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そのはずだった。
「……いい加減にしろよ」
ぽつりと、桃が言った。
一瞬、意味が分からなかった。
「……は?」
聞き返す。
「最近、来すぎだろ」
視線を逸らしたまま言う。
「ほぼ毎日だぞ」
淡々とした声。
でも、どこか硬い。
「……何が言いたいんだよ」
苛立ちが滲む。
「来たい時に来るって言ったのはそっちだろ」
「……そうだけど」
言葉を詰まらせる。
その一瞬で、嫌な予感がした。
「……でもな」
「……正直、きつい」
頭の中が、一瞬で白くなる。
「……っ」
声がうまく出ない。
「お前、全部こっちに寄せすぎなんだよ」
目は合わない。
「会えないだけで機嫌悪くなるし」
「何してるか聞いてくるし」
一つ一つが、じわじわ刺さる。
「……だから何が言いたいんだよ」
やっと絞り出す。
「だから………」
小さく息を吐く。
「重いんだよ」
その一言で——
全部、崩れた。
「……っ」
言葉が出ない。
分かってた。
どこかで。
でも、聞きたくなかった。
「……最初に言っただろ」
「依存してるって」
「でもこれ、違うだろ」
「……何が」
かすれた声。
「お前、一人で立とうとしてねぇじゃん」
何も言い返せない。
「全部こっちに預けてるだけだろ」
違う、って言いたいのに。
喉で止まる。
「……だから、やめようぜ」
静かで、本気の声。
⸻
「……無理だろ」
ほとんど反射だった。
「無理じゃねぇよ」
「じゃあやってみろよ」
思ったより強く出る。
「お前だって同じだろ」
「……同じじゃねぇよ」
即答。
その一言で、何かが切れる。
「……は?」
「俺は、お前いなくても生きてける」
空気が止まる。
分かってる。
それが普通だって。
でも——
「……じゃあなんで来てんだよ」
震えた声。
「……来たいからだよ」
「それだけだ」
軽い言い方。
でも——
「お前みたいに、縋ってねぇ」
「……そっか」
力が抜ける。
「……じゃあいいわ」
後ずさる。
距離が開く。
「……来るなよ、もう」
全部が遠くなる。
足が動かない。
行けよ。
終われよ。
「……っ、は」
呼吸がうまくできない。
胸が苦しい。
痛い。
「……なんでだよ」
振り返る。
「なんでそんなこと言えんだよ……」
声が震える。
「重いとか、」
「縋ってるとか、」
一歩、踏み出す。
「じゃあどうすりゃいいんだよ」
分からない。
本当に。
「離れろって言うなら離れる」
「来るなって言うなら来ない」
それでも——
「……できねぇんだよ」
喉が詰まる。
「一人でいろとか」
「普通に戻れとか」
首を振る。
「できるわけねぇだろ」
視界が滲む。
「お前がいたから!」
声が崩れる。
「やっと、まともにやれてたのに!」
「今さらいなくなるとか……」
言葉が途切れる。
「無理に決まってんだろ!」
涙が落ちる。
「……最悪だ」
笑おうとして、失敗する。
「分かってる、」
「重いのも、めんどくせぇのも」
それでも——
「やめられねぇんだよ……」
顔を上げる。
「……だから」
一歩、近づく。
「行くなよ」
声が掠れる。
「頼むから!!」
「置いていかないで…」
涙が止まらない。
「一人にしないで」
沈黙。
紫の泣き声
重い空気。
それでも目は逸らさない。
「……いかないで…」
「お願いだから…」
⸻
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