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サーモの液晶画面に表示された侍レベルを見て、アルマは思わず噴き出しそうになるのを堪える。
「フッ……侍レベル、たったの二十一だと? やけに自信有りげだから、どれ程の者かと思いきや……」
アルマはその数値に笑うというよりは、むしろ落胆していた。
本当の強者で在れば、尋常の勝負として申し分ない。だが一般兵卒以下の者等、闘う価値も無い。
結論ーー
“やはりこいつは只の、身の程知らずの馬鹿だ”
「アルマ様が闘う迄もありません。この様な者、我々で充分です」
軍団員が我も我もと、アルマに戦闘の意思表示を告げる。
「好きにするがいい……」
アルマは完全に、蒼髪の男への興味を失っていた。
“狂座第十二軍団長アルマーー侍レベル96”
レベルカテゴリーという枠内に於いては、トップクラスの実力者で在る事に間違い無い。
侍レベル21との対比は、象と鼠の闘い位の差がある。最早それは勝負として成立せず、只の虐殺にしかならない。
「そんな玩具に頼りきってるようでは、十二軍団とやらも長くないな。まあ、すぐに終わる事になるがな」
蒼髪の男は、この期に及んでまだ不敵な態度を崩さない。
「どうやら死への恐怖で狂ったみたいだぜ」
「ハハハハハッ、馬鹿かこいつは」
誰もが蒼髪の男を、身の程知らずと罵る。
アルマのみならず、軍団員の誰もがこの蒼髪の男より強い。
そう、あくまで表面的なレベルカテゴリーという“通常枠内”に於いては。
************
“level99.99%over”
※※※※EMERGENCY※※※※
“――なんだ!?”
突如アルマのーー軍団員達のサーモから、警告音が鳴り響く。
“何が起きた?”
続いて無機質機械音声が流れる。
※レベル臨界突破計測確認――
CODE:0990100よりモード反転――
スタビライザー解除:裏コード移行――
※※※※EMERGENCY※※※※
※本機はこれより モード:エクストリームへ移行します――
地殻変動及び空間断裂の危険性大――
速やかな退避を推奨します――
※※※※EMERGENCY※※※※
“何故に裏コードへ? サーモの誤作動? まさか……こいつから!?”
「アルマ軍団長! これは一体……」
狼狽える者達を尻目に、蒼髪の男は薄ら笑っていた。
“まさか……本当に?”
部下達の手前、冷静さを装いたいが、内心穏やかでは無い。アルマは急ぎ、サーモの液晶画面を凝視する。
“故障であってくれ!!”
赤い点滅文字が『120%』を超えているのを確認。
“そ、そんな……まだ上昇を続けている……だと?”
130……
140……
150……
160……
170……
180……
190……
“こっ……こんな事が!?”
赤い点滅文字が『200%』を振り切ろうとした処で、白い煙と“ボン”という小さな爆発音と共に、サーモの電源は完全に落ちる事となった。
「そんな馬鹿な!!」
もはやアルマに冷静な思考は皆無だった。只々、突き付けられた現実に動揺するしかない。
「軍団長!」
「アルマ様……」
軍団員は狼狽えるトップにざわつき、士気が乱れていく。
“何故特異点がこんな所に? まさか……アザミ様を倒したという特異点、こいつか!?”
アルマの思考は最悪の状況を想定する。
“だとしたら……勝てる訳が無い!!”
臨界突破の特異点。直属部隊クラスの相手を前に、軍団長クラスが勝機を見出だせる筈は無かった。
「考え事の最中悪いが、お祈りの時間だ」
蒼髪の男が無機質な瞳と冷徹な口調で、取り囲む軍団へ告げる。
「せめて楽に死ねます様に……とな」
アルマの表情が、冷や汗と共に蒼白に染まる。
「ああすまん、楽には死ねないと思うがね」
“こいつは……人では無い。人の皮を被った……死神そのものーー”
蒼月の夜。月明かりに照らされた蒼髪の男が妖しく笑う。
今宵、死神による殺戮の宴が此処に開幕せんーーと。
***
ーー暗闇の中。月明かりに照らされて、より一層映える紅。
辺りには無数の遺体が転がっていた。そのどれもが、原形を留めていない程に欠損している。
血の臭いが充満し、現場は酸鼻を極める地獄絵図と化していた。
「こっ……こんな事が……」
両腕が欠損し、芋虫の様に這うしかない狂座第十二軍団長アルマ。
“――これは……悪夢か?”
現実を直視出来ず這うアルマの前に、蒼髪の男が無機質な蒼色の瞳と笑みで、見下ろしていた。
「最期に一つ聞いといてやる。直属部隊を殺ったという奴は誰だ? そしてそいつは今何処にいる?」
“――こいつじゃ無いのか?”
こうなってしまった以上、もうどうでもよかったのかもしれない。アルマは自分の最期を悟り、声を振り絞り口に乗せる。
「アザミ様を……倒したとされるのは特異点……。そ……そしてそいつは……東北にある、夜摩一族の下で“光界玉”を護っている……らしい……」
それを聞いて蒼髪の男の表情は、より一層の笑みを浮かべた。
「ご苦労さん」
蒼髪の男はそれだけを言うと、無慈悲にも這いつくばるアルマの頭を踏み潰す。
脳漿が潰れたトマトの様に“グチャ”と生理的に嫌な音と共に、地面をどす黒い染みが広がっていく。
そして辺りは、木々のざわめきしか聞こえない沈黙の闇。
蒼髪の男は月を見上げ、一人其処に佇む。
月明かりに映し出されたその表情は、無機質な瞳とは不釣り合いな迄に笑っていた。
「ああ面倒臭かった。さて……」
“どうやら間違い無いみたいだな。直属部隊を倒した特異点。そんな事が出来る奴は現在、この世に一人しかいないーー”
蒼髪の男は、酸鼻を極める地獄に背を向け歩み出す。
“東北か。そんな処に流れ着いていたとはな”
「クククッ」
男の口許からは、零れる笑みが抑えきれない。
行き先は決まっている。
蒼髪の男は歩みを止め、夜空を見上げる。
「再び逢える日が愉しみだよーー」
狂おしいまでに妖しく輝く満月。高揚を抑えきれない。
再びの邂逅をーー
「なあ? ユキヤ」