿は半透明で霊だと思ったが、なんだか悪い人には感じなかった。
「どちら様?あなたは霊かなんか?」
「はい、成仏できなかった霊です。ふふっ、ていうか蒼汰クンとそっくりな反応。やっぱり仲が良いと似るのでしょうか」
「っ!?おい、なんで蒼汰のこと⋯⋯!!あんた、なんか知ってんのか?まさか蒼汰の自殺と関わってないだろうな!?」
泣きそうになるのを無理やり止めるように、俺はとっさに大声を出した。
「悠斗君、落ち着いて、大丈夫。――君は蒼汰君についてなにか知っているの?」
「あら、なんだか喧嘩腰ですね。ワタシはただ、蒼汰クンがなんで自殺したのか教えてあげようとしてるのに」
「「!?」」
驚きすぎて言葉が出なかった。早く知りたい。なんで、なんでなんで。
「食いついてますね。ではお話しましょうか――」
その話を聞いて悶絶していた。話を聞いてすべて理解した、俺は交通事故で死んだこと。そして蒼汰はみんなで生きるために思い出を消す選択をしたこと。その世界で蒼汰はいじめにあっていた。また、彼女によると蒼汰は「悠斗と仁に笑顔でいてほしいから」とも言っていたらしい。そして蒼汰は自殺して、俺らに〝本当の世界の記憶〟をもどした、という訳か。
なんだよ、それ。確かに蒼汰ならそうしたかもな。蒼汰、らしい。でも俺はなにもしてやれなかったんだな。くそ、くそが⋯⋯勝手に死ぬんじゃねぇよ⋯⋯!!
沈黙が続いた。少女の顔が切なげに見えた。俺は何か言おうとして、少女に質問を投げかけた。最初は正直無理だろうと諦めていた。だけど、彼女がいれば――
「なにか、なんでもいいから、蒼汰を助けられる方法はないか。そうだ、俺が死ねば蒼汰は生きられるか?」
「な、なんで⋯⋯」
「そもそも、本来は俺が死ぬべきだろ。本当の世界で最初に死んだんだ。当然のことだろ」
「⋯⋯悠斗君の主張はわかる。けど蒼汰君はそれが嫌だったから、悠斗君が大切だったから、記憶を消したり自分が犠牲になる選択をしたんだろう?蒼汰君の要望に応えたいとは思わない?」
「っ⋯⋯確かにそうだけどよ⋯⋯」
「やっぱり、記憶を消すべきだと思うんだ。――いや、でもまた同じことになって蒼汰君が辛くなるのは嫌だし⋯⋯」
「同じことの繰り返しだな⋯⋯」
「あの、お二人は世界を変えられる前提で話してますが、もう無理ですよ」
「っ、は!?な、なんでだよ」
「こっちの世界にもルールがあるんです。⋯⋯ワタシは成仏できなかった霊。大切な人を守れなかったから、その罪を背負ったまま、こうして人間の世界で人助けをしているんです。成仏するために。だけど、もし“生まれ変わりたい”のなら、世界を変えられるのは⋯⋯二回まで。もし三回目を超えてしまったら、もう生まれ変われない。ワタシは成仏した後あの世で、ずっと過ごすことになるんです。」
「悠斗君を生き返らせる代わりに記憶を消したのが一回目、僕と悠斗君が記憶を持ったまま生きられる代わりに蒼汰君の身を捧げたのが、二回目⋯⋯だね」
「っ⋯⋯それじゃあどうすりゃいいんだよ⋯⋯」
「まぁ、でも、まだ蒼汰クンは此岸と彼岸の間にいます。完全に彼岸に行ったわけではありません。なので最後に会うことぐらいならできますけど」
悠斗と仁は、真剣な眼差しで目線を合わせ、強く頷いた。そして「合わせてください」と少女に伝えた。
それに応えるように目を瞑った少女は、紫色に淡く光った魂を左手にそっと乗せ、右手を夜空に向かってすっと伸ばした。すると、背後からドンという音が小さく響いた。何かと思い、後ろを振り返ると、路地の出口──建物の角と角のあいだに、あるはずのない扉があった。ガラスのように半透明で、小さい白と紫の光がまとわりついていた。
「あのドアから蒼汰クンのいるところへ行けます。ワタシも責任者としてついていきますけど」
「わかりました。さぁ行こう、悠斗君」
「あぁ。蒼汰に全部、伝えてやる。これ以上、置いていかれてたまるかよ。行くぞ、蒼汰のところへ——」
三人がドアに吸い込まれるように入ると、扉は静かに姿を消した。
蒼汰に会わなきゃ——それだけが、今の俺を動かしていた。