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羊と亀のお遊戯会
515
#名探偵
空蝉 桜
136
おきつね
101
97 ◇百子との復縁
映画を観たことで百合子との間にできた翔麻がほんとに自分の子であったのか?
ということに今更ながらに伸之は思い至り、弁護士を雇い、いろいろと
奔走し無事慰謝料が振り込まれた。
百子に借りた金と百合子からの慰謝料でしばらくは家計をなんとか
回していけそうだと両親とリビングで話していた時のこと。父親の口から
意外な言葉を聞く。
「儂は百子さんは絶対私たちにビタ一文貸さないと思ってた」
「ほんとに、私もそう思ってたわ」
いつも寡黙に父親の言うことに従うだけで意見など言わない母親までもが
父親と同じことを口にした。
いや、百合子から取り立てた慰謝料の話だろ、今は。
なんでここで百子の話が出てくるのだ。
何故か伸之はイラついた。
「それにしても愉快としか言いようがないな。
あの百合子に私ら三人ともまんまとしてやられたな。はははっ」
「ほんとよぉ~」
何なんだ、この人たちは。
してやられたというのに、百合子のことを他人事のように話す両親に
ますますイライラが募る伸之だった。
「儂としたことが、利用価値があると踏んで利用していたつもりが逆に
利用されてたんだからな。
会社が順調だったら先では他人に会社を譲り渡すところだった」
「止めてください、今更そんな気分の悪い話は」
「気にするな。自虐ネタで反省を込めてるんだ。
それにお前を責めているわけじゃない。
百合子を選べと進めたのは他の誰でもないこの儂だということを
忘れたわけじゃないよ。
伸之にも母さんにも、そして誰より百子さんや孫たちに酷いことを
したもんだよ、全く。
だが謝罪しようにも今更だ」
「あなた……」
98 ◇無茶振り
「なっ、伸之、百子さんが自身で働いて得た収入の全額をぽんっと
お前に渡してくれたと聞いた日からずっと考えていたことがある。
あれからすぐに百合子のことでお前がいろいろと忙しくしていたから
話そびれていたがね」
「何ですか」
「百子さんはまだお前のことを好いてるんじゃないかと思ってね。
一度百子さんとの再婚を考えてみてはどうだ」
父重治の無茶振りに伸之は目をひん剥いた。
「何を今更……そんな破廉恥なことできませんよ」
「まぁまぁそう怒りなさんなって。
どう考えてもそれが丸く皆が収まるところへおさまれるんだから
考えてみてくれないか。頼むよ」
父親が懇願してくる。
皆がって言うが、結局自分がだろ? と言いそうになったが
それは口に出さなかった。
不承不承伸之は
「分かりました。考えてみます」と言い、自分の部屋代わりにしている
リビングにカーテンを引いて作っただけのベッドの置いてある空間へと
引き上げた。
父親とこれ以上同じ空気を吸っていると、たまらなくなり理性を
手離してしまうかもしれないと思ったからだ。
頭を下げるのは後にも先にも一度だけと思うからこそ恥を忍んで、
恥じていることを隠して、百子の元を訪ね金を借りた。
二度までも頭を下げることになろうとは!
伸之は頭を抱えた。
これまで何十年も人の上に立ち立派な門構えの大邸宅に住んでいた人たちだ。
リビングと一部屋しかないような狭いアパートの暮らしに、不自由なことは
もちろんプライドがへし折られていることだろう。
それが分かるから結局は父親の提案を無碍にはねつけることが躊躇われた。
『分かりました。考えてみます』
そう答えはしたものの、親父も年老いて人間力が衰えてきたのだろうと
思わざるを得ない。
この状況で百子たちが暮らす家に入り込むなどという考えは
無茶もいいところだ。
唯一可能性があるとするなら、百子がまだ自分のことを好いてくれているという
場合のみだろう。
だが残念ながら先月金を融通してくれた時の彼女から、今でも
自分のことを恋しく想っているような素振りは何一つ感じられなかった。
ただ唯一の救いは自分や両親に対する蔑みの感情を向けられなかったこと。
このことだけでも自分はあの日、百子に対して感謝の念を覚えた。
父親にああは言ったものの、流石に百子に復縁を願い出る覚悟は
できなかった。
99 ◇返済
だがそれほどまでに非常識な言動をする父親に反発をし、できるわけがないと
考えていたものの、時間を置いて数日が過ぎてみれば、もしかしたら、それもありかも
……と思えるまでに考えが変わった。
調子のいい、虫のいい話だと思うが、百子がこちらを許す気があるのなら
それも一興だなと。
もちろんこんなことを考えられる父親も自分も諸共最低の人間であることは
重々承知のことだ。
だがそれだからと言って伸之は重治の言葉をまるっと鵜呑みにして
愚直に……単刀直入に……百子に再婚を申し込むほど愚かではなかった。
さて、どうしようか。しばらくの間悶々と伸之は考えた。
翌月から、アルバイトだが配達の仕事が見つかり働けることなった。
それで初めての給料が出た数日後に、様子伺いも兼ねて伸之は3万円と
少額ではあるが返済を兼ねて百子を訪ねてみることにした。
本当は行く前に連絡を入れてからのほうがよかったのだろうけれど、
実質離婚しているとはいえ訪ねるのは昔自分が住んでいた家で
元妻は独り身ゆえ家族構成も昔のままだというのも頭にあり、今回は
金を借りにいくのではなくて返済に行くということもあって、連絡など
しなくても大丈夫だろうという思いがあったため、突然の訪問をした。
やはり、元妻は在宅しており、驚いてはいるものの今日は少しばかりでは
あるけれど返済に来たのだと伝えると、すぐに彼女は顔を見せた。
リビングダイニングのテーブルに着くとどうやら今日はたまたま
娘も息子もいたようで百子が娘たちに声をかけた。
コメント
1件
うわ、ここまで来たか…!父親の無茶振りには「は?」ってなったけど、伸之自身も時間経って「ありかも」って変わってく心情の動きがすごくリアルだった。返済ついでに百子を訪ねるシーン、ドキドキするわ。続き気になる〜!