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「――という訳でラクルに戻ることにするぞ。戻って来たミルシェにも部屋を割り当てたいしな」
ミルシェのおかげで、シーニャとルティ、おまけにフィーサまでもが綺麗に洗われていた。ルティの赤毛は一層の明るさを取り戻しているし、シーニャのモフモフも完全なものだ。
シーニャの警戒心は最初解けていなかったらしいが、ミルシェに逆らえない空気を感じて今はすっかりと大人しくなっている。
「アックさん! ラクルに帰られるそうですね」
小屋の前にいた村長であるラーシュに声をかけられた。おれはラーシュにだけ、旧湖村のことをそれとなく教えておいた。おれの話を聞いた彼は、何度か頷き何かを納得していたようだった。
「帰るというか戻ると言うべきか……それより、ギルド加入の件をありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそですよ! もちろん他のギルドに入って頂いても問題ありませんので、今後も釣りを頑張ってください!」
「そうですね、そうします。また寄りますんでその時はまた!」
「お待ちしています」
釣りギルドの面々はスキルアップでメンバーの居場所が分かるらしく、特に別れの挨拶はしなかった。村長以外の人とはほとんど関わらなかったが、また来た時には話も聞けるはずだ。
ミルシェが馴染んでいた湖村ではあったが、そんな彼女も軽い挨拶を済ませていただけだった。
おれたちは東アファーデ湖村を後にして、いよいよラクルへ向かう。
ラーシュ村長に聞いていたとおり、ラクルへは歩いて一時間もかからなかった。東の海岸沿いを歩いていた途中、かつてミルシェがいた海底神殿らしき残骸が沈んでいたのが見えた。彼女を救い出すためだったとはいえ、何とも言えない時間が流れた。
しかしミルシェ自身は、吹っ切れた表情を見せてくれたので気に病むことは無かった。
そうこうしているうちに久々のラクルに到着する。外から見える限り頻繁に船が入出港しているだけで、大して変わっていないようだった。
「ウニャ、着いたのだ?」
「そうだと思いますよ~! アック様、お先に行ってていいですか~?」
「わらわも行くなの~!!」
「待った! フィーサ、おれの手を握れ」
「え? 急にどうしたなの?」
万が一の場合もある。せめてフィーサだけでも準備をさせておかなければ。
「おれたちの倉庫に防御魔法をかけてあるんだ。解錠出来るようにするから手を貸してくれ」
「はいなの!」
「よし……、手を離していいぞ」
念には念を入れておいたが、たとえSランク冒険者だろうが侵入はされていないはずだ。
用心したところで、シーニャを先頭に彼女たちは拠点でもある倉庫に嬉しそうに走って行く。ラクルに入る手前の外に取り残されたのは、おれとミルシェだけだった。
これには理由がある。
「……ふぅ。アックさまも大変でしたのね」
「ミルシェ……いや、シーフェル王女としてどうだったんだ?」
ミルシェとしての強さなんかを確かめたい気持ちがあったからだ。
「何もありませんわね。あたしはご存知の通り気ままな水棲怪物。人間の為にどうこうするつもりなんて、ほとんど無かったですわ」
「そうだろうな。でも、王国は救えたんだろ?」
「それもほとんどアックさまのおかげですわよ」
「え? おれは何もしてないぞ?」
「デーモン族が大量に飛んできましたわ。あんなのを寄越すなんて、あなたさましかいませんもの」
そういえば命令を解除していなかったが、勝手に帰ったんだろうか。そもそも水棲王女を救えとしか言っていなかったし、多分大丈夫なんだろう。
「――それで、この場にあたしだけを残すのはどういう意味があるのですか?」
彼女の強さを測ろうと思ったが、その前に魔石に触れさせてみることにした。専用魔石の数を数えれば、残りはルティとミルシェで間違いないからだ。
おれはトラウザーに守られた魔石を取り出し、彼女に見てもらった。
「魔石? 何も見えない……これは一体?」
「専用魔石だ。すでにシーニャとフィーサが魔石によって成長を遂げている。ルティはまだだけどな」
「成長を? その魔石があたしの専用になると?」
「名前こそまだ現れていないが、間違いないとおれは思っている。触れてみてくれないか?」
「え、ええ……アックさまが言うなら」
水棲怪物の時は魔石自体にあてられて精神が不安定になっていた。しかし、本来の力を失った今なら魔石に触れても問題は起きないはずだ。
「ううっ――!?」
何かに反応したのか、彼女は魔石を地面に落とす。
「ど、どうした? 何か……」
「いえ、少し熱さを感じただけですわ」
「おれが拾っても?」
「もちろんですわ。何が見えるのかを知れるのは、アックさまだけですもの」
専用魔石だった場合は彼女にも見えるはず。とりあえず魔石を拾うと、魔石から見えた名前が浮かび上がる。
【ミルシェ・オリカ 防御魔法に特化 潜在:主に依存】
「……おれは見えたが、ミルシェにも見えた?」
「そ、そうですわね。よく分かりませんけれど、新たな名前なんて今さらですわ……」
「それは……」
とにかくこれで後はルティだけということになった。ミルシェの専用魔石がラクル近くで確定するという予感は、何となくあった。しかしそうなると、ルティは一体どこになるのか。
成長条件は不明だが、ミルシェの専用魔石で間違いないようで安心だ。