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Sara
220
運命の人 ▹▸ kyus
長め
🐱視点
🐮は前半あまり出てこないです。
若干🐮🐱にも見えるかもしれませんが初書きなのでそこは許してください…(前の書き方が全然抜けてない)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「……実、況者…?」
『__こんちゃーす!レトルトと、申します!今日はですね〜_』
PCを開き、画面いっぱいに文字が流れながらゲームの画面が映し出されている。聞き馴染みのない鼻声が耳を通る。初めて見たこの動画に衝撃を受けながら、固まること数分。
「…レトルト……?カレーじゃなくて、?」
偽名の方に目が行き、疑問を抱きながらも開いている動画に目を移す。
つらつらと簡単な会話をしながらゲームを進めるこの動画に心を奪われた。知って、こんなにも興味が湧いたのは何時ぶりだろうか。
「俺も、やってみ_」
こんな簡単な気持ちで、自分の将来を決めていいのだろうか。
そんな迷いが出てきて、その日から迷いが消えてくれなくなった。
「…ダメだ、こんな軽い気持ちでやるもんじゃ…」
でもやってみたい。だけど俺にできるのか?
「……無理だ。俺には、出来ない」
「…こんな軽い気持ちでこれからのことを決めるのはやめよう」
そう決めた瞬間、釘を刺したかのように迷いは出てくることはなくなった。それからは普通に高校生活を過ごして、大学も無事合格して卒業を迎えた。進む道は決めていなかったけれど公務員に成り行きでなり、いつも通りの日常を過ごしていた。挫けそうになった時もあったけれど、実況というものがいつも支えてくれた気がする。イベントにも暇が見つかれば欠かさず行って、その場で見つけた。運命の人を。
「あ、ども。牛沢です」
声を聴いて、姿を見た時、これまで感じたことも無い感覚が押し寄せてきたのを今でも覚えている。
声は俺よりも低くて、よく頭に綺麗に響く素敵な声。
背は俺よりも15cm低いらしくもし隣に居てくれるのだとしたら可愛い上目遣いをしてくれる程の身長差だと思う。
介護士を実況者とかけ持ちしているらしく動画は趣味程度で上げてるらしい。仕事のこともあって時間が無いのは承知だが動画数が少ない為あまり貢ぐ…ということも難しい。
ヘアセットをする時間があまりないのかいつも少しボサボサな髪型で愛らしく見える。あの髪に触れることができたらどんなに幸せだろうか。
コンタクトはせず眼鏡をしていて可愛い顔をまじまじと見ることはできないが隠すためと思うと逆に盛り上がってしまう。その眼鏡を取ったお顔を見られるのはいつだろうな。
「○○くん?」
「は、はい!?」
「大丈夫か?上の空だったようだけど」
「ぁ、ちょっと寝るのをすっぽかしてしまいまして、」
「そうなのか?今日は帰ってもいいんだよ?」
「い、いえ!まだ大丈夫です!しんどくなったらまたお伝えしますので!」
「そうか…ならいいんだけど、」
課長が態々俺のところまで来て何かあったのか、?
「というかどうしたんですか?何か用があってきたんじゃ……」
「あぁ!そうそう。突然なんだけどね?○○くんには東京に行ってもらうことになっちゃって」
「……トウキョウ?」
「うん、東京」
「あの東京ですか?」
「ん?そこ以外に何があるんだ?」
「ぁ、いや……頭の整理がつかなくって、」
衝撃的な言葉を耳にして少しの間フリーズをしてしまう。
あの大好きな実況者さん達がいるという” 東京 “!?俺はそこに異動なのか!?長年見ている身からすると聖地でしかない場所に?俺が?行くの?
「そ、それっていつから…」
「1ヶ月程後になるかな。○○くん、何度か東京に行ったことはあるんでしょ?」
「ぁ、まぁ…好きなことをやりに」
「だから丁度いいかなって思ってね」
「…はぁ、」
基準どんなんなんだよ。まぁ選んでもらえてクッソほど嬉しいんですけどね?
「寂しくはなるけどよろしくね」
「は、はい!」
やった、!
今度からは、本当にうっしーに会えるかもしれないんだ、!
「よ、よっしゃ…!」
思いも寄らない出来事に心を震わせながら、その日渡された仕事も、きっと明日渡されるであろう仕事も出来るだけ終わらし、気分を上げながらルンルンと家に帰った。既に投稿されているうっしーの動画を「今日は何見よっかなぁ〜」と晩飯を用意しながら探す。その時、通知がポコン、と鳴りその通知を見ると丁度よく投稿されたようで今夜のお供の動画はすぐに決まった。
「〜♪」
喜びに浸りながら思わず鼻歌をしてしまうがそんなことは気にせず席についていつも通りイヤホンをしっかりとつけて動画を再生しながらご飯を食べる。食べながらだと噛んでる音とか聞こえては来るけどうっしーが話す言葉一つ一つを聞き逃さないようのイヤホンをつけているから大丈夫だろう。
あ゛ー、やっぱめっちゃいい声だな…
頭に響く彼の声にうっとりしながら、食べることを思い出してすぐに食べ終わる。
「ふひ、ひひっ」
動画を再生しながら、今日の会社で伝えられたことを思い出して笑みがこぼれていく。うっしーとの笑いとも重なって更に嬉しくなる。
「あ゛〜…幸せ」
次々と流れてくる彼の声。
嬉しい以外の思いが出てこない今日の出来事。
運命の人に出会えた奇跡。
これからが、沢山重なって今ソファで寝転んでいられる日常があるから、幸せだと感じれる。
「…早めにあっち行くことになるだろうし、うっしー探しでもしちゃおうかな…」
そうと決まれば早く物件を見つけよう。そして家電とかも買わなきゃだけどまだいいと思うからそこら辺は誰かに相談しよう。荷解きが大体出来たら、家周りのこと知るついでにうっしーのことも探そう。あ、でも一から探すのはムズいか。介護施設から片っ端行ってみっかな。
「楽しみ〜!!!」
でも、そんなのは実現出来る夢じゃなかった。
荷解きはいつまで経っても終わらない。
仕事の量が増えて休憩する合間もあまりない。
休みの日はあるといえど見逃した彼の配信や動画を見るのに精一杯だった。
家電を買う暇もなくて、ただ親に貰った小さい冷蔵庫のみがキッチンとも言い難い場所に置いてある。洗濯機は大きいし買えもしないため、近くのコインランドリーで溜めきった服を洗う。食事は帰り道のスーパーで惣菜を買ってそれを食べるだけの日々。誰かが居てくれる大切さが身に染みた瞬間だった。一息ついた時には、瞼は重くなっていて。腹は鳴ってるのに飯がないせいで何も食べれない。体力も限界があって、限界突破なんて軽々と出来ず寝転んでしまう。
うっしーの動画みたいのに。
うっしーの最近の話聞きたいのに。
うっしーのイベントの話聞きたいのに。
イベント、行きたいのに。
なんもできねぇや
「……あと、6時間後には仕事、」
スマホをつけると0時と表示され、現実を突きつけられる。
毎朝早く起きて
見た目は軽くワックスをつけるだけで終わらせて、いつも着るスーツを着て
飯を食べる暇なんてないから行く途中でゼリーやら飲み物やらと日によって変えて食べて
一気に渡される仕事を最低でもその半分は終わらせて
昼飯は近くの飲食店に入って休憩時間5分前になるまでに食べて
定時になるまで仕事を終わらせて、もし暇が出来たら他の人の仕事を少しでも手伝って
帰りは電車の中押し潰されそうになりながら最寄りまで待って
真っ暗になった頃は、いつも行くスーパーに寄って安い惣菜を2、3個買って
家に帰って
食べて
体力があれば彼の動画を見て
風呂に入って
あとは寝るだけ
「……こんな、大変だったっけ」
「こんな、余裕なかったっけ」
「こんな、辞めたいって思ってたっけ」
ポロポロと零れていく自分の本心。
こうなるなら、あの時、あの選択をして良かったのかもしれない。なんて思ってしまう。実況者が簡単なことなわけがないことは重々理解してる。だけど、今この状態になってしまったら、羨ましく思ってしまう。軽く1年しか過ごしてないのに、こんなこと思ってしまう。
「……俺、社会人向いてないんだろうな」
『別にいーじゃ〜ん』
「え、っ?」
『我慢して生きるより好きに生きる方がいいに決まってんじゃんねぇ?』
「……はは、っ…そう、なんだけどなぁ…っ」
否定してしまいそうな自分が大嫌いだ。
寄り添ってくれるような言葉なのに。突き飛ばして、いらないって捨ててしまいそうで。だけど、受け止めたい。弱い自分がそう叫んだ気がした。
いっそ今の仕事をやめて近くのスーパーにでも働いてみようか。正直会社に引きこもって仕事をするより、接客の方が俺自身向いてるとどこかで思っていた。1度、いや3度ほど、北海道の方で接客をやらせてもらったことがある。だけど、1人の会社員から「こいつには任せたくない」と言われ、仕方なく諦めた。そのまま月日が経って、そのまま転勤になって、この状態。あの時の選択が間違ってたのかもしれない。好きなことを見つけれたことを悪く言ってしまった自分を嫌いになるが、そんなのこのことに気付く為だったんだと糧にした。
「そうと決まれば!」
立ち上がって、スーパーの所へ走りに行った。だけど明かりは消えていて、周りは真っ暗。空を見上げると夜明け近くになっていたことを知り、やらかしたなんて思うがそれも良かったのかもしれない。
「ま、とりあえず会社行って退職届だな」
先にバイトにでも受からなければと走ってきてしまった自身のあほらしさに少し笑みが零れた。
家に帰ると直ぐ様紙を取り出してネットで色々調べながら書き上げる。封筒を探すも見つからないな、と立ち上がるとフラッと立ちくらみがきたことが分かり、寝ていなかったことを思い出して布団に入る。明日は丁度休みだったことを思い出し、封筒も明日買いに行こう、と考えながらゆっくりと安らぎながら深く眠った。
「ふぁぁ……っ」
伸びを軽くして起き上がる。未だに目が覚めた気がしないがこんなにも気持ちのいい目覚めは久しぶりだ。顔を洗ってスッキリしたと思えば時刻は昼を過ぎて13時を指していた。急いで買いに行かなければ後回ししてしまいそうだと焦り、直ぐ様服を着替えて買い物に行く。 目当てのものはすぐに見つかり、案外焦ってでなくてもよかったなと思いながら自身の腹が鳴り、朝何も食べていなかったのを思い出した。
「……最近惣菜ばっかだったし、どっか寄るか」
少し心の余裕が出てきた俺はこの前彼がブロマガで話していた中野の街にある飲食店の何処かに入ろうと思い、電車に乗って中野に着く。どこに行こうか迷ってもう一度ブロマガを開く。1番上に書いてあるカレー屋さんに行こうかな、と考えると直ぐにカレーの口になってしまい、彼の情報を頼りに歩いていく。店を見つけて入ってみるとカレーの匂いが広がっていて余計空腹が増した気がした。席に案内され、メニュー表を開いてパッと食べてみたいと思ったものを1つ頼んでカレーが来るのを待つ。周りをキョロキョロと見てしまい、ふと隣の人に目が止まる。
「ぇ、あ……ぇ、?」
誰にも聞こえない声の大きさで困惑を少しでも隠す。
でも、やっぱりすぐ気づかれてしまうもので
「ん、?」
「ぁっ」
急いで口を手で塞いで前を見るも怪しまられたようで声をかけられる。
「あの、」
「ひゃいっ!?」
「そ、そんな驚きます?」
「す、すみませ……」
やばい。
本人だ。
あの人だ。
俺の、
運命の人だ。
珍しく眼鏡はOFFらしくコンタクトでもつけてるのだろうか。眼鏡の下の顔を見たかったとはいえこんな場所で見れるだなんて思うわけないだろ!!!
「えと、俺の顔になんか……あります?」
「はい!?」
「ちょ、うるさ……」
「ぁ、あぁ……すみません、」
感情が昂って無理にでも抑えようとするけれど何年も追ってきた人に出会えたこの奇跡に抑えられる程の力はなかった。
「ぁー、っと……俺の、視聴者さん、?」
「は、はい…」
「……良かったら一緒に食べます?」
「え」
今なんてった?
え?
” 一緒に食べる “?
「い、いやいやいやいやいや!!!!!流石にそれは(うっしーに)迷惑じゃないですか、!?」
「あー、そうですね…(店側に)迷惑か」
ん、?なんか話噛み合ってなくね?
「 ぁや、牛沢さん、がいいなら、食べたいですけど……っていうかあってますよね!?」
「えっ、あぁ、うん。あってるよ。牛沢で。てか俺から誘ってんだから迷惑ってことはないよ」
「な、なら……お言葉に甘えて…」
やばい
笑顔が天使すぎる
何この人
俺の事もっと落としに来てない?
無自覚なんだろうけどこれは良くない
「今日はなんでここに来たの?」
「あー、」
…別に、大事でもないから言っていいか。
「俺、2年くらい勤めてた会社を辞めようと思って退職届用の袋を買いに行ったら結構時間が余ったので牛沢さんがおすすめしてたここに来まして…」
「へぇ、辞めるんだ。俺と一緒じゃん」
「え?」
辞める?
実況者?それとも介護士?
どっち?
実況者を辞められたら、
おれ、
俺……
どう_
「介護士の方な」
「あ、あぁ…」
分かりやすく、胸を撫で下ろす。
「って、俺に言っていいんですか、」
「ん?あぁ、今日かな?まぁどっかで投稿するやつで言ってると思うから大丈夫だよ」
「そ、そうですか…」
ご本人からのネタバレを食らったが、これは…
「今はまだ、俺しか知らない、?」
「視聴者の中だったらかな」
「ひぇ、」
「なに、その声」
くくっ、と笑いながら届いたカレーを食べ進む目の前の彼は、とても可愛らしくて。ハムスターのように頬が膨れていくのが本当に愛しい。
「んだよ」
「へ?」
「そ、な…まじまじ見られると恥ずいんだけど」
「あっ、すみませ_「お待たせしました〜」あ、ありがとうございます…」
可愛い、となりながら謝ると間に入るように定員がやってきてカレーが目の前に置かれる。定員の方を見てお礼を言うとその定員の視線は彼の方に行っていた。
…コイツ、うっしーの視聴者か?ブロマガも上がったの結構前だからもしかして追っかけてきた厄介なやつじゃなけりゃいいんだけど…
「いただきます」
「…」
「……?どーしました?」
「あや…ぇっ、と……なんでもない」
「……さっきの店員さんのこととかですか?」
「…まぁ」
やめやめ、と考えていたことをゴミ箱に捨てるも彼の方を見てみると少し冷や汗をかいてるように見えた。顔色も少し悪く、ご飯があと3口くらいで食べ終わるのはまだ大丈夫そうなんだが少し不安で先程考えていたことがあっていたのか、?と過剰意識してしまい、思わず声が漏れたも見事命中したらしい。言う前は濁そうとしたのかそれとも言いずらかったのか分からないが少し間があった。
「……ちょっとだけ、色々あってさ」
「…つけられてる、とかですか?」
「…それも、あるけど…」
「けど?」
厄介ヲタクだったことが少しずつわかってきて気付かずとも声色が少し悪くなってしまう。
「…変なもん、渡されたりとか。非通知で電話かかってきたりとか。そんなのが、最近1ヶ月くらい続いてて」
苦笑いをしてくる彼を目に映して、心がキュッとなる。
動画ではあんなに元気にやっているというのに、プライベートではこんなことが起きていただなんて。
「……それで、職場の場所とかバレたから、辞めてきたんだよ。最近実況者として生きていけそうだと思い始めたってのもあるけど…」
「…下手には動けないですもんね」
「まぁ、うん」
「…迷惑だったら、いいんですけど」
良くないことだって、分かってるけれど。
「俺の家、で避難しませんか」
俺はこの人を傷付けるやつを許せない。
「……は」
「良くないことだって、俺だって分かってます。だけど、やっぱりこんなのすぐ終わることでもないし、俺は、貴方の事が心配で…」
「……」
「……すみません、度が過ぎましたよね。家にこむぎくんだっているのに」
周りはガヤガヤとしているのに、この場所だけ静かに思えて、下を向いて少し体が震える。踏み込んでは行けないところまで入ってしまったような気がして、もう俺は顔が上がらなかった。
「…こむぎなら、迎えに行ったらいいだけじゃん」
「…え?」
「……俺やっぱさ、こういうの…怖いから助けて欲しいって思うけど、でもやっぱ話せなくて1ヶ月くらいずっと付きまとわれててたんだけど、見ず知らずのお前にはなんか言えちゃって」
震える声で、そう言ってくる彼は薄く涙を流していた。抱きしめたい気持ちをぐっと堪えながら、提案したものが実行することが決まった。
「そんな急いで飯食わなくても」
「待たせるのは、ちょっと性にあわないんで」
性にあわないというより待たせたくない…!
そう心の中で叫びながら胃の中にカレーをどんどん入れていった。
「…味わって食べて欲しかったけどなぁ」
「あ゛」
「まぁまた今度行こうぜ」
「え一緒に行ってくれるんですか」
「…気が向いたら」
「行けば?」と言うつもりだったのか間違えて誘いの言葉になっていた。すぐに気付いた俺は飛び跳ねるように聞くと照れ臭そうに彼は言った。友達のようで、だけどしっかり線はあって。嬉しい気持ちもありながら、心の中では分かっているせいで心から喜べなかった。
「うっわ、本当のこむぎくん…」
部屋よりも先に動画であまり見ない彼の買ってる動物に目が行き、ゲージから出してもらい、手の上に置いてもらった。黙々とご飯を食べている最中みたいで頬が愛らしい。
こういうとこも飼い主と似るんだな…
「なんだよ、その反応」
笑いながら俺がこむぎくんに触れているところを見られる。かーっ、と顔に熱が集まるがそれも微笑ましく見えたのか彼はずっと口角が上がっている。
「そ、なニヤニヤしないでくださいよ」
「なんでだよ」
「恥ずかしいんです。ていうか俺からしたら牛沢さんとこむぎくゆがじゃれてる方が見たいんですけど!」
「じゃれてる、って……まぁいいけどさ」
「え」
「こむぎ〜」
「わ、」
名前を呼ぶ声は、いつもの声より甘くて、優しい声だった。
不意にも、『俺も、呼ばれたいな』なんて思ってしまった。
俺の手の上にいたこむぎくんは彼に呼ばれ、残りのご飯を口に詰め込んでリスのように頬を膨らませながら直ぐ胸の中に飛び込んでいった。動画ではあまり見ることの出来ない日常で、俺は1秒たりとも無駄にできないと目をガン開いて脳内の保存ゾーンに保存した。
「…怖いんだけど」
「ぇあっ、すみませ…」
「てか、外さねぇの?」
「な、にを…?」
「敬語。俺だけタメとかなんか、変じゃね?」
「…いやいやいや!?!?」
思わず声を大きく出してしまって彼は体を大きく揺らしていて「す、すみませっ」と焦ってだんだん小さくなる声を出した。少し間が空くと彼はどっと時差を作りながら笑い出して俺は困惑する。
「声の大きさの差ひっど!」
そう言って笑い転げる彼を見て、ほっとした。ココ最近つけられてるせいで笑顔が少なくなってしまったんじゃないかとか、ストレスが酷くてあまりなにかする気にもなれなかったんじゃないかとか。そんなことを密かに考えていたから。
「はー、笑った笑った…こんな腹痛てぇのいつぶりだよ」
くくっ、とまだ笑いを含みながらそう言ってくる彼をもっと守ってやりたいと思ってしまった。無責任で、関係すらもないというのに。
「そんな顔してどうしたんだよ。マヌケズラ」
「酷くないですか!?」
「あ、また敬語。ほら早く外せ」
「あいてっ」
肩を軽く叩かれ笑みを零しながら反応を返す。
「時間的にももう俺ん家行った方が良いかもかな」
「んー、まぁそうかもな」
「やっぱ少し怖い、?」
「そりゃな。お前が居てくれるだけまだいいのかもだけど」
「な、そんなたらしみたいなこと言うと襲われるからな!?」
俺とかに。なんてことは流石に…
「そんなもの好きどこにいんだよ。てか名前聞いてなかったんだけど」
「ぁ、そういえばそうだった…俺の名前はキヨ」
「変な名前」
「あだ名みたいなもんなの」
「俺は…まだ流石にそこまで踏み込まれるとキチィから牛沢のままで」
「…牛沢って言いにくいから他の実況者さんと同じでうっしーでもいい、?」
「そんなビクビクしなくても怒んねぇよ。全然いいよ。寧ろそっちの方が聞き慣れてるかも」
呼び方の承諾を貰い、いよいよ俺の家に向かうことになった。こむぎくんは小さめのゲージに入ってもらい、あとは服や下着の準備をしてもらった。用意ができた頃には時計が6を指していた。冬という訳でもないからまだ少し明るいことが分かり、胸を撫で下ろす。
「あ、掃除してねぇ!」
「別にいいだろ」
「少しはマシかもだけど俺は気になるの」
「あーもうやらかしたー!」と言いながら見慣れない道を歩く非日常的な感覚が少し面白くてこんな時間がもっと続けばいいのに、なんて思ってしまう。
そんなこんなで電車に乗って俺の家に着いてしまった。軽く片付けるために『待ってて』と言いたかったが付き纏わられている人を外に1人置いておくのは気が引けたので渋々ながら家に招き入れた。
「げっ、ゴミそのまんま…」
「……なんもねぇな」
「う゛っ」
「ダンボールを机にするってどういうことだよ」
「机買ったらなんかほぼ場所を取られる気がして…あと1人だから…別にいいかなって、」
「ゴミまみれ」
「やめて!!!」
コントのようなことを繰り返しながらこむぎくんの場所を確保してゴミを捨てるのを手伝ってくれる彼。まるで同居してるように思えてしまって自惚れが過ぎると両頬をパンッと叩く。
「うわっ」
「あ、ごめん」
頬を叩いた音が、やけに部屋に響いたせいで彼はビクッとまた肩を揺らす。
「…思ってないだろ」
「思ってるってば」
そう言い返しながらも、どこか落ち着かない空気が流れる。 さっきまで笑ってたのに。 ふとした瞬間に、静かになる。
「……なぁ」
「ん?」
「今日、ここで寝てもいいんだよな」
「当たり前だろ。むしろ一人にした方がダメだろ」
少し強めに言ったせいか、うっしーは一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。
「……頼りになるじゃん」
「今さら?」
「今さら」
軽く笑い合う。
でもその笑いは、どこかぎこちない。
夜。
布団は予備もなく一つしかなくて、結局二人で適当に並んで寝ることになった。
「狭くね?」
「文句言うなら床な」
「それは嫌」
「だろうな」
暗闇の中、声だけが近い。
やけに近い距離に、心臓がうるさい。勝手に運命の人だと思っているからというのも重なって、心臓が休まる気がしない。
これ今日寝れっかな。
「……キヨ」
「なに?」
「今日さ」
「うん」
「ありがとな」
その一言に、少しだけ息が詰まる。溢れてしまいそうな涙を堪えながら、声を出す。
「……別に」
「いや、別にじゃねぇよ」
少し間があって、
「正直、結構限界だった」
「……」
「でも、誰にも言えなかった」
「……うん」
「お前に会ってなかったら、たぶんまだ1人で抱えてた」
静かな声だった。
でも、ちゃんと重さがあって。
「……じゃあ、会えてよかったな」
やっと絞り出した言葉に、
「……あぁ」
短く返ってくる彼の言葉は、どこか安心した様な声だった。
その翌日からだった。
“異変”がはっきり見え始めたのは。
玄関の前に、知らない袋。 中には、食べかけの菓子と、紙。
《見てるよ》
「……っ」
思わず固まる俺の横で、彼の表情が一瞬で消えた。体も動かなくて、だけど俺にできることは、
「……入ろう」
低い声だった。
昨日までの軽さが、一切ない。寂しい気持ちを持ちながら、彼の言葉を飲み込んだ。
それからは早かった。
非通知の着信は増えて。 帰り道、同じ足音が続くようになって。 ポストには、気味の悪い手紙が増えた。俺はというと無事バイトに受かり、スーパーで働きつつも夜は絶対家にいることを決めて過ごしている。
「……なぁ」
ある夜、彼がぽつりと言う。下を向いて俯きながら、震える声で。
「やっぱ俺、ここ出るわ」
「は?」
俺は思わずキレかけた声を出した。だけど、彼の口は止まる気配がない。
「巻き込みたくねぇし」
「……」
「…俺は、ここにいちゃ迷惑_」
その言葉に、頭が一瞬で冷える。
これまで俺がしてきたことは?全部偽善だとか思われてたの?
言葉を遮るように、俺は強い言い方で口を出す。
「迷惑ってなんだよ」
「は?」
「俺が嫌だって言った?」
「……そ、れは」
「言ってねぇだろ」
声が、自然と強くなる。強くしたくないのに、勝手に強くなってしまう。
「じゃあ勝手に決めんな。 俺がここにいろって言ってんだよ。俺が嫌って言ったら出てけ。それまではずっといろ」
彼が、少しだけ目を見開く。震える目で、俺を見つめる。
「……でも」
「でもじゃねぇ」
一歩、距離を詰める。
「ここいろよ。居ていい場所なんだから」
少し、俺も震えて声が出る。
縛りたいわけじゃない。うっしーだって、実況するための部屋がないから俺がバイトに行ってる間しか撮ることができなくて不便なことも、分かってる。だけど、何も変わってないこの状況であの場所に返すのは、嫌気が刺すのだ。
「……」
「俺が嫌って言うまで、勝手に出てくな」
言い切ったあと、少しだけ息が乱れる。
沈黙。
数秒してやがて、
「……っ、はは」
小さく笑う声が聞こえる。
「なに笑ってんだよ」
「いや」
少し震えた声で、彼は顔をあげる。
「そんな言い方されたら、断れねぇだろ」
「断んな」
「……うん」
その返事は、思ってたより弱くて。
だから余計、離したくなくなった。
それから数日後。
ストーカーは、あっけなく捕まった。
というより俺がうっしーの目につかないところで動いたからだけど。
近所の防犯カメラと通報が重なって、あっさり終わった。
「……終わった、のか」
「一応な」
でも、
完全に“元通り”にはならなかった。
ふとした音にびくっとするし、 夜は少し静かすぎると落ち着かない。
そんなある夜。
「……キヨ」
「んー」
「なんでさ」
「?」
「俺、あん時お前に話せたんだろうな」
「さぁ?」
適当に返しながら、少しだけ考える。出会った時のことを思い出しながら、声を出す。
「…顔じゃね」
「顔?」
「なんか、限界そうだったし」
「酷くね?」
「事実だろ」
軽く笑う。思い出して、 その流れで ぽつりと口が滑る。
「……俺さ」
「ん?」
「元々、実況者やってみたいって思ってたんだよね」
空気が、少しだけ変わる。こんな話するつもりはなかったのに、何故かボロが出るかのように口が滑った。
「へぇ」
「まぁ、無理だってやめたけど」
「なんで?やってみねぇとわかんないじゃん」
「向いてねぇかもじゃん。軽い気持ちでやるもんじゃねぇなって」
「……ふーん」
少しの沈黙。気まずくも思える沈黙を切り裂きたいと口を開くと重なるように彼は言う。
「やればいいじゃん。今からでも遅くないっしょ」
「は?」
あまりにも軽い声。
いや、お前ができるからって俺ができるわけじゃ…
「やりたいならやればいいじゃん」
「いや、いやいや」
「俺がお前の最初の視聴者になってやっからさ」
「……」
「それで十分だろ」
その言葉に、何も返せなくなる。にひっ、と笑ってくる彼の笑顔が愛おしくて、それに抵抗もできず負けてしまう俺は敵わないな、なんて思った。
数日後。
俺の動画が初めて投稿された。
再生数、12回。
コメント、2件。
『クソガキ市ね』 『いい声』
「…1個はアンチ。もう1つは、応援…」
苦しいけど、辛いけど、応援の一言で、頑張れるって思える…これ、すげぇ、
「初めての実況はどう?」
「あ、まだ全然……上手くいってない」
いつの間にか背後にいた彼に目線を移し、進捗を伝える。
「ま、最初はそういうもんだからな」
「…そうだよな。うっしーに追いつけるように頑張るわ!」
「おー、頑張れよ。あ、俺飲みもん飲もうと思ってんだけどなんかいる?」
「綾鷹!」
「好きだな、お前」
「うるっせ!」
彼はそのままコンビニに行って飲み物を買いに行った。その間に、なにかしておこうかと彼の実況部屋に足を踏み入れる。パソコンは何故か電源が入っていて、画面を見ると俺の初投稿の動画で、『いい声』のコメントにだけ色がついていた。
「…こ、れ…」
「うっしーが書いた、ってこと、?」
それが、わかっただけで嬉しくなった。憧れの実況者に、初めてのコメントをしてもらって。夢にも思わない出来事が、今でも続いていることに胸の奥が苦しくなる。嬉しいという言葉を飛び越す程、嬉しくて堪らなかった。
ある日の夜。いつも通り晩飯は食べ終わり、風呂も済ませ、あとは寝るだけになったこの時間。静かな沈黙も今では心地良く感じてただ2人でテレビやらスマホやらを見ていた。
「なぁキヨ」
「んー?」
「お前さ」
「うん」
「もう“視聴者”じゃねぇな」
「……は」
「普通に、相方」
一瞬、理解が追いつかない。彼の宣伝等によって少しずつ有名になってきた俺は、もう今では彼の視聴者とは言えない場所に居たことを彼の口から伝えられる。
「……それって」
「一緒にやってくって意味」
「……マジで?」
「嫌ならやめるけど」
「やるに決まってんだろ!!」
声デカすぎて、こむぎがビビる。
「うるせぇよほんと」
笑いながら、頭ぐしゃって撫でられる。
その距離が、もう当たり前みたいになってて。
少し間があって、うっしー がぼそっと言う。
「……あとさ」
「…?」
「逃げ場としてここに来たつもりだったけど」
「……うん」
「ここ、居場所になってるわ」
その一言で、全部報われた気がした。
今までの時間は無駄じゃなかったことが、これまでの苦労が全部、全て報われた気がした。
カメラが回る。
『うぃーす、どうもキヨでーす』
『牛沢でーす』
『今日なんですけどねぇ!』
『ついにコラボです』
『いや相方です』
『勝手に決めんな』
笑い声が重なる。
画面の向こうに広がる世界と、 隣にいる現実。 どっちも、ちゃんと掴めてる。
「……なぁ」
「ん?」
「出会えてよかったわ」
「……遅ぇよ」
ちょっとだけ照れた声で、
でもちゃんと返してくる。
夢だと思うこの時間。これまでの時間。だけど嘘じゃなくて。夢でもなくて。
ちゃんと今、隣に居る。
『出会えた奇跡ってすげぇな』
ぽつりと零されたその言葉に、
『ね。俺ら運命の人だったり?』
なんて、軽く俺は言葉を返す。
『それは恋愛の方だろうがよ』
笑いながら、そう返してるくせに、 否定しきれていない顔をしていて。
『でもまぁ? あながち間違ってはないんじゃね?』
『え』
『…相方として、な』
一瞬、言葉を理解できなくて固まった後、
『……っ、はは』
隣でいつも聞く笑い声が聞こえる。からかわれたとわかったけれど、それすらも嬉しくて。
今は、この距離でいたい。この距離でいい。心地よくて、ずっと居たいこの場所。
画面を挟む距離だったのに、
今じゃ隣で、ここにいる。
手を伸ばせば触れられる場所に、
あの日、画面越しでしか見てなかった人が隣いる。
「な、キヨ」
「何?」
「これからも、よろしくな」
「……今さらだろ」
軽く肩ぶつけながら言うと、
「確かに」
って笑って、 またうっしーは俺の隣に並ぶ。
” 運命の人 “なんて、そんな大げさなもんじゃないかもしれない。
それでも、
遠回りしてでも出会えたこの関係は
きっと、 それに近い何かだと思う。
初めて出会った時に抱いた気持ちにはいつか伝えれたらと扉をして、いつか『 TOP4 』ができる話。
扉をした気持ちを伝えて結ばれる話は、また別の話。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
初めて出した案を書いていたらどんどん月日が経ってしまいました…本当に申し訳ありません…💦
もう1つの垢と書き方はほぼ変わってないと思うので見にくい、ことは無いと思いたいです……
こんな感じで🐱🐮等を投稿していくのでこれから宜しくお願い致します🙇♀️
あと、いいね&コメントたくさん下さい……🤲
もう1つの垢、休止した理由に過疎化も入ってたと思うので…沢山喋りたいんです…😖
初期案 ⬇
us ↬介護士 ky↬公務員
rtさんの実況で実況者というものに出会う。(ky)この世界線とは違って「…こんな軽い気持ちでこれからのことを決めるのはやめよう」で公務員の道へ。それでもrtさんの実況は見続けていた中、就職の大変さに襲われながらrt,us,gtの3人実況が行われ始める。そこでusと出会い、「運命の出会いをした」と心打たれusの動画を追いかけ始める。やっと就けた仕事場は1、2年程北海道でいれたものの東京に行ってくれと言われ、転勤を突然押し付けられた。疲れながらも東京での生活を続けていると電車でusの姿を見つけてヲタクのようになる。(?)
色々右に曲がったり左に曲がったりしてます。
全然初期案に沿ってないですね…
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