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「大丈夫だからね、さっきのお兄ちゃんがお母さん探してくれるからね」
「……うん」
尚も泣き止まない男の子に、台湾人の若い女性がティッシュをわけてくれた。
麗は謝謝と言って受け取り、男の子の顔を拭いてあげる。
すると今度はおじさんが飴玉を男の子に渡そうと見せたり、おばさんが水はいらないかと買ったばかりのペットボトルを渡そうとしたり、別のおばさんが男の子を団扇で扇いであげだした。
台湾は親切な人が多い。と、驚きつつも、男の子と同様に麗も本当は不安だった。
明彦に借りた腕時計を、時が速く進むわけでもないのに、チラチラと何度も見てしまう。
この旅行で如何に自分が明彦に頼りきっていたか麗は思い知った。
言葉が通じないと言うのはこうも孤独なものなのか。
(もし、アキ兄ちゃんが10分たっても帰ってこなかったらどうしよう? 30分いや一時間くらいはここで待つべきやろうか。最後は大使館に助けを求めに行くとして、大使館ってどこ? そもそもあるんかな?)
「……ママ」
麗は涙が引いてきた男の子の声に思考が極端な方に飛んでいたことに気づく。
「もうちょっと待っててね。そうだ、お水もらう?」
麗はおばさんが差し出してくれている水を指差すが、男の子は首を振った。
「ううん」
すると、日本で人気のアニメに出てくるキャラクターのキーホルダーを青年がpresentと言って、男の子に渡した。
「これ知ってる! ありがとう!!」
「よかったね」
男の子にやっと笑顔が出てきて麗も周りにいる台湾の人達もほっとした。
「陽ちゃん!!」
「陽一!!!」
少し離れたところから声がして、男の子の親と明彦が走ってくる。
「ママ! パパ!!」
男の子も両親の元へ駆け出し、母親に抱きついて泣き出す。
(よかった。見つかった)
胸を撫で下ろしていると、明彦が麗の元へ帰ってきた。結構走っただろうに、息一つ乱していない。
「探すの大変やったやろ?お疲れ様」
「いや、結構すぐ見つかった。親も子供の名前を大声で呼びながら探していたみたいで、あっちで子供を探してる様子の親を見た、ってわざわざ声をかけてくれる人が何人かいたから、その方向に行けば会えた。優しい人が多くて助かった。麗こそ、一人でよく頑張ったな」
「一人じゃなかったよ。周りにいた皆で見てたから全然平気やったわ」
異国の地の人混みの中で親を見つけたのだからもっと自画自賛すればいいのに。麗ならする。
「本当にありがとうございました。僕がちょっと目を離したばっかりに、すみません」
「奥様が預かって下さっていると旦那様が声をかけて下さって。奥様もありがとうございました」
夫婦は子供をしっかりと抱き抱えながら何度も頭を下げてくれた。
「いえ、私は一緒にいただけで何もしていないので……。むしろ周りにいてくれた人達の方が面倒を見てくれたくらいで」
麗がそう言うと、母親はペコペコと男の子を見守っていた人達に頭を下げだした。
皆一様に、OK、OKと笑って泣きそうな母親を慰めている。
「本当に助かりました。旦那様も奥様もご迷惑をおかけしてすみませんでした」
尚も頭を下げる父親に明彦は軽く頭を下げ、麗の手を繋いだ。
「お気になさらず。我々はこれで失礼しますので」
「いえ、そんな!」
「あの、あちらの青年がお子さんにキーホルダーをプレゼントしてくれましたよ」
麗は、青年を生け贄に捧げた。
今度は青年が父親に何度も頭を下げられて居心地が悪そうだ。
「今のうちに行こうか」
「うん」
麗は新たな行列を探しに明彦と歩きだした。