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胸に抱くイナリも目の前で展開される状況が飲み込めないらしく、目を丸くして天使と駆け寄ってきた青年、那由多を見た。


「しっかし、ほんっっっっとに珍しいな、アマノイワドに客だなんて、それも人間とはね」


那由多は典晶と文也を見る、そして、何かに引かれるようにイナリに目を留めた。途端、スッと那由多の視線が鋭くなる。


腕に抱いたイナリが硬直したのが分かった。何かに怯える様に耳と尻尾を下げ、小さく体を震えさせる。胸の奥に生じる微かな違和感。典晶は知らずのウチにイナリを抱きしめ、那由多からイナリを遠ざけた。


「君、狐に憑かれているの?」


「え? いや……」


典晶は答えられなかった。那由多が一歩踏み出すと、同じように典晶は一歩後退する。助けを求めるように文也を見るが、彼はこちらの様子などお構いなしで、遠くで八意と話し込んでいる月読を見つめていた。


「これ! 那由多! その狐は宇迦之御魂神の娘、仙狐じゃ。そこの冴えない男(お)の子、土御門典晶の婚約者じゃ」


「土御門……婚約者?」


那由多はイナリから視線を離さず、八意の言葉を口の中で反芻する。得心がいったのか、途端に表情を緩め「あの土御門か」と、イナリから視線を外しこちらを見た。殺伐とした雰囲気も消えてなくなり、柔和な雰囲気が那由多を包んだ。


「俺は黛那由多。高校三年生」


「あっ、俺は土御門典晶、高校二年生です。こっちが」


典晶は文也に顔を向ける。文也はハッと我に返り、「えっと」と言葉を紡ぐ。その視線は那由多ではなく、ハロでもなく、離れた場所でこちらを見ている月読に注がれていた。


「伊藤文也です! 友達からお願いします!」


文也の場違いなほど大きな声がアマノイワドに響いた。


「コイツ……!」


思わず拳を握り締めた典晶。だが、那由多は文也を見て「プッ」と吹き出した。


「土御門典晶君と伊藤文也君ね。君たち、面白いね」


口元を押さえて笑う那由多。その隣では、女子高生スタイルのハロがウズウズしながらこちらを見つめている。


「ねね、那由多。あたしの紹介が抜けてるわよ」


つんつんと肘で那由多を突いたハロ。那由多は「ああ、そうだったな」と興味なさそうに呟くと、親指で隣にいるハロを指す。


「コイツはハロ。見ての通り、堕天寸前のダメ天使だ」


「そそ、私はセクシーが売りな堕天寸前のダメ天使♪って、んなわけないでしょーが! これでも私はデヴァナガライの監視者なのよ! メタトロン様から那由多のお目付役を言い渡されているの! 堕天使に転職なんて、絶対に嫌よ! 嫌!」


「っと、言うわけだ。いるだけでなんの役にも立たない」


「デヴァナガライって?」


素朴な疑問に、那由多は難しそうに眉を寄せる。


「ん~……」


良いながら、那由多はハロを見て、遠くにいる月読を見る。


「ま、立ち話も何だし、座って話そうぜ。ちょうど、月読が旨いって評判の鯛焼きを買ってきたところだからさ」


そう言うと、那由多はハロを連れて番台の裏にある襖を開けて中へ入っていった。那由多に続き、月読も入っていく。


開け放たれた襖。だが、そこには先の見えない深い闇が壁のように立ち塞がっている。


「ほれ、そち達もこっちに来い。茶を飲もうではないか」


クイクイッと手を動かした八意は、躊躇うことなく闇の中へ体を滑り込ませた。


「……大丈夫かな?」


「那由多さんは入っていったんだし。それに、月読も中へ入っていったんだ! 愛に危険と冒険はつきものだ!」


「あっ、そ」


何処まで真面目にやっているのか、長い付き合いの典晶でも文也の事が分からなくなるときがある。ただ一つ言えることは、彼は彼なりに真面目に向き合っている。それが常人と少しずれているのが玉に瑕なのだが。


「んじゃ、いくか!」



コンッ!



一声鳴いたイナリを抱きながら、典晶は緞帳のように厚く垂れ下がっている闇の中へ足を踏み入れた。

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