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# 『6番の約束』
夏が近づいていた。
蝉の声が聞こえ始める頃。
二人はいつもの公園にいた。
付き合って一年。
話すことはたくさんあるはずなのに、
その日は二人とも黙っていた。
先に口を開いたのは彼女だった。
「……別れよっか。」
はるきは顔を上げる。
「え?」
「ごめん。」
笑っている。
でも。
その笑顔は少しだけ苦しそうだった。
「急すぎるだろ。」
「うん。」
「俺、なんかした?」
「してないよ。」
「じゃあなんで。」
少し沈黙が流れる。
彼女は小さく息を吸った。
「……なんとなく。」
嘘だった。
本当は。
理由なんて一つしかない。
病院の診察室で聞いた、
“治療を始めましょう”
という言葉。
これから先、
弱っていく自分を見せたくなかった。
夢を追うはるきの足を止めたくなかった。
だから。
「嫌いになったとかじゃないから。」
そう言って笑った。
その笑顔が、
はるきには一番苦しかった。
「……分かった。」
納得なんてしていない。
でも、
引き止められなかった。
帰り道。
二人は最後まで並んで歩いた。
駅に着く。
「じゃあね。」
「……また。」
また。
その言葉だけが、
少しだけ希望に聞こえた。
別れた。
それなのに。
何も変わらなかった。
「おはよ。」
「おはよ。」
学校では普通に話す。
部活の話。
授業の話。
くだらない話。
友達には、
「気まずくないの?」
と聞かれた。
「全然。」
そう答えた。
本当だった。
好きじゃなくなったわけじゃない。
だから、
優しくできた。
彼女は相変わらず、
試合を見に来る。
「6番ねー!」
観客席から笑う。
試合が終われば、
一番にLINEが届く。
【おつかれ!】
【見てたよ笑】
【今日はパスうまかった!】
その通知を見るたび、
はるきは少し笑った。
「なんだよ。」
そう言いながら。
嬉しかった。
元恋人なのに。
一番の応援団長だった。
学校が終わる。
彼女は駅とは反対方向へ歩く。
病院。
白い廊下。
消毒液の匂い。
診察室。
「最近どうですか。」
医師の問いに、
彼女は笑って答える。
「元気です。」
また嘘をついた。
本当は苦しい日も増えていた。
薬も増えた。
検査も増えた。
でも。
スマホを見ると、
サッカー部の集合写真が届いていた。
6番。
真ん中で笑っている。
思わず保存する。
「今日も頑張ってる。」
それだけで、
自分も頑張ろうと思えた。
診察が終わる。
病院を出る。
夕焼けが綺麗だった。
「大会、見に行けるかな。」
小さく呟く。
誰も聞いていない。
でも。
その願いだけは、
何より強かった。
大会が始まった。
彼女は約束どおり、
観客席にいた。
6番を探す。
「あ、いた。」
いつもの笑顔。
いつもの背番号。
いつもの全力。
試合が終わる。
【おつかれ!】
【ナイスシュート👍´-】
送信。
返信が来る。
それだけで嬉しい。
でも。
スマホを閉じた瞬間。
小さく咳き込む。
ハンカチで口元を押さえる。
赤いものが少しだけ付いていた。
彼女はそれを見つめる。
数秒。
それから、
何事もなかったようにハンカチを畳む。
空を見上げる。
「あと少しだけ。」
そう呟いて笑った。
その笑顔を、
誰も知らない。
コメント
1件
え〜!!第2話もめっちゃエモかった…😭💕 別れてなお彼女の応援を続けるはるきも、自分を押し♡♡♡て笑う彼女も、胸がぎゅってなったよ… 「また。」って言葉にほんのちょっと希望があるのが尚更切ないよぉ〜😢💔 続きが気になりすぎる!!次も絶対読むね🌸✨