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「はふぇっ!? ア、アック様!?」
寝惚けながらおれの足にしっかり狙いを定めているとは驚きだ。
「つぅぅ……早く足から離れてくれ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「わ、分かったから。な、泣くな……お前も無事で良かった」
「ふぐっ……ア、アッグさまあぁぁ」
「アック、アック……ウニャゥゥ~」
ううむ、これはどうしたものか。シーニャの爪が背中に引っかかっていて離してくれそうにないし、ルティは足下で大泣き。これでは感動の再会というより、おれにも責任があるだけに厳しくも出来ない。
そんなおれたちの再会に、シャトンとセゴンもあっけに取られていて声もかけづらそうだ。
「あらあら、何の騒ぎかと思えば、ルティとシーニャでしたかしら?」
ルティの泣き声もそうだが、人の少ない村で大騒ぎをしていれば何事かと注目されてしまう。小屋の外の池でシーツを洗っていたミルシェが駆けつけるくらいに騒がしかったらしい。
「ウニャ……お前!」
「あれぇ~? スキュラさ~……むぐっ――」
「おい、ルティ!」
「あたしはミルシェ。そうお呼び頂けるかしら? ルティシア」
「そ、そうでした~えへへ」
ミルシェが来たことでルティは一瞬で泣き止み、シーニャは警戒を強めた。何であれミルシェがここにいてくれて助かった。
「アック、仲間さん大丈夫かニャ?」
「すみません、シャトン。ご心配おかけして……」
「ううむ、魚のニオイで生き返るとは何という強さなんだ。アックも強いんだろうな?」
「そんなでもないですよ、セゴン」
食い意地の張ったルティだから良かったと言うべきだろうか。
「仲間さんは小屋で休ませてあげるニャ。アックは居残りニャ! お魚釣って、スキル上げ!」
「そうします」
目覚めたばかりで二人がどういう経緯でここへ来られたか気にはなるが、ここはミルシェに任せることにする。
「ミルシェ、頼めるか?」
「お任せ下さいませ。ルティにしても、虎娘にしても綺麗に洗って差し上げますわ! もちろん小娘な剣も」
「――なの!?」
鞘に収まっているフィーサが戸惑いで震えていたが、ここは全てミルシェに預けておく。たまには単独で、というより釣りスキルを一つでも上げておきたい。
ルティたちは特に抵抗も無く、ミルシェの手で小屋に連れられて行った。
桟橋に残されたのはおれとシャトン、セゴンだけになった。仲間がいない状態になるのは初めてだが、まぁ何とかなるだろう。
「――あんな大物を釣るとは見込みはありそうだな。アック! リーダーの期待もデカいぜ!」
「期待の新人ニャ! さぁ、お魚を釣るニャ!!」
直接本人に聞いていなかったけどやはりシャトンがリーダーだった。ネコ族という外見に囚われがちではあるが、中々にしっかりした女性な気がする。シーニャと同様に小柄でも判断力や俊敏性は中々のものだ。
何より新人に手厳しい。
「アック、根気よく待つニャ! 一匹釣れたら、その度に湖に帰すニャ~」
「え? 焼いて食べないんですか?」
「滅多にそんなことしないニャ。お魚ダイスキニャ。だから帰すニャ!」
「なるほど。分かりました」
模範的なギルドリーダーのようだ。そうなるとラクルのリーダーがどんな奴なのか気になる所ではあるが。
しばらくして、おれの竿に一匹の淡水魚が引っかかっていた。それを釣り上げ、シャトンの言う通りに湖に帰そうとすると、辺りが急に霧だらけになる。
「……な、何だ? シャトン! セゴン!! この霧って――」
「アック・イスティ、南アファーデ湖村に戻るゾ。魚を離すでないゾ!」
「その声はシリュール!」
ガントレットが再生されて以降、姿を見せなかったナマズ娘だったが魚を釣ったことで再び姿を現わした。しかもおれ一人だけで亡霊のいる湖村に向かうようだ。
「アック・イスティ。着いたゾ。魚を持って、依頼を終わらせるゾ」
「……依頼? あぁ、そうか。そうだったな」
着いた先は見覚えのある霧だらけの南アファーデ湖村。しかもボートの上ではなく、岸辺に立っていた。
「お帰りなさい、アックさん。魚は釣れましたか? 気長に待っていましたが、ご無事で何より……」
宿がある小屋の方に向かおうとしたが、初老の男性がおれを出迎えた。他の亡霊村人の姿は見えず、彼だけがゆらゆらと立ったままだ。
「すみません、一匹だけなんですが……これで大丈夫ですか?」
手にした魚を差し出すと、男性は深くお辞儀をして静かに消えてしまった。
これは何とも不思議な体験だ。沈んだ湖村の償いに魚を返したことになるのか?
「アック、忘れ去られた湖村の呪縛、解き放たれたゾ。感謝するゾ……」
「シリュールも、ここで消えるとかじゃないよな?」
「余はアックの力。釣りスキル、思いきり上げてやったゾ!」
「思いきり上がった!? え、ここからどうやって戻るんだ?」
「……目を閉じ、開ければ驚かれるゾ。心配するナ」
よく分からんが、言われた通りに目を閉じた。
そして、
「ニャニャニャ!? ア、アックの釣りスキルがスゴイニャ!! ど、どうやったニャ!?」
「――ん……? あれ? シャトン? スキルが何ですか? というか見えるんです?」
「もちろんニャ! ギルドメンバーになれば、メンバーのスキルはどこにいても見えるニャ!」
「なるほど。それで、おれのスキルは?」
【獅子の泉《レオーネ・フォンス》メンバー アック・イスティ 釣りスキル39】
「ニャ! スゴイニャ~!」
「え、これ、このメンバーの名前って……」
「もちろんギルドに決まっているニャ!」
これがギルドメンバーの証か。他の合成ギルドとかも名前があれば、名前で決めておきたいところだな……。彼女たちが落ち着いたらラクルにでも戻ってみるか。