テラーノベル
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____勇斗side.
最近、自分でも分かるくらい余裕がなかった。
仕事が立て込んでいて、頭の中は常に次の現場、次の段取り、次の言葉。
家に帰っても気が抜ける瞬間がなくて、正直、誰とも話したくなかった。
『おかえり』
仁人の声がする。
こんなに夜中に近い時間帯でも、必ず"おかえり"という言葉がある。
でも、それだけで胸の奥がざわついて、そんな自分が嫌だった。
「……ただいま」
返事はした。
でも、目を合わせる気にはなれなかった。
テーブルに並んだ料理を見て、思わずため息が出る。
「はぁ…またこれ?」
言った瞬間、空気が一瞬固まったのが分かった。
《あ、いや…こういうことが言いたい訳じゃなくて…》
でも、引っ込められなかった。
正直、味がどうとかじゃない。
ただ、何かに当たらないと、自分が壊れそうだった。
そんな俺に当たられても仁人は怒らない。
いつもそうだ。
俺といる時はだいたい笑顔で、仁人も仕事があるはずなのに、掃除も洗濯も、ご飯だって手を抜かずにやる。
『ごめん、今日は時間なくて…』
その言い方が妙に優しくて、余計に苛立った。
《 そんな顔させたい訳じゃないのに、》
そう思っているくせに、口に出るのは冷たい言葉ばかりだった。
「今、それ言う?」
『……』
「もっとマシな嘘でもつけよ、、」
言ったあと、少し後悔した。
でも、謝るほどの余裕もなかった。
夜、 沈黙に耐えきれなくなったのは仁人の方だった。
『ねえ……』
「それ今じゃないといけねぇの?俺今日疲れてんだけど」
その声を遮ったのは、自分だ。
少しの沈黙が続いたあと、仁人がぽつりと呟いた。
その目には大粒の涙が溜まっていた。
『……こんな生活なら、別れた方がマシだわ、笑』
頭が真っ白になった。
すぐに"ごめん"って、"俺が悪かったから、そんなこと言わないで"って言えばよかったのに
口に出た言葉はやはり冷たかった。
「は? じゃあ別れたら?」
言ってしまった瞬間、戻れない気がした。
____吉田仁人side.
勇斗の背中は、最近いつも遠い。
忙しいんだって分かってる。
だから、我慢しようって決めてた。
俺が我慢すれば、いつか昔みたいな日に戻れるって思ってるから。
『おかえり』
返事はある。
でも、目は合わない。
それだけで、胸が少し痛む。
料理を見て、ため息をつかれた。
「またこれ?」
分かってた。
今日は手抜きだって。
思っていた以上に仕事が押してしまって、時間がなかった。
でも、責められると思ってなかった。
『ごめん、今日はあんまり時間なくて』
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怒らせないように、声を柔らかくする。
勇斗の機嫌をこれ以上損ねないようにする、それが癖になっていた。
「今それ言う?」
「もっとマシな嘘でもつけよ」
……ああ、まただ。
言い返したい。
本当は、寂しいって、昔みたいに笑い合いたいって言いたい。
でも、言ったらもっと嫌われそうで、静かに言葉を飲み込む。
夜になって、やっぱり耐えられなくなった。
『ねえ、少し話せない?』
「今じゃなきゃいけねぇの?俺今日疲れてんだけど」
その一言で、何かがぷつんと切れた。
ずっと我慢してた言葉が、勝手にこぼれる。
「……こんな生活なら、別れた方がマシだわ、笑」
本心じゃない。
ただ、苦しかっただけ。
行き場のない言葉を今日は飲み込めなかっただけ。
でも、勇斗は即座に返した。
「は? じゃあ別れたら?」
心臓が、ぎゅっと縮んだ。
――あ、終わった。
そう思った。
to be continued…
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