ソファーに座るよう促されて、まるでホテルのスイートルームみたいに広い部屋の中をぐるりと見回すと、奥にはお庭に面した窓を背に大きな書机があり、その脇には背の高い本棚が設けられていて、たくさんの本がぎっしりと詰まっていた。
「すごい数の本ですね」と、そちらに目をやる。
「ああ前にも話したかもしれないが、交友関係に制約があり友だちと遊ぶ機会があまりなかったものだから、昔から本ばかり読んでいてな」
ふと、読書をしながら窓の外に物憂げな視線を投げかける、幼い貴仁さんの姿が浮かんだ。
想像の中のその表情はどことなく切なげにも感じられて、以前に彼はお父さまの期待に報いたかったとも話していたけれど、心の奥底ではやっぱり友だちと遊びたい気持ちもあったんじゃないかなと感じられた。
「……貴仁さん、」
思わず呼びかけると、
「うん、なんだ?」
と、彼が顔をこちらに向けた。
「……本当は、その……、」
途中まで言いかけて、ためらいがちに口ごもる。だけど胸の中にしまい込むようなこともできなくて、思い切って口を開いた。
「……本当は、尊敬する経営者としてのお父さまに認められたいと、一心に食らいつきながらも、子どもの時からずっと孤独な思いも拭えなかったんじゃないですか?」
感じていたままを伝えた──。彼が幼い頃からお父さまに応えようと努めていたのも、もちろん本心からだったんだろうけれど、同時に幼いながらに切ない気持ちも抱え続けていたのではと、どうしても思わないではいられなかった。
「あっ……」と、一瞬、彼が固唾を飲む。
「君は、どうしてそれを……。誰にも、いや口に出したことも、一度もなかったのに……」
「わからないはずがないです……だってこんなにもあなたのそばにいて、わからないはずなんて……」
言いながら、彼が負ってきた寂しさを思うと、涙がこぼれそうにもなった。
「……どうして君が泣く」
彼のしなやかで繊細な指先が、私の目尻に溜まった涙にそっと触れる。
「もう、寂しがらないで……。私が、あなたのそばに、ずっといますから……」
胸を込み上げる想いを伝えると、おもむろにギュッと身体が抱き寄せられた。
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