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夕暮れが静かに町を染める頃、こはるは縁側で洗い物をしていた。
そのとき、遠くから聞こえた重い足音に振り返る。
「お父ちゃん……?」
見慣れた背中が門をくぐり、父が帰ってきたのだ。
顔はやつれ、服はボロボロ。シベリアの寒さと過酷な環境がその体を蝕んでいることが一目でわかった。
拓也が慌てて駆け寄る。
「お父ちゃん! 本当に帰ってきたんだな!」
父はかすかに笑みを浮かべた。
「おう、なんとか逃げてこれた。シベリアでの地獄を、なんとか抜け出したんだ」
こはるは父の手をぎゅっと握りしめる。
その手は凍傷の跡が残り、力は弱々しかった。
「ソヴィエト兵に見つかりそうになってな……でもな、俺は家族の顔が忘れられんかったんだ。だから逃げた」
父の目は、どこか遠くを見つめながらも、強い光を宿していた。
「……ずっと待っとったよ。お父ちゃん」
こはるは涙をこぼし、抱きついた。
家族がまた一つになった瞬間だった。
拓也もそっと父の背中をさすりながら呟く。
「これからは、もう二度と離れんようにな」
戦後の苦難はまだ続くけれど、家族の絆が彼らを支えていく。