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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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私が家へと帰っていると、急にスマホが鳴った。見てみるとお父さんから電話がかかってきていた。私は歩を止めて、かかってきた電話に出た。

「…もしもし」

私は緊張を声に出さないように声を振り絞った。

いくら電話越しだとはいえ、さっきまで生き生きとして勇気を出していたんだ。思い返せば生意気だと思われているかもしれない。

「すみれ、さっき言い忘れていたが、来週の火曜日、うちで話したいことがあるんだがいいか?」

お父さんが電話越しに予定を言ってくる。きっと、今日の話の続きをしたいのだろう。お父さんは話したいことを全て話せていないのだし。

「うーん………ごめん。私、来週は忙しくなるからさ。他の日になら大丈夫かも。それと、火曜日、電話なら平気だから…それでお願い」

私はお父さんに、電話越しで微笑みながら言った。私の漫画が流行りだしたのはいいものの、新作をまだ描かなければいけないのだ。今度は前よりも長い漫画を。微笑みながら言ったのは、流行りだして私の承認欲求が満たされたことで、幸せになったことを改めて感じたからだ。

お父さんは、そうか、とだけ短く言って電話を切ろうとしている。そんな中、私はお父さんに言った。

「あっ、お父さん…!えっと…向葵に替わってくれるかな…?」

ひまり、とは私の妹であり、私が一人暮らしを始める理由の一つだった。

私は期待をかけられ、仕事だってなりたいような職業に就けない限られたものだけだったのに、向葵は両親に甘やかされ、自由で青春を楽しむ高校生だ。仕事だって限られないんだろう。

でも、そろそろ向き合わないと駄目だと思った。漫画家人生の第一歩だろうか。とにかく、私は前に進んで、目を背けていたことから逃げず、成長しなければと思ったのだ。

「…もしもしー!すー姉?久しぶりだねー!」

お父さんに言ってから少し時間が経って、電話から明るい声が聞こえる。この声の主こそが向葵だった。

「…向葵さ、夢とかある?」

背けていたことと向き合うには、とにかく一緒に話さなければと思い、向葵の夢を聞いた。

「夢かー…。最近できた夢なんだけどさ?私、漫画家になりたいのっ!」

元気な声でそう言う向葵に、私は戸惑った。私は漫画家になることが夢だったが、まさか向葵も漫画家になりたいと言うとは思いもしなかった。

「なっ、なんで漫画家になりたいの?」

私が焦りつつもそう聞くと向葵は、電話越しでも微笑んでると分かるようなくらい、幸せそうな声で言った。

「…私さ、幸、って言う漫画家さんに憧れててさ?結構前からだったんだけど…。それで、幸さんみたいな漫画家になりたいなー…って思うようになったの!最近幸さんの漫画家流行り始めたけど…今更かってなるけど…!私は憧れの漫画家さんの背中を追いかけたいの!」

向葵は長くそう話した。私にとってはそんなこと頭に入ってこなかった。幸、という漫画家は私だったからだ。

「…なんで、その漫画家さんが好きなの?」

私は、向葵が私なんかの漫画に憧れる理由が理解できずに聞いてしまった。

「えーっとねー…。幸さんの漫画を本屋で見つけて、気になって買って、家で読んだらさ?すっごい面白くてー……。全巻読んじゃったんだよねー…!そしたら、その漫画に勇気貰ってさ…。まあ、なにか勇気がいる事情とかはなかったけど…、私も幸さんみたいに、漫画で誰かに勇気をあげたいって思ったんだよねー…」

向葵はそう理由を話してくれた。知らなかった。向葵が漫画家に憧れたことも、それが私だということも。私の漫画に勇気を貰ったことも。いつも、目を背けて、辛くない方向に逃げて、簡単ばかりを求めていた私だからだろうか。

向葵がそう私を褒めてくれたことで、私は凄く嬉しい気持ちになった。それはもう、言葉で表せないくらいに。

「…私さ、あんたのこと嫌いだった」

私は電話越しに微笑んでそう言った。

「いつも甘やかされて、期待ばっかされてる私とは大違い。きっと仕事も制限されずに、のびのびと生きるんだろうなー…って思って、凄く妬んでた。凄く悔しくて、イライラして、大っ嫌いだったの」

私はそう話している時、少し俯いていたが、でも…と言って顔を上げて言った。

「でもっ、イメージが変わったし、あんたのこと色々知れて、好感度あがった。あんたを好きになれた。今まで、目背けてて、ごめん」

私は顔を上げ、微笑みながらそう言った。

「…ひっどいなー!好きな漫画家さんから大嫌いだとか傷つくー!!!!まあ、結果的に好きって言ってもらえたしいいけどさー?」

明るくそう言う向葵に、私はすぐに出た疑問を言った。

「えっ…私のこと知ってたの!?」

「あったりまえじゃーん!すー姉が幸さんだってわかるよー。SNSフォローしてたりするしー?投稿でわかるよー」

私のファンだと、私に憧れているとわかるように言ってくれた向葵。私はその他愛もない会話が嬉しかった。今まで目を背けていたが、改めて話してみると、私は妹が大好きだったのかもしれない。

「…ありがとう、向葵」

私はそう言って電話を切った。そして、さっきよりも幸せを噛み締め、漫画家としての人生を生きたいと、改めて思った。

その瞳が教えてくれるから

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