テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
17話 「月明かりの小さな告白」
王都に戻ってから数日、依頼は軽めの護衛や荷運びばかりだった。
昼間は働き、夜は宿で食事、そんな穏やかな日々が続く。
この夜も例外ではなく、暖炉の火がパチパチと音を立て、ルーラは静かに本を読んでいた。
ミリアは隣で糸と針を動かし、俺は椅子に深く腰掛けて湯気の立つカップを手にしている。
「……ねぇ」
ルーラが珍しく自分から口を開いた。
「もしも……私がすごく面倒な過去を持ってたら、迷惑?」
その声は小さく、けれど耳にしっかり届いた。
「迷惑じゃない」
俺はすぐに答えた。
「お前が何をしてきたかより、今どうしているかの方が大事だ」
ミリアも針を止めて、静かにうなずく。
「そうだね。ルーラは今、ここにいる。それだけで十分」
ルーラは少し目を見開き、やがてふっと笑った。
「……ありがと」
それ以上は何も言わず、本に視線を戻したが、その頬はほんのりと赤く染まっていた。
翌日、依頼帰りに市場へ立ち寄る。
ルーラは以前から気にしていた果物屋で、こっそりとリンゴを一つ買っていた。
「珍しいな、自分から欲しがるなんて」
「……食べたいわけじゃないの。昔のことを思い出しただけ」
それだけ言うと、袋を大事そうに抱えた。
きっと、そのリンゴは彼女の過去に関わる鍵なのだろう。
だが、まだ聞かない。
彼女が話したくなる日まで、このまま見守ればいい。