テラーノベル
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____吉田仁人side.
朝が来るのが怖かった。
あぁ言い放ってもなお、台所に立って、いつものように朝食を用意する。
卵を割る手が少し震えた。
『…食べるかな』
誰に聞かせるでもない独り言。
それでも、作らない選択肢はなかった。
テーブルに並べて、しばらく待つ。
ただ時間だけが過ぎていく。
勇斗の起きる気配がし、その次にはもう何も言わず家を出た。
結局、朝食には一切手がつけられなかった。
「……笑…もう終わりだな、笑」
胸の奥が、じわじわと痛む。
泣くほどの勢いもなくて、ただ目が熱くなる。
《この家に俺がいる意味って、あんのかな…》
そう思った瞬間、決めた。
今日は、ちゃんと終わらせよう。
掃除機をかけて、昔から変わらない柔軟剤を入れて洗濯機を回して、 冷蔵庫に夜ご飯の作り置きを詰める。
勇斗が帰ってきて、困らないように。
最後まで、迷惑をかけないように。
机に向かって便箋を置いた。
言いたいことは山ほどあるのに、 文字にすると驚くほど少なかった。
《ごめんね
うまく言えなくて
俺たち別れよう。
ずっと好きでした。
愛していたのはあなただけでした。》
涙が落ちて、紙が滲んだ。
「……ばかだなぁ___っ,,俺、笑」
スマホひらいて"泊まらせて"とメッセージを送り、そしていつもより少しばかり多い荷物を持って家を出た。
____佐野勇斗side.
仕事中、妙に胸騒ぎがした。
集中しようとしても、頭の片隅に昨夜の仁人の顔がこびりついて離れない。
言い過ぎたかもしれない。
でも、今さら引き返せない気がして、今朝も目を合わせられず、朝食だっとそのままにしてしまった。
夜遅く、家に帰る。
ドアを開けた瞬間、いつも一番最初に聞こえる仁人の声が無く、違和感があった。
綺麗すぎる。
靴は揃えられ、床に埃一つない。
洗濯物も、きちんと畳まれている。
「……仁人?」
返事はなかった。
冷蔵庫を開けると、作り置きのタッパーが並んでいた。
ラベルには、日付と簡単なメモ。
いつもの仁人の字。
ふと机の上に視線を向けると、食べていない朝食が片付けられ、代わりに白い封筒が置いてあった。
嫌な予感がして、手が震える。
手紙を読んでいるうちに、 文字が滲んで見えなくなった。
「……俺、何してたんだ__っ,,」
床に座り込んで、頭を抱える。
怒ってたんじゃない。
疲れてただけだ。
でも、それを理由に一番大切な人を傷つけた。
一番愛している人を傷つけた。
「別れよう」 その言葉が、やけに重かった。
声を殺して、泣いた。
____吉田仁人side.
舜太の家は温かかった。
「無理せんでええからな。いくらでもこの家におってええよ。」
それだけ言って、黙ってコップにお茶を注いでくれる。
「ごめん、ありがと、」
声が掠れて、情けなくなる。
夜、布団に入ると勇斗と過ごした日々が勝手に浮かぶ。
優しかった頃の声。
何気なく触れられた手。
あの頃に、戻りたい…
でも、戻れなかった。
涙が止まらなくて、枕を濡らしながら声を殺した。
to be continued…
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