テラーノベル
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花鈴は会社の中に戻ると、透也の席に行った。
「あ、麻藤君っ!」
透也は振り向いた。
「何ですか?」
「えっと、その…さっきは、ありがと」
花鈴は赤くなった顔を隠しながら、自席に戻った。そんな花鈴を見て、透也も少し微笑んだ。
「先輩…可愛いっ」
透也は呟いた。まさか、この会話の一部始終を実愛が聞いていたとは、誰も知らないだろう。
「あーさふじくんっ」
実愛が透也に話しかけた。花鈴は作業の手を止め、パソコンの横からこっそり覗く。
「この資料の整理、全部よろしくねー」
「え……」
「じゃ、頼んだよー!」
実愛はそのままどこかに行ってしまった。花鈴と瀬夏は、無意識のうちに透也の席に来ていた。
「先輩……。僕、こんなに膨大な量、整理できません……!」
「分かってる。さっきの、ちゃんと見てたもん」
「分かってるなら手伝ってください!」
「そのために来たんだって」
花鈴と瀬夏は、透也の席に置かれた書類を手早く整理した。そのスピードに、透也も驚いていた。
その時、唐突に部長が入ってきた。
「皆、緊急事態だ」
部長の珍しく緊張した声に、周りはざわついた。
「たった今、社長から倒産の危機を命じられた」
周りはより騒がしくなった。
「……絶対嘘だ」
「え?」
瀬夏がそう呟いたので、花鈴は呆気にとられてしまった。
「あ…、何でもない」
「でも、嘘としか思えないのは私も同感。この前なんか、社長に損益計算書でサバ読まれたもん」
「その時は僕と部長が助けました!」
透也は自信満々に告げた。
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