テラーノベル
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店を出ると、目の前に高級車がハザードを灯して止まっていた。
芳也は助手席に麻耶を乗せると、一息ついたようで友梨佳を見た。
「橋本さんも乗って行って?送るよ」
いつもの社長の笑顔で言われて、友梨佳は慌てて首を振った。
「大丈夫です!私は酔っぱらってないですし、電車もまだあるので!」
一気に言ってペコリと頭を下げると、
「こいつに付き合わされたんでしょ?申し訳ない」
そう言うと、タクシーを止めて運転手と話をしているようだった。
「じゃあ、これに乗っていって。俺も心配だから」
停めたタクシーの後部座席の横に立つと、微笑んで友梨佳を見ていた。
(うわーこれは、すごい破壊力だわ。麻耶もやられるわ……)
ぼんやりと思っていると、
「橋本さん?」
声を掛けられて、慌ててタクシーに乗り込むと「失礼します。ごちそうさまでした」と深々と頭を下げた。
「ああ、お疲れ様」
そう言うと、芳也は運転席に戻って行った。
芳也は隣で眠る麻耶を見て、ため息をついた。
芳也は今日、リハ終わり後にアイリを運転手に迎えに行かせ、行きつけのホテルの懐石を食べた。
行きたくはなかったが、はっきりと断らないと、これからも付きまとわれると思った為、一度会わないと……そう思った。
アイリは全く諦める様子もなく、運転手にアイリをきちんと送るように言って、うんざりして先に店を出て家に戻ると、麻耶の姿が無かった。
時間はもうすぐ23時。
芳也はアイリとの事を見られたこともあり、シャワーを浴びた後麻耶に電話を掛けた。
(ただ、友達とご飯とかなら別にいい……なんで俺は気にしてる?)
自問自答しながらコール音を聞いていたが、電話にでた麻耶の声を聞いてため息が出た。
(やっぱり酔っぱらってる……)
ご機嫌に支離滅裂な言葉を言う麻耶に、場所を聞くもわからないとだけをくり返す。
『誰と一緒なんだ?』そう聞いても知らないと答える麻耶に、芳也はつい『男か?』そう聞いていた。
(男なら、確実に持ちかえられるだろ)
イライラしながら何度か質問していると、
急に、きちんとした声が聞こえた。
橋本と名乗る麻耶の友人。そこまで考えて、芳也は麻耶が以前話していた同期の友人だと気づいた。
(同じ会社か……)
そう思い、ため息が出たが、ここで迎えに行かない訳にもいかない。
その夜は、あまり眠ることができず、何度も目が覚めて夜が明けるのを見ていた。
コンコンとノックする音で目が覚めて、芳也は扉の方を見た。
「芳也さん、いつもより遅いけど大丈夫ですか?」
麻耶の控えめな声を聞いて、芳也は慌ててベッドから起きた。
(しまった。明け方眠ったのか……)
少し重い体を起こして、頭を振るとズキッと痛んで顔をしかめた。
「入りますよ?」
控えめに開いたドアから、麻耶が少し顔を出した。
「起きてたんですね?よかった。ってどうしたんですか?」
慌てた様子で麻耶は芳也の元へ来ると、そっと額に手を当てた。
「どうした?」
「よかった。熱はないみたい。でも顔色が悪いです」
心配そうな顔をした麻耶に、「大丈夫だよ」それだけ言うと芳也はベッドから立ち上がった。
「本当に?朝食は軽い物に変更するので、支度が終わったら来てください。仕事は休めないでしょ?」
(本当に嫌になるぐらい、俺の事をわかってるよな……)
芳也は諦めたような気持になり、
「悪いな。ちょっと頭が痛いだけだから」
顔をしかめた芳也に、麻耶は頷いて部屋を出た。
熱いシャワーを浴びると、幾分とすっきりとした芳也は準備をしてダイニングテーブルに着いた。
ほかほかと一人用の土鍋から湯気が上がっていた。
「中華がゆにしてみました。食べられそうですか?」
心配そうな瞳に、芳也はレンゲを手に取ると口に運んだ。
「うまい。スープのストックがあるんだろ?」
「よくわかりましたね」
「始が言ってた。今度作り方教えて欲しいって」
「本当に女子力高いですね。館長って」
フフッと麻耶は笑うと芳也を見た。
「昨日はすみませんでした」
急に頭を下げた麻耶を見て、芳也はドキッとして手を止めて麻耶から目を逸らした。
(どこまで覚えてる?)
「体調悪くなったのも私のせいですよね……」
泣きそうになった麻耶に、
「なんでお前のせいなんだよ?」
「だって……あんな遅い時間に迎えに来させて……」
俯く麻耶を見て、芳也はコクリと唾を飲み込んだ自分に気づいた。
「どうせ、私がきたからストレスでまた痛くなった?とでも思ったんだろ?」
「はい……」
しょんぼりとした麻耶に、芳也は、「お前が来てからもうどれだけ日が経ってると思っているんだ?むしろお前が来てからは調子が良かったんだよ。始にも顔色が良くなったって言われたぐらい」
その言葉に、麻耶はホッとしたような笑みを漏らした。
「まあ、頭痛とは関係ないけど、ストレスと言えばアイリの事かな」
「え?」
「正直に話すと、アイリを遠ざけるためにお前を家に置いたんだ」
「そうなんですか?私はてっきり芳也さんアイリさんの事が好きなのかと思ってました」
その言葉に、芳也は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
「どうしてそうなるんだ?だったらお前と一緒に暮らさないだろ?」
「だって……でもアイリさんは芳也さんのこと好きでしょ?」
「まあ、生まれた時から一緒にいたから勘違いでもしているんだろ?アイツは俺みたいな男と結婚するような女じゃないから」
「いいところのお嬢さんって聞きました」
その言葉に、芳也は驚いたような表情をした。
「それも知ってたのか。ああ、銀行の頭取の娘だよ。でも俺はアイリに興味はない。安心したか?」
「え?なんで!あたしが!」
急にニヤリと笑って言った芳也に、麻耶は慌てた様子で立ち上がった。
「冗談だよ。でも、アイツがいる時は俺を守ってくれよ?恋人のふりでもして」
「え?!」
「私がいるからあなたは諦めて!それぐらい言っといてくれよ」
ニヤリと笑った芳也に、麻耶は呆然として芳也を見た。
「そんなこと言うんですか?」
「そうだよ。その為にお前を家においてるんだからな」
うーん、と唸りながら麻耶は少し考えた様子を見せてから、勢いよく芳也を見て言葉を発した。
「わかりました!がんばります!でも芳也さんなら本当の彼女いくらでも見つかると思うんですけどね」
チラリと芳也を見た麻耶の視線に、芳也はドキっとして慌てて否定するように首を振った。
「本当の女はいらないんだよ。さあ俺は行くよ。二日酔いのお前はゆっくりしてろよ」
静かに言ってヒラヒラと手を振り、芳也は立ち上がると冷静を装いリビングを出た。
(よかった……アイツが昨日の事を覚えてなくて……)
つい、眠っている麻耶の額にキスをして頬を撫でた事を思い出して芳也はため息をついた。
芳也がいってしまった後、洗濯をして掃除をすると、麻耶は一人コーヒーを入れて飲んでいた。
ぼんやりとしながら昨日の事を思い出そうとしたが、ふわふわとして気持ちよかったような気がしたが、何も思い出せなかった。
(変な事言ってなかったかな……)
自分の言動がまったく思い出せず、麻耶は不安で仕方がなかった。
ふと携帯を見ると、
【ランチしない?】
友梨佳からのメッセージに、怖い気もしたが昨日の事を聞きたくて、OKの返事をすると掃除用のジーパンではと思い、着替えることにした。
大きな窓から光が差し込み、天気も良く3月にしては温かい日だった。
ひざ丈のスカートに着替えると、二日酔いの頭を軽く振って気合を入れると麻耶はマンションを出た。
待ち合わせをした洋食店はまだお昼前だったが、半分以上の席が埋まっていた。
キョロキョロと店内を見渡すと、友梨佳はもう来ており麻耶を見て手を振った。
「昨日はごめん」
そう言いながら、店員からおしぼりを受け取ると、麻耶は席に座った。
「そんな事はいいけど……まさか同居の相手が社長とはね。びっくりしすぎてどこからなにを言えばいいかわからない」
友梨佳は肘をつくと、麻耶を見て苦笑した。
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