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9 佐藤ちゃん


1週間後、

佐藤ちゃんは異動になった。


例の大型法律事務所の受注を一人、ナオさんに報告はせずに勝手に行って失敗。



自社システムのオーダーとセキュリティは作り上げる工程で順番が密に絡まって、一歩間違えると一からやり直しになる。



彼女は見事にクラッシュして、やり直しになった。


やり直しの損害額は約一千万円。



ここ数年で一番の額だ。



佐藤ちゃんは習熟テスト前に、飛ばされた。


「教務部」と言って、文房具や電気の補充をする部だ。要するに、使えない人間のたまり場だ。


ナオさんは指導力欠如の責任として一か月の停職と減給。


本来なら全責任を負って、ナオさんごと異動なのだが、 俺が必死に弁護して留まってもらった。


ーーーーーーーーーーーー


人が消えると、俺の評価が上がる。

人のミスが、俺のチャンス。



今の俺は新人教育の全工程や承認のシステムを作り変える権限を貰った。


もう二度と同じ事が起きないように

注意しますと課長に報告しておいた。


俺は、帰り道にきほへのお土産でドーナツを買った。


昨日から、きほと同棲を開始した。

プライベートも好調!


「これ、美味いんだよな~」


鼻歌が止まらない。


来年も優秀賞は確実。賞与は200%超えか?


ーーーーーーーーーーーー



菊池さんが、佐藤ちゃんに会いに

教務部に来ていた。


照明も暗くて誰も話さない部署。


「新しいボールペン、貰えますか」


愛想のない60代くらいの男性が渡した。


「あの、多分ここに来たばかりの佐藤さん呼んでくれますか」


その男性は黙って奥を指さした。佐藤ちゃんが、自分のPCに顔をうずめている。


「佐藤さん!」


ひょいっと顔を出した佐藤ちゃん。

菊池さんを見て泣きそうな顔になっている。


ーーーーーーーーーーーー


屋上のテラスで、2人はコーヒーを飲んだ。


「挨拶もできずにすみません。法人担当設立以来の大ミスだったみたいで…周りのかたの配慮と、入社半年未満の新人だから懲戒処分にはならずに済んだんですけど…私、お荷物ですね」


佐藤ちゃんは涙ぐんだ。


4月は希望を持って入社して、溌溂としていたのに。


「ねぇ、なんであんな事をいきなりしたの?理由を教えて」


佐藤ちゃんは正直に全部話した。失うものも無かった。


「残業してたら、万城目さんがドーナツを持ってきてくれて、アドバイスしてくれました、、」


奨学金を払うために、就活を頑張った。

閑職に追いやられても、雇ってくれるならどんなことでもして働かなければ。

本当はここで女性管理職になりたかったけど…


菊池さんは、夢破れた女性の肩を優しく叩いた。


「何か、既視感、、」


菊池さんは今までの出来事を結び付けた。


急に様子がおかしくなる新人。


それでダメージを受ける教育係。


その横でフォローして、評価を上げ続ける人間…


「あいつだ」


ーーーーーーーーー



菊池さんがエレベーターから降りようとすると、万城目が乗り込んだ。


彼女は 逃さまいと、万城目の腕を掴む。


「万城目君、あなたが噂の感染源?」


「は?何ですか急に。インフルですか?」


「ううん。違う。去年から離職を感染させるやばい奴がいるって噂になってたの」


「あんたでしょ?私と中川君を操作して、次は佐藤ちゃんにナオさん」


菊池さんの声は低く地底から響くようだ。


「こうして組織をひっかき回して、壊していく」


「ちょっと、妙な言いがかりはやめてくださいよ!」


「いずれみんなが知るわ」


俺は必死でエレベーターを降りて階段を走った。息が上がる。なんだ、あの女…!


ーーーーーーーーーー



「どうしたの?夕飯、味濃かったかな」


きほが心配そうにこちらを見ている。


「美味しいよ、このグラタンまじで最高」


会社でも家でも可愛いな。本当に癒される。俺を信じ切っているのがいい。


「とうとう同期は私だけになっちゃったな…寂しい」

「俺がずっと守るよ」

「うん…」


俺はきほのさらさらな髪を撫でた。

そして、心の中で誓った。この子を守るなら何でもできると。

完全にスイッチが入った。


ーーーーーーーー



翌日、俺は上野へ行った。


停職中のナオさんに会うために。


ナオさんはガード下の昼飲みが好き。大学院卒なのに下世話な趣向。


彼は今、佐藤ちゃんの大きなミスの責任を取り、弱気になっている。


こういう時、人間は親切な人の言いなりだ。

 言いなりにさせるために、俺は必要な工程をきちんと 踏んでいるから成功する。


人間の9割はサイコパスで、1割はまとも。まともな人間はサイコパスに食われるようにできている。

入社試験に出すべきだと思う極意だ。


会社ってそういうとこなんだよ。


でもみんなに知られると意味が無いので、やっぱり秘密。

俺はこれからも超イケメンで人望厚い有能社員、

万城目 仁 でい続ける。


本当の俺に気づいた人間はこまめに消していく。そうしないと成功しないから。


ーーーーーーーーー


「ナオさん、もう出社しなよ」

「無理だって、一か月経ってないもん」

「俺、本当に寂しいよー」


ナオさんは髭ボーボー。髪型も元から寝ぐせ強くて、もうホームレスっぽい。



「こないだ俺、課長と朝まで飲んだんだ」


「万城目くん、ほんと人脈大事にするよねー俺そういうことできない」


「衝撃の事実が発覚してさ」


課長いわく、菊池さんは来年、主任確実だ。

パワハラで赤信号かと思いきや、主任昇格試験でトップだった功績は無視できないと。


しかも、ナオさんや俺の功績を自分の事にすり替えて報告している。


「何だよ、汚いじゃん」


「そうだよ。自分のミスは俺たちのせい。中川君の件も、俺たちにも責任あるって言ったらしい。佐藤ちゃんの件は、ナオさんが辞めるべきだって訴えたって…俺は止めたけどね?」


ナオさんは、枝豆を食べる手を止めた。


「菊池さんって…ひでえな」


「な。俺、もう居ずらくて。ナオさん居なかったら、菊池さんに何されるか」


それきり、黙ってハイボールを煽り続けた。

ナオさんはお代わりを頼んだ。


「菊池さん、30代前半で課長いくね」

「俺たちはずーっと底辺、彼女に手柄を取られて、ミス押し付けられて」


「どれだけ頑張ったって、水の泡」


ドン!とナオさんは机を拳で叩いた。


「そんなの、みじめだよ。何のために受験して入社して…」


俺は、ナオさんの肩を掴んだ。


「なぁ、追い出そうぜ、有害社員。じゃないと、俺たちの未来はない」


「どういう事?」


「辞めさせるって事だよ」


目をぱちくりして、戸惑っている。

これからは、俺に染まってもらうよ。



「追い出せなかったら、俺たちが死ぬんだぜ?死にたいか?死にたいか?死にたいか?」


いきなり立ちあがった俺に、ナオさんはビックリして椅子から転げ落ちた。


俺はナオさんの胸ぐらをつかんで振り回した。


俺の目はビカッと見開いた。野生動物のように獰猛になっている。


「やるんだろ?やるんだろ?やらなきゃやられるんだよ!やるしかねえんだよ!」


「はい、やります、はい、やります…」


茫然としているナオさんの顔に恐怖が浮かぶ。


「明日から出社な」

「それは、無理だって…」


ひざに着いた汚れをパンパンと拭き、俺は立ち上がった。

怯えてひっくり返っているナオさんに手を貸した。



「大丈夫、飲み会に課長が中絶させた派遣の子、2人を目の前に座らせた。ナオさんの停職処分、解くってよ」



「ええー、課長が派遣さんを?やばいなそれーー…」



「しかも2回目。んで、まだ付き合ってるし、、課長にコンドームあげたよ」


再びナオさんは震えている。




「あ、ナオさん今から美容院行こうか。予約してあるから」


ナオさんも俺側になるなら、垢抜けないと。


わたしの彼はトキシックワーカー

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