テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第2話 〚高嶺の花と、ヴァルナの花嫁〛
昼休みの教室は、少し騒がしい。
男子は廊下でふざけ、
女子は机を寄せて固まっている。
その一角。
窓際の後ろから二列目で、
三人の女子が小声で盛り上がっていた。
「ねえ、最新話見た!?」
村上えま(むらかみ えま)が、身を乗り出す。
「見たに決まってるでしょ」
石田しおり(いしだ しおり)は、眼鏡を押し上げながら真顔で答える。
「ヴァルナ様、完全に闇堕ちフラグ立った」
「いやいや、あれは一周回って覚悟決めた顔!」
河野みさと(こうの みさと)が、パンをくわえたまま言う。
「花嫁守るために世界敵に回すタイプ!王道!」
「分かる〜!」
えまが机を叩く。
「しかも花嫁側が“予言の力”持ちなのが最高」
その言葉に、
少し離れた席にいた白雪澪の手が、ぴたりと止まった。
(……予言)
聞こえないふりをしても、
耳は勝手に拾ってしまう。
「でもさぁ」
みさとがニヤッと笑う。
「あの花嫁、絶対自分が未来見えてるの黙ってるよね」
「それな」
しおりが頷く。
「一人で抱え込むタイプ」
えまが、ふっと真剣な顔になる。
「でもさ」
「誰かが隣に立ってくれたら、変わると思わない?」
澪の胸が、きゅっと縮む。
(……やめて)
まるで、自分のことを言われているみたいで。
「澪」
えまが振り返る。
「ヴァルナの花嫁、見てる?」
一瞬、答えに詰まる。
「……少しだけ」
「でしょ!」
みさとがすぐ食いつく。
「絶対好きだと思った!あの静かな感じ!」
澪は、困ったように笑う。
「花嫁、どうなると思う?」
えまが聞く。
澪は、答えられなかった。
(……結末、知ってる)
予知じゃない。
でも、未来を見る力を持つ澪には、
あの花嫁の気持ちが痛いほど分かる。
「……幸せになると思う」
小さな声で、そう言った。
「お、それ珍しく前向き」
しおりが少し驚く。
「だって」
澪は、言葉を探しながら続ける。
「一人で見る未来より……誰かと選ぶ未来の方が、強いから」
三人は、一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「なにそれ、名言じゃん」
みさとが言う。
そのとき。
澪の視界が、ふっと歪んだ。
――放課後。
――夕焼けの階段。
――橘海翔。
(……また)
見えた未来は、昨日と同じ。
予知は、外れない。
「澪、大丈夫?」
えまが心配そうに覗き込む。
「……うん」
澪は、ノートを閉じた。
(私は、花嫁みたいにはなれない)
そう思いながらも。
胸の奥で、
小さな変化が起きているのを、
澪自身が一番分かっていた。
――未来を見ているだけじゃ、だめだ。
物語は、
一人じゃ進まない。
コメント
1件
第3、4話を1月18日に公開します