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#微糖
# 第十二・五話 『先生じゃない先生』
*――アルフレッド視点――*
正直に言う。
今日の授業は、全然頭に入らなかった。
……いや、違う。
授業はちゃんと聞いてた。
でも。
「なんでリュシアンが前に立ってるんだ?」
そのことばかり考えていた。
◇◇◇
小さい頃から、リュシアンはすごかった。
剣は苦手だけど。
魔法は誰よりも上手。
難しい本も読める。
大人とも普通に話す。
だから首席なのは納得だ。
でも。
(講師補佐って何!?)
昨日聞いても、まだ信じられない。
しかも本人は、
「補佐だから。」
としか言わない。
(そこじゃないんだけどなぁ。)
◇◇◇
授業が始まる。
リュシアンが教壇の前に立つ。
背はそんなに高くない。
先生よりずっと小さい。
なのに。
「リュシアン・アルヴェインです。」
「よろしくお願いします。」
その一言だけで。
教室が静かになった。
(……なんで?)
怒ってるわけでもない。
大きな声でもない。
でも自然と聞いちゃう。
不思議だ。
◇◇◇
「質問です。」
「魔力が多ければ、強い魔法使いでしょうか。」
みんなが考え始める。
(えーっと。)
(多い方が強い……よね?)
そんなことを考えていると、エリスくんが答えた。
「強い魔法が使えると思います。」
「半分正解です。」
リュシアンは静かに頷く。
怒らない。
否定もしない。
ちゃんと認めてから話す。
(そういうところ、昔から変わらない。)
◇◇◇
黒板に文字が書かれていく。
しかも。
リュシアン、チョークを持ってない。
(浮いてる!?)
無詠唱。
しかも魔力操作だけで文字を書いてる。
先生も何も言わない。
というか。
先生が授業を見てる。
(先生が先生を見てるみたい……。)
ちょっと面白かった。
◇◇◇
「魔力量は器。」
「制御は技術。」
「どちらも大切です。」
短い。
でも分かりやすい。
リュシアンって。
昔から説明が上手だった。
僕が魔法を失敗すると、
「ここ。」
って一言だけ教えてくれる。
それだけでできるようになる。
不思議なんだ。
◇◇◇
でも。
授業中。
一回だけ気になったことがある。
リュシアンは。
一度も笑わなかった。
優しい声。
穏やかな表情。
いつも通り。
……なのに。
(笑ってない。)
昔。
一緒に雪で遊んだ時。
僕が転んで。
リュシアンは笑ってた。
薬草を育てて。
花が咲いた時も笑ってた。
最近は。
あんまり見ない。
(疲れてるのかな。)
そう思った。
◇◇◇
授業が終わる。
僕はすぐ駆け寄った。
「すごかった!」
本当にそう思った。
先生みたいだった。
でも。
「補佐。」
って返される。
「同じだよ!」
「違う。」
真面目な顔。
やっぱりリュシアンだ。
◇◇◇
そのあと。
ノエルが話しかけてきた。
「説明不足。」
あんな言い方なのに。
リュシアンは、
「確かに。」
ってすぐ認めた。
(えっ。)
(怒らないんだ。)
普通なら、
「生意気だ。」
って言う先生もいる。
でもリュシアンは違う。
「次から追加する。」
それだけ。
ノエルも嬉しそうじゃない。
でも。
少しだけ安心した顔をしていた。
(あの二人って。)
(なんだか変な組み合わせだな。)
◇◇◇
帰り道。
僕は一人で歩きながら考えていた。
リュシアンは。
誰よりもすごい。
誰よりも優しい。
だからみんな頼る。
でも。
(リュシアンは。)
(誰に頼るんだろう。)
その答えが分からなかった。
振り返る。
校舎の窓。
そこには。
一人で教材を片付けるリュシアンの姿が見えた。
また一人。
また誰も手伝わせない。
胸が少しだけ苦しくなる。
(……今度。)
(一緒に帰ろう。)
それくらいなら。
幼馴染の僕にも、できるはずだから。
-–
**第十二・五話 『先生じゃない先生』 終**
コメント
1件
もう、胸がぎゅっとなりました……。 リュシアン、講師補佐としてすごく的確で頼もしいのに、一度も笑わなかったっていうアルフレッドの視点が効いてますね。本人は気づかれないようにしてるんだろうけど、昔からの幼馴染だからこそ見える“違和感”が切ない。最後の「誰に頼るんだろう」で、僕も一緒に切なくなりました。教材を片付ける背中、今度こそ声をかけたいな……。