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「ホント笹尾ささおさん、災難でしたねぇー」


へらへらとした声音が上の方から聴こえてきて、岳斗がくとは無意識にそこから死角になる位置へ身をひそめた。


(あいつがササオか)

相手からは見られないよう気を付けながら見上げれば、三階フロアの踊り場で立ち話をするスーツ姿の男二人が視界に入る。左側の男がしきりに隣の男へ〝ササオさん〟と呼び掛けているので、右手側にいるのがササオだと分かった。


(ササオは営業か)

ふたりの男の服装や、全身から漂う雰囲気に加え、営業課があるフロア付近にいるのをかんがみても間違いないだろう。


どうやらこの階段、社員らからほとんど使われていないらしい。

五階程度の社屋なら、最上階にあるエレベーターを一階で待っていても、それほど待たされないだろう。加えてこの薄暗さは、普段それほど人の往来を想定していないようにすら思えて――。

さっき、二階の踊り場付近を通った時に思ったが、各フロアの入り口にはドアもついていたから、階段を利用しようと思ったらわざわざそこを開けなければいけないというのもネックになっていそうだった。


だが、そんな場だからこそ、わざわざそこへ入り込んで立ち話をしている輩からは表では聞けない話が聞けるのではないかと期待してしまった岳斗である。


照明が微妙ではっきりとは見通せないが、年のころは自分と同年代か、少し若いくらいといったところだろうか。


そう目星をつけながら、岳斗はスーツの内ポケットからスマートフォンを取り出して二人の動画を撮影し始めた。こうなる場面を想定したわけではないが、ハイスペックのスマートフォンを選んでおいてよかったと思う。映像はともかくとして、音声は割とクリアに拾ってくれるはずだ。



***



「あれさぁ、亜矢奈あやなが来なかったら怪我させられたのをネタに美住みすみさんのこと、落とせてた気がするんだよね、俺」

「わー、笹尾さん、悪い男っすねー。正直ぶっちゃけ階段から落ちたのだって実はデモンストレーションだったんじゃないっすか?」

「なぁ志波しば、何でそう思うの?」

「えー、今更そんなこときます? 俺、何年笹尾さんの下に就いてると思ってるんっすか。あんな上の方から落っこちてほとんど怪我してないって……落ち方うますぎっしょ。怪し過ぎますって」


そこで〝シバ〟と呼ばれた男がクスクス笑う声が聞こえてきて、岳斗は腹立たしさに我知らず、スマホを持つ手に力が込もる。

正直今すぐ出て行って、二人のことを殴り飛ばしてやりたい気分だ。だが、そんなで許してやるのは生ぬるい。そう思い直して、湧き上がる激情をグッと押し殺した。


「いや、俺だって全く無傷ってわけじゃねぇぞ?」

左手首に巻かれた包帯をわざとらしく見せるササオに、シバが「それだってみんなに騒がれたから怪しまれないよう怪我したってことにしただけで……実際は痛くもなんともないんでしょう?」とニヤニヤする。


「わー、お前ホント鋭すぎて性質たち悪いわぁー。それに俺より悪人じゃね?」

「何でですか」

「だってさ、そこまで分かってたら普通、哀れなのために動くもんだろ」

「えー、イヤですよぉー。笹尾さんと安井さんを敵に回してしんどい思いをするくらいなら、笹尾さんがやったこと知った上でなお、俺は味方ですよー? ってアピールしといた方が簡単に甘い蜜吸えそうでいいじゃないっすか」

「ホントお前ってヤツは」

「だからこそ笹尾さん、俺のこと可愛がってくれてるんでしょう?」

「まぁな」


日和見ひよりみ主義で強いモノの味方。そんな後輩だからこそ気に入っているのだと言い切ったササオに、岳斗は眉根を寄せる。そういうズルイ人間の気持ちが分からないこともないと感じてしまう自分が、心の奥底にいるのを感じたからだ。

かつて屋久蓑やくみの大葉たいようねたんで、陰でコソコソと画策していた自分は、確かに彼らと同類だったから。


だが、だからと言って杏子あんずをこんな目に遭わせる人間を許してやる理由にはならない。


「それにしても安井さんみたいな綺麗な彼女がいるのに何で他の女に手ぇ出そうとするんっすか」

不意にシバの声のトーンが変った気がして、岳斗は再度気を引き締める。

「あ? いや、何でって……。お前、四六時中彼女面かのじょづらしてアレコレ言われるの想像してみろ。いくら綺麗な女でも嫌気がさすから」

「えー? けど実際安井さんは笹尾さんの彼女じゃないっすか」

「そりゃそうなんだけどさぁ、いちいちアレコレ指図されるの、嫌いなんだよ。最近は俺が食うモンにもいちいち口出してきやがるし、いい加減乗り換えてぇのよ」

はぁーと盛大な溜め息を吐くササオに、シバがククッと笑う。

「ひっでぇーなぁ、笹尾さん。それ、結局は笹尾さんの体調を心配してくれてのことでしょうに」

「そうだとしても、だ。女が男のすることに口出しすんなって思うんだよね。――それ言ったら逆切れするし。マジ面倒くせぇ」

チッと忌々し気に舌打ちするササオの声に、すぐさまシバが同意する。

「ああ、それ、分かる気がします。女のくせにうるせぇってなりますよね。……まぁその点美住みすみさんは強めに言えばしゅんと大人しく従ってくれそうな従順タイプですもんね。すっげぇぎょしやすそう!」

「そうそう。男の理想の女ってやつ? それに……彼女、一見垢抜けない感じだけどさ、よく見たら案外可愛いのよ。知ってた?」

「っていうか最近綺麗になったと思いません?」

「あー、それ。何か色気出たよな?」

杏子のことを下品な視点で語る二人の会話に、岳斗はそろそろ我慢の限界だなと感じる。そう思って彼らの会話に終止符を打たせようと動きかけたと同時、下卑げびた笑いと一緒に

「胸はちっさめですけど」

「確かに! そこはちょっと残念だよな」

と二人が呵々かか大笑たいしょうして……岳斗は静かな怒りとともにスマートフォンの録画機能をオフにした。

これ以上二人の会話を聞いていたら確実に手を出してしまう。


岳斗は一度深呼吸をして気持ちを整えると、二階フロアへと続く入り口扉をわざと音を立てて開け閉めしてから、足音を響かせて三階へ続くステップへと向かう。


途端上の方で「ヤベッ」という声とともにざわつく気配がして……同じようにフロアとの境目にあるドアの開閉音が聞こえてきた。


岳斗はほぅっとひとつ溜め息を落とすと、似た者同士のふたりが立ち去ったばかりの三階踊り場を通過した。

あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

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最低な男たち💢

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