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# 第十三話 『一人で抱える癖』
放課後。
授業を終えた生徒たちは、それぞれ部活動や寮へ向かっていた。
校舎には、昼間の賑やかさが少しずつ消えていく。
魔法学基礎の教室だけが、まだ静かに灯りをともしていた。
カタン。
リュシアンは教卓の上に積まれた教材を、一冊ずつ丁寧に揃えていく。
授業で使った資料。
魔法陣の見本。
教師用のノート。
チョーク。
魔力結晶。
どれも元の位置へ戻していく。
(終わった。)
(今日は質問も多かったな。)
静かに息を吐く。
教師は途中で職員室へ呼ばれたため、片付けは自然とリュシアンが引き受けていた。
別に嫌ではない。
昔からそうだった。
誰かがやる前に、自分がやる。
そのほうが早い。
そのほうが迷惑をかけない。
だから――。
「……重い。」
教材の入った木箱を持ち上げる。
十三歳には少し大きい箱だった。
それでも表情一つ変えずに歩き出す。
◇◇◇
「……やっぱり。」
廊下の角から、小さな声が聞こえた。
アルフレッドだった。
その隣にはレオンハルト。
少し後ろにセシル。
さらに柱にもたれかかるノエル。
四人とも、なぜか帰っていなかった。
「一人でやってる。」
アルフレッドが呟く。
レオンハルトは眉をひそめた。
「最初から手伝わせる気がない。」
セシルも静かに頷く。
「いつものことです。」
ノエルだけは木箱を見つめていた。
「重量、およそ二十五キロ。」
「魔力補助あり。」
「でも腕に負担はある。」
分析だけしている。
◇◇◇
リュシアンは教材庫へ向かう。
その途中。
「リュシアン!」
アルフレッドが駆け寄ってきた。
「手伝う!」
「大丈夫。」
「でも重いでしょ!」
「平気。」
「僕も持つ!」
「大丈夫。」
また同じ返事。
アルフレッドは困ったように笑った。
「大丈夫って、そればっかり。」
リュシアンは少しだけ目を伏せる。
「……本当に平気だから。」
すると。
ひょい。
木箱が軽くなった。
いや。
半分消えた。
レオンハルトが片側を持ち上げていた。
「レオン?」
「黙って持て。」
「でも。」
「運ぶ。」
一言だけ。
それ以上は聞かない。
リュシアンも無理に取り返そうとはしなかった。
二人で木箱を運び始める。
◇◇◇
その後ろを歩きながら、セシルが静かに言う。
「あなたは。」
「どうして全部一人でやろうとするのですか。」
リュシアンの足が少し止まる。
「……癖。」
「癖ですか。」
「うん。」
それ以上は言わない。
セシルは少しだけ寂しそうに笑った。
「困りましたね。」
「その癖。」
「誰もあなたを頼れなくなります。」
リュシアンは返事をしない。
ただ前を向いて歩く。
◇◇◇
教材庫。
木箱を棚へ戻す。
カタン、と音が響く。
「終わり。」
リュシアンが呟く。
その瞬間。
後ろからパチパチと拍手が聞こえた。
ノエルだった。
「片付け終了。」
「効率、九十八点。」
リュシアンは振り返る。
「……二点は?」
「最初から四人使えば百点。」
即答だった。
アルフレッドが吹き出す。
「あはは!」
「確かに!」
レオンハルトも腕を組む。
「正論だ。」
セシルは苦笑した。
「珍しく、ノエルに賛成です。」
リュシアンだけが、小さくため息をつく。
「みんな、大げさ。」
「大げさじゃない!」
アルフレッドは少しだけ真面目な顔になる。
「リュシアン。」
「僕たち、幼馴染だよ?」
「困ったら頼ってよ。」
その言葉に。
リュシアンの胸が少しだけ痛む。
(頼れない。)
(頼ったら。)
(みんな巻き込む。)
心の中だけで呟く。
表情は変えない。
「ありがとう。」
それだけ言って笑った。
優しい。
いつもの笑顔。
でも。
その笑顔を見たセシルは、ほんの少しだけ目を細めた。
(……また。)
(その笑顔ですか。)
優しい笑顔ほど、彼が何かを隠している時に見せるものだと、セシルは幼い頃から知っていた。
けれど、それ以上踏み込むことはできない。
まだ、その理由を知らないから。
夕日が差し込む教材庫。
五人の影が長く伸びる。
誰も気づいていない。
この何気ない時間が、いつか彼らにとって、かけがえのない思い出になることを。
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**第十三話 『一人で抱える癖』 終**
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コメント
1件
読んだよ〜!!😭💕 リュシアン、マジで「一人で抱える癖」が痛いほど伝わってきた…「大丈夫」「平気」って連発するところ、幼馴染たちが心配して駆け寄るのに、逆に胸がギュッとなる😢 セシルの「誰もあなたを頼れなくなります」って言葉、めっちゃ刺さった…それに気づいてるのがまた切ない。 ノエルの「最初から四人使えば百点」には笑ったけど、その後のリュシアンの「頼れない。みんな巻き込む」って内心がもう、ね…😭💔 優しい笑顔の裏に何隠してるんだろう。次が気になりすぎる〜!!🔥