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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第75話 〚長すぎる静けさ〛
――澪視点
ドアが閉まった音が、
思ったより大きく聞こえた。
……男子が、
お風呂に行った。
部屋に残ったのは、
私とえま。
そして、
真壁恒一。
(……静か)
さっきまであった話し声が、
一気に消えた。
時計を見る。
まだ、
ほんの数分しか経っていない。
なのに。
(長い……)
布団の上に座ったまま、
私は無意識に
手をぎゅっと握っていた。
えまが、
空気を変えようとするみたいに
明るく言う。
「ね、今日さ、
あのお店楽しかったよね」
「うん……」
返事はしたけど、
声が少しだけ
上ずった気がした。
えまは、
一瞬だけ
私の顔を見る。
何も言わない。
でも、
分かってる。
(えまも、
同じこと思ってる)
視線の端で、
真壁が動いた。
布団を整える。
スマホを見る。
落ち着きがない。
それだけで、
胸がきゅっとなる。
(……早く戻ってきて)
誰に向けた願いか、
自分でも分からない。
海翔。
玲央。
湊。
誰でもいい。
ただ、
この時間が
早く終わってほしかった。
真壁が、
こちらを見た。
「……澪」
名前を呼ばれるだけで、
心臓が跳ねる。
「なに?」
できるだけ、
普通に。
「今日さ……
楽しかったよな」
「……うん」
嘘じゃない。
でも。
その「楽しい」は、
今じゃない。
今は、
違う。
真壁は、
それ以上何も言わなかった。
言えなかった、
のかもしれない。
沈黙が、
また戻る。
時計を見る。
まだ、
数分。
(こんなに、
時間って長かったっけ)
私は、
無意識に
ドアの方を見る。
誰かが
開けてくれないか、
期待するみたいに。
でも、
開かない。
心の中で、
自分に言い聞かせる。
(大丈夫)
先生がいる。
廊下には人がいる。
一人じゃない。
それでも。
(……一人みたい)
えまが、
私の袖を
軽く引いた。
「澪」
小さな声。
「もうちょっとだよ」
その一言で、
少しだけ
息がしやすくなる。
「……ありがとう」
私も、
小さく返す。
その瞬間。
廊下から、
足音が聞こえた。
複数。
近づいてくる。
(……帰ってきた?)
胸の奥が、
一気に軽くなる。
ドアが開く音。
「ただいま」
海翔の声。
それだけで、
体の力が
ふっと抜けた。
(……長かった)
本当に、
長かった。
私は、
やっと
時間が動き出した気がした。