「……ひとつ話を聞いてもらっても、いいだろうか?」
抱かれたままで告げられ、首を縦にコクンと振る。
「あれは私がまだ小学生の頃の、クリスマスイブのことで……」
彼がそう切り出して、私の髪を手の平でさらりと梳いた。
「その夜、私は父とクリスマスを過ごす約束をしていて、とても楽しみに待っていたんだ。けれど父は、いつまでも帰っては来なくて……」
彼がそこまで話して、ふっと小さくため息を洩らした。
「……しばらくして源じいから、仕事で遅くなると連絡があったと知らされて、寂しい思いで眠りについた。だがその夜はなかなか寝付けず、そうして夜中にもなろうかという時分に、父が寝室に入って来たのがわかり、私は眠っているふりをしたんだ。すると父は枕元にプレゼントを置き、『いっしょにクリスマスを過ごしてやれなくて、悪かったな……』と、呟いて、私の頭を何度も撫でて……」
彼が言いながら、まるでその時のお父さまの仕草をなぞるように、私の頭を優しげに撫でた。
「その時に思ったんだ……。私が父の忙しさを受け入れて我慢しさえすれば、父が悪かったと思うようなこともなかったんじゃないかと……。だから私は、それからは決して寂しいなどとは思わないようにしていて……」
彼の抱えた孤独感がしんみりと伝わってきて、
「……あなたのそばに、ずっと私がいますから……」
さっきと同じようにもくり返した。
「ああ、そうだな。これからはもう寂しく思うことはない。君がそばにいてくれるから……」
彼がそう話して、ふっと息を吸い込むと、
「この先も私のそばに、ずっといてくれるか?」
私の目を間近に見つめて、問いかけてきた。
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