コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
春やのに風がちょっと冷たくて、制服の袖をキュッと引っぱりながら、 オレはその姿を見つけてしまった。
「……ロボロや。」
校門の前で笑っとったアイツは、昔のままやった。
さらさらな髪、笑うと目が三日月みたいになって、口元はちょっとした癖で斜めにゆがむ。
夢でも見とるんちゃうか思た。
その隣のはもう1人。
長身で、明るい雰囲気で、制服のポケットに手ぇ突っ込んだまま笑っとる奴。
俺も仲のいい シャオロンや
オレはそっと目ぇそらした。
ロボロの視線が一瞬こっち来た気ぃしたけど、目が合うことはなかった。
……やっぱオレのこと、覚えてへんのやな。
⸻
思い出す、あの夏の川原。
ロボロが転んで泥まみれになったあの日のこと。
日が暮れるまで虫取りして、2人でアイス分けて笑い合った、あの瞬間。
けど、ロボロの顔には今、その思い出の面影のひとつもなかった。
ただのクラスメイトを見る目やった。
「おはよう、ゾムくんやんなぁ?! 同じクラスやん!よろしく!!」
笑顔で言われたその瞬間、心臓がギュッっと苦しくなった。
……あぁ…、やっぱり、おぼえてへんねや
「ああ……せやな。よろしく。」
本音はぜんぶ、飲み込んだ。
覚えてへんのやったら、しゃあない。
オレだけがこの記憶を大事に抱えて生きていくしかない。
⸻
そんな風にして、オレの高校生活は始まった。
ロボロと“再会”したはずやのに、どこにも“あの日”の続きはあらへんかった。
それでもええ、せめて――
せめて、もう一度だけ笑ってくれたら。それだけでええんや。