テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
41
赤羽結乃愛
82
33
サッカーオタク
484
⸻
『6番の約束』
第一部 春、君は隣にいた
第一章 ミサンガ
春の風は少し冷たかった。
校庭の桜はまだ半分しか咲いていない。
昼休み。
はるきは校舎裏のベンチに座っていた。
「ごめん、おまたせ!」
小走りでやってきた彼女は、息を切らせながら笑った。
「また走ってきたの?」
「だって昼休み短いじゃん。」
そう言って隣に座る。
少しだけ肩が触れた。
付き合って一か月。
まだその距離に慣れない。
「はい。」
彼女はポケットから細い紐を取り出した。
赤と青が編み込まれたミサンガ。
「なにそれ。」
「作った!」
得意そうに胸を張る。
「部活のお守り。」
「俺?」
「はるき。」
「俺だけ?」
「当たり前じゃん。」
照れくさそうに笑う彼を見て、彼女も笑う。
「手貸して。」
「え?」
「いいから!」
左手首を掴まれる。
器用に結び始める彼女。
「切れるまで外しちゃダメだからね。」
「そんなに丈夫なの?」
「めちゃくちゃ丈夫。」
「もし切れたら?」
彼女は結ぶ手を止めて少し考えた。
「……願いが叶った時かな。」
「なんだそれ。」
「知らない?ミサンガって切れたら願いが叶うんだよ。」
「へぇ。」
「だから。」
結び終わる。
ぎゅっと最後に引っ張る。
「願いが叶うまで外さないこと。」
「約束。」
「約束。」
二人は小指を絡めた。
その約束が、
こんなに長く続くなんて、
まだ誰も知らなかった。
⸻
第二章 6番を探す人
休日。
サッカーの大会。
彼女は朝からそわそわしていた。
「何番だっけ?」
スマホを開く。
【6番だよ】
送信。
すぐ既読がつく。
【見つけられるかな】
余裕です✌️
思わず笑う。
会場に着く。
グラウンドを見渡す。
「あ。」
いた。
6番。
ボールを追いかける姿は、
学校で見るより少し大人に見えた。
試合が終わる。
すぐLINEを送る。
【おつかれ!】
【全力でやってたらかっこ悪いとかないよ!】
【見てたよ笑】
数分後。
【ありがとう笑】
その一言だけで嬉しかった。
それから彼女は、
試合があるたびに観に行った。
6番を探して。
6番を応援して。
誰よりも大きな拍手を送った。
だから部員の間では、
少し有名になっていた。
「今日も6番の応援団長来てる。」
そんなあだ名がついたことを、
彼女は知らない。
⸻
第三章 当たり前
付き合って半年。
毎日は、
驚くほど普通だった。
「おはよ。」
「おはよ。」
廊下ですれ違う。
昼休みに少し話す。
放課後、
「部活頑張ってね。」
「そっちも。」
たったそれだけ。
でも。
彼女はその全部が好きだった。
放課後、
教室の窓からグラウンドを見る。
6番が走っている。
誰よりも大きな声を出している。
副キャプテンらしいな。
そう思って笑う。
ふと、
手首を見る。
自分にも同じ色のミサンガ。
「切れないね。」
小さくつぶやく。
その時、
友達が聞いた。
「願い事って何にしたの?」
彼女は少しだけ考えて笑った。
「秘密。」
本当は決まっていた。
“この人が、ずっと笑ってサッカーできますように。”
それだけだった。
そしてその願いは、
この時すでに、
少しずつ試され始めていたことを、
彼女だけが知っていた。
病院の白い診察室で、
医師から告げられた言葉を、
まだ誰にも話せずにいたから。
コメント
1件
うわ、めっちゃいい…! 春の冷たい風と半分しか咲いてない桜、それだけで「これから始まるんだな」って感じがしたよ。ミサンガの約束、特に「切れたら願いが叶う」っていうところがもう伏線にしか見えなくて。最後の診察室のシーンで一気に空気変わった…彼女の願いが“ずっと笑ってサッカーできますように”だったのが切なすぎる。続きが気になる!