TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

無名の灯 番外編

一覧ページ

「無名の灯 番外編」のメインビジュアル

無名の灯 番外編

19 - 第19話 寄る辺なき午後(もしもの回)

♥

16

2025年07月20日

シェアするシェアする
報告する

※遥と日下部が付き合った世界線。が、ちょい続きます……。



昼休みの終わり、日下部は黙って屋上の扉を押した。生ぬるい風が、黙って彼の制服の裾を揺らした。もうすぐ梅雨が来る。だけど今日だけは、空に濁りがない。


その鉄柵の影に、遥がいた。

無言で、下を見下ろしていた。風が吹いても、髪の先も肩の線もびくともしない。まるで、自分のいるこの高さに、もう何の現実味も感じていないように。


「……来るって言ってたっけ」


日下部の声に、遥は振り返った。目が合ったが、何も言わず、顔を逸らすでもない。どこか、最初から全部見透かしているような目をしている。


「言ってない。でも……お前、来ると思った」


「なにそれ。エスパー?」


「違う。ただ……来るなら今だと思っただけ」


言葉は他愛ない。だけど、遥の言葉は時々、妙に刺さる。

当ててくるのではなくて、黙ってこちらの居場所を予測しているような。痛みを、見て見ぬふりしないまま触れるような。


「……なあ、遥」


「ん」


「こうしてると……ほんとに、付き合ってるみたいだな」


「うん。付き合ってるよ」


静かだった。日下部は、たぶん笑うべきだった。でも声は出なかった。


「お前さ……なんで、俺なんかと?」


「なんでって……言ったら、お前信じる?」


「試してる?」


「違う。ただ、たぶん、お前が信じたら――ほんとに意味になるんだと思う」


日下部は息を止めた。遥のまっすぐすぎる目は、言い訳を許さない。

冗談みたいに見えるのに、本気だ。本気みたいに見えるのに、冗談にして逃げられる。そんな綱渡りの中で、遥はひとつだけ、重たいものを握ってる。嘘をつかないという一点だけは、譲らない。


「俺さ……」


日下部が視線を逸らすと、そこに蓮司の姿があった。

屋上の扉の影から、少しだけこちらを伺っている。その顔には、いつもの飄々とした表情はなかった。


「……何か言いかけた?」


遥が言う。日下部は小さく首を振った。


「いや……いい」


たぶん、これは長く続かない。どこかで壊れる。誰かが傷つく。

けれど、そう分かっているのに、今だけは遥の言葉に縋ってしまいたい自分がいた。


――この手は、誰のものでもなく、自分が選んで伸ばしたものだ。

そう、思いたかった。



無名の灯 番外編

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

16

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚