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三年の教室は、甘い匂いとざわめきで満ちていた。
黒板には手書きのメニュー表、机はすっかりカフェ仕様。
文化祭当日、みことのクラスは予想以上に繁盛していた。
👑「はぁ……なんか、全部ちゃんと回ってるの見ると安心するね」
カウンターの外で、みことは小さく伸びをする。
準備期間はほぼ仕切り役みたいな立場で動き回っていた分、本番はぽっかり手が空いていた。
🍵「ほんとだね。みこちゃん、準備のとき大変そうだったし」
いつもの穏やかな声に、みことはほっと息をついた。
👑「今日はもう、すちくんは自由なの?」
🍵「うん。俺の当番はもう終わり」
👑「じゃあさ、せっかくだし……座ってこ?」
みことはそう言って、空いている席を指す。
二人は並んで椅子に腰掛けた。
教室の中は相変わらず忙しなく、人の出入りも絶えない。
それでも、この席だけ少し切り取られたみたいに落ち着いていた。
👑「すちくんのも美味しそうやね」
みことは、すちの手元にあるカップを覗き込む。
ふわっと立ちのぼるミルクと紅茶の香り。
🍵「よかったら、一口いる?」
すちはそう言って、自然な動作でカップを差し出した。
……言ってから、内心で少しだけ後悔する。
👑「ええの、?じゃあお言葉に甘えて……」
みことは嬉しそうに受け取って、何の迷いもなく口をつけた。
👑「ん、おいしい!やさしい味する」
満足そうに笑って、カップをそのまますちに返す。
その瞬間、すちの視線が、カップの縁に止まった。
__今、そこに。
思考が一瞬フリーズする。
自分がさっき口をつけた場所。
みことは、まったく気づいていない顔でいる。
🍵「……」
何事もなかったふりをして、すちはカップを受け取った。
でも、次の一口がやけに遠い。
🍵(……これ、間接……)
意識した途端、耳の奥がじんわり熱くなる。
なのにみことは、平然と自分のコーヒーを飲んでいる。
🍵「 … みこちゃん、コーヒーどう?」
👑「んー?すっごいおいしいで」
笑いながら言うその顔が、やけに近い。
すちは結局、さっきと少し位置をずらしてカップを口に運んだ。
味は変わらないはずなのに、
心臓の音だけが、やたら大きい。
🍵「……文化祭、来てよかったな」
ぽつりと漏らすと、みことはすぐに頷いた。
👑「うん。こういう時間、いいよね」
何気ない一言。
でも、すちにはそれが特別に聞こえてしまう。
🍵(……なんで、こんなに意識してるんだろ)
みことは何も知らないまま、楽しそうに笑っている。
それが、少しだけずるい。
教室のざわめきの中で、
すちだけが一人、カップ一つ分の距離を気にしていた。