TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

私は奇縁ちゃんと一緒に、バラバラになった玖字さんの死体を海に沈めた帰りに、なぜ美輝ちゃんに人を殺していることを隠すのかを聞いてみた。

「…美輝ちゃんにバレたら、きっと嫌われちゃう。危ない人だって思われちゃうから」

「あー…まあ人殺してるってヤバいもんね…」

私は奇縁ちゃんが言ったことに対して、小声で話した。

「じゃあ、なんで美輝ちゃんを家から出さないの?」

私はもうひとつ疑問に思っていることを口にした。

「…美輝ちゃんは生きてるから、私と違って」

静かな声でそう言う奇縁ちゃん。いつもと違ってその顔は、心做しか静かに怒っているように見えた。

私はそこで、前奇縁ちゃんが言ってたことを思い出した。確か奇縁ちゃんは、家庭環境が複雑で、戸籍がないと言っていた。イコール生きていない、とでも言うのだろうか。まあ、戸籍がないと色々と面倒なのは事実だ。

私はこれ以上何も聞いたり言わずに、黙って家に帰った。






「はあ…」

私は次の日、いつもより早めに起きて、お父さんに会っても何も言われない服装を選び、朝ごはんをいつもより豪華にして、髪も可愛く綺麗に整えた。ハーフアップ、と言われている髪型だ。やっぱり、頭の中で言葉が決まっていても、それをはっきりと伝えるのは緊張する。しかも、私が進路の相談をした時から、お父さんは驚く程変わった。今ではうさぎと狼のような、恐れ恐れられ、といった関係だ。父と娘なのに、何故だろう。

支度の際、一応ティッシュやハンカチを持っているが、自分で描いた漫画をバッグの中に入れた。お父さんにこれを見せて、認めてもらうために。いや、認めてもらうことは出来なくても、私が漫画を描くことに、生きがいを感じていることを分かって欲しい。分かってもらえるだけで、充分だ。

私は起きた時から何時間か過ぎていることに気がつき、そそくさと家を出た。








「…やっと来たか」

お父さんが私が来たことに気づき、顔を上げてこっちを見た。

「…お父さん、これ」

やっぱり、自分の描いた漫画を渡すのは恥ずかしい。でも、認めてもらうために、やらなきゃいけない。

私は顔を上げたお父さんに近づき、早速私が描いた漫画を渡した。

「…これはなんだ?」

「私が描いた漫画だよ。私、漫画家としての人生送ってるから」

初めて聞いた私の仕事に、お父さんは少し驚いた様子で息を呑んだ。

「…漫画家として食っていけると思っていたのか?」

この言葉は、昔から私が想定していた言葉だった。漫画家として食っていけない、漫画家として金が稼げるわけがない、そう言われると昔から覚悟していた。でもやっぱり、憧れをそういう風に言われるのは傷つく。

それでも、私の人生だ。私の人生は私のものだ。私の生きがいを否定しようとしないで欲しい。

「食ってけるかどうかじゃなくて、私はこの仕事に生きがいを感じてるの」

私がお父さんの目を見て、はっきりとそう言えば、お父さんは驚いたように目を見開いた。その後、むっとした表情で眉間に皺を寄せる。なにか言いたそうにしていたが、それを遮って私は言った。

「私は憧れて漫画家になったの。夢だった漫画家になるために、必死に努力した。それでやっとなれて、最近有名になり始めたの。誰かの心になにかが届いてくれて…凄く達成感があったの。憧れを続けて良かったって、そう思えたの。

この仕事は私の生きがい。漫画家としての人生を、残りの寿命で生き抜きたいの」

「…俺が認めることがなくてもか?」

お父さんは、私が描いた漫画の表紙を見ながら、静かな声で聞いてきた。

正直その声には、多少の圧があるように聞こえて言うのが怖くなった。だけど、今言わなきゃダメだと思った。今言わなかったら、これくらいの情熱があると認めて貰えるわけがないから。

「お父さんが認めてくれなくても、私はそれでいい」

改めて覚悟を決めた私は、お父さんに対して、真剣な表情できっぱりとそう言った。私のこんな姿見たことがないお父さんは、私の真剣な表情を見て驚きで目を見開いた。さっきから驚いた表情を見せることが多かったお父さんだが、今の驚き方は、若干の焦りがあったように見える。だからなのか、口を少し開けている。

「言ったでしょ。私はこの仕事が生きがいだって。確かにネットに評判とか書かれると思うよ。いいことだけじゃなくて悪いことも…。漫画を描くのは疲れるし、なによりそういう悪い評判を見たら、精神的にも疲れる。でも、やっぱり楽しいの、漫画を描くの」

私は真剣な表情をしていたが、最後には幸せな顔をした。心からそう思っているから。

「…はぁ。というか、この漫画はなんだ?小さい子供が描いてあるが」

「…私、小さい子供に沢山勇気を貰ったから。夢を見つけたのも、その子たちに勇気づけられたおかげなんだ」

憧れた漫画家の人だけじゃない。公園で出会ったあの男の子二人と女の子一人の三人組。あの子たちに勇気を貰ったから夢を見つけられた。あの三人組だけじゃなく、奇縁ちゃんと美輝ちゃんにも勇気を貰ったんだ。私の夢を、漫画を、存在を認めてくれた。それを勇気づけてくれた。

『だいじょーぶだよ!きっとおねーさんのしょーらいのゆめ、みつかるよ!』

『おねえさんのゆめ、みつかりますよいにって、わたし、ながれぼしにおねがいする!』

『おれもおれも!』

あの時三人組が、私を慰めてくれたから、元気づけてくれたから、勇気をくれたから、私は今、ここにいるんだ。憧れである漫画家に、夢だった漫画家になって、沢山の人の目についたんだ。私が貰った勇気そのものを___________。

「…お母さんと一緒に考えてみるから、もう帰りなさい。すみれ」

お父さんはそう言って、無意識なのかは分からないが、私が小さい頃に見た、優しい笑顔になった。私はこの笑顔が大好きだった。

遊園地でみんなを笑顔にしていたお父さん。初めはそんなお父さんに憧れていた。でも、三人組に勇気づけられて、奇縁ちゃんと美輝ちゃんに出会って、憧れの漫画家さんに出会ってから、新たな夢を見つけた。

もしかしたら、元々私が漫画を描き始めたのも、私が貰った勇気を分け与えて、他の人に笑顔でいて欲しかったからなのかもしれない。

「…わかった。ありがとう、お父さん」

私はお父さんにそう言って微笑み、その場を後にした。そして、自分の勇気と夢の素晴らしさを噛み締めながら、家へ帰っていた。

その瞳が教えてくれるから

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

5

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚