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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第74話 〚見えていないふり〛
――澪視点
部屋に戻ると、
やっと少しだけ
肩の力が抜けた。
「今日さ、あれ楽しかったよね」
えまが布団に座りながら言う。
「うん。
写真、思ったより綺麗だった」
修学旅行一日目の話。
神社の階段。
みんなで食べたアイス。
どうでもいい話。
でも、
その「どうでもいい」が
今はありがたかった。
私はえまと話しながら、
ふと視線を動かす。
——海翔。
部屋の少し離れた場所で、
スマホをいじっている。
誰かと連絡している、
そんな雰囲気。
でも、
分かってしまう。
(……近い)
距離が。
近すぎない。
でも、
目が届く場所。
守っている。
それが、
はっきり分かる。
私は、
何も言わなかった。
言えば、
もっと意識してしまうから。
その時。
カチ、
という音がした。
真壁恒一が、
ゲーム機を操作している音。
布団に座りながら、
画面を見つめている。
……けど。
(考えてる)
ゲームじゃない。
視線が、
時々こちらに来る。
ぞわっと、
背中が冷える。
次の瞬間。
「……真壁」
海翔の声。
低くて、
静か。
「今は、
ゲームする時間じゃない」
部屋の空気が、
一瞬止まった。
真壁は、
少し驚いた顔で
画面を伏せる。
「え?
別に、いいじゃん」
軽く言うけど、
その声は
少し硬い。
海翔は、
真壁を見たまま言った。
「注意、だから」
それ以上、
何も言わない。
でも。
分かってしまう。
——考えてること、
バレてる。
真壁は、
舌打ちしそうになって、
やめた。
その直後。
「男子、
入浴の時間だぞ」
廊下から、
先生の声。
空気が、
少しだけ緩む。
「行くぞ」
海翔が
短く言う。
真壁は、
無言で立ち上がった。
二人が
部屋を出る瞬間。
私は、
なぜか
少しだけ安心していた。
……けど。
その安心が、
“一時的”だということも、
分かっていた。
⸻
――海翔視点
廊下に出た瞬間、
空気が変わった。
少し冷たい。
静か。
(……やっぱり)
真壁は、
何も言わない。
でも、
分かる。
考えていた。
“どうやって近づくか”。
それが、
問題だった。
曲がり角で、
人影。
「海翔」
玲央だった。
隣には、
湊。
「風呂?」
「ああ」
短く返す。
「俺らも」
自然な流れ。
結果、
四人。
(……ちょうどいい)
真壁が、
少しだけ
面倒そうな顔をした。
たぶん、
二人きりになれなかったから。
でも、
それでいい。
むしろ、
それがいい。
廊下を歩きながら、
海翔は考える。
(今夜は、
気を抜けない)
先生が動いている。
玲央も、
勘づいている。
湊は、
何も言わないけど、
空気を読む。
守る側が、
増えている。
それでも——
(油断はしない)
風呂場の扉が見えた。
ここから先は、
少しだけ
目を離す時間。
でも。
完全に、
離れるつもりはない。
海翔は、
真壁の横顔を
一瞬だけ見て、
すぐ前を向いた。
(……見てる)
それだけで、
今は十分だった。