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教室のざわめきは、まるで自分には関係ない音だった。
誰が笑っていても、誰が隣にいても、わたしの場所は“ここじゃない”みたいに浮いていた。
窓際でも、ドアの近くでもない。
黒板も、先生も、クラスメイトも、わたしを通り過ぎていく。
――それが、ちょうどよかった。
わたしの机は、教室の真ん中から少しズレた後ろの方。
誰にも話しかけられない、けれど誰かがチラッと視界に入る、絶妙な位置。
本を読むフリをしてるけど、内容は頭に入ってこない。
ただ、ページをめくる音だけが、今のわたしの居場所だった。
「……佐伯さゆりさん、ね」
出席を取る担任の声に、一瞬だけピクリと肩が揺れた。
「……はい」
蚊の鳴くような声。それでも、名前が呼ばれたことにだけは、返事をする。
それで十分。それだけで、今日一日を乗り切れる。
そう思ってたのに――
「よっ、隣の席だよな。よろしく」
明るい声が、すぐ近くから響いた。
驚いて顔を上げると、太陽みたいにまぶしい男の子が、笑って立っていた。
「……え…」
「俺、瀬戸としき。サッカー部!まぁ、見ればわかるか」
サッカー部…?
そんなことどうでもよくて、わたしはただ戸惑っていた。
どうして、この人は…こんなに普通に話しかけてくるんだろう。
「……佐伯、です」
ようやく口を開いた声は、いつもよりも小さかったかもしれない。
でも、彼――としきくんは、ちゃんと笑ってうなずいた。
「うん、よろしく」
その笑顔が、少しだけ、まぶしすぎて目をそらした。
(関わっちゃ、ダメなのに)
わたしに関わったって、きっと何もいいことなんかないのに。
それでも――
彼の声だけは、なぜかちゃんと届いた。