怖かった。
でも、もう引き返す場所はどこにもない。
アメリカが隣にいるだけで、ようやく息ができた。
波の音がやけに優しくて、まるで「ここまでよく来た」と言われているようだった。
ここまで来ても、死ぬことしかできないのに。
「…なぁ、アメリカ」
「ん?」
「……やっぱ怖ぇーよ、…死にたくない、っ」
つい、口に出してしまった。声が震えて、涙が出そうだ
「…俺も一緒だから、な?」
アメリカも泣きそうな顔をしながら、やさしく包み込んでくれる。
あぁ、こいつが居てくれてよかった。
恐怖も寂しさも悔しさも、こいつのおかげで全部マシになる。安心できる。
居なかったら、胸の奥も苦しいまま、家で一人凍死してただろう。
「俺も正直、…怖いし」
アメリカが軽く笑う。
泣きそうな顔で、でもちゃんと隣にいる。
波の音と冷たい風の中で、二人だけの世界がゆっくりと流れていく。
海の方へと歩くごとに、潮の匂いがきつくなる。
でもここは波打ち際じゃなくて、もともと高台で、海を見通せた場所だからか、臭いほどではなかった。
今更後悔はしない。でもやっぱり一緒に生きたかった。
手をつなぐ力が少し強くなる。
アメリカの手が震えている。やっぱ怖いよな
「……帰れたらさ……もっと色んな話、したかったよな」
アメリカの頬から涙が一粒落ちる。
「…話したいこと、まだいっぱいあったよな……」
つられて、我慢していた涙が出る。
「…あ、折角だし、思い出の物もって逝かね?」
涙を拭って、アメリカが提案する。
「思い出の物、?」
「死んで忘れても、それでお互いのこと思い出せるように、な?」
「忘れねーよ、まぁ、でも持っていくか」
そう言い、バッグからキャンドルを出す。少し溶けて形は崩れているが、まだ可愛い。
アメリカはバッグから青の毛糸の手袋を出す。
「これ、お気に入りなんだよ」
「クリスマス、それにしてよかったわ」
「ははっ、俺もそれにしてよかった」
軽く笑い合い、2人の間の恐怖は溶けて行く。
波打ち際ほどではないと思うが、潮の匂いが強くなる。
「…アメリカ」
「ん?」
「もう、全部なくなっちまったな」
「……そうだな、人も、仲間も…お前が残っててよかった」
アメリカが優しく笑う。
「俺もお前がいてよかった、昔アラスカ売ったおかげだな」
「売ったのはお前じゃなくてお前のじいちゃんだろ、w」
「ははっ、まぁな」
もう終わりなら、今日ずっと言いたかったことを…
「……一緒にいてくれて、ありがと」
「おう、…死んでも一緒だから」
「約束だから、ずっと離れんなよ?」
「あぁ……ずっと一緒だ」
そう言い合い、2人で静かに海を見つめる。
寒いはずなのに、ここだけ温かいような気がした。
…俺たちなら、大丈夫。
「…行くか」
「ん、…行こう」
来る間ずっと繋いでいた手を強く繋ぎなおし、前を見る。
距離は近いのに、言葉よりもつないだ手がすべてを語る。
最後にお互いを見て、そのまま、一歩。
2人の体が海に沈む。海の冷たさも気にならなかった。
一緒に居るだけで、それだけで何も気にならなかった。
2人が飛び込んだ後の海は、今飛び込むべきだったというように直ぐに氷の膜が貼られていった。
2人を覆うように、壮大な棺桶のように、地球は凍った。
全球凍結まであと0日
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うぅロシアぁ、アメリカぁ(泣)