テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あれから、5年。佐野勇斗は、誰もが知る人気アイドルグループの中心メンバーになっていた。
テレビ、映画、雑誌、ライブ。
忙しい毎日を送る彼の姿は、かつて夢を語っていた高校生の頃とは、比べものにならないほど輝いていた。
一方、吉田仁人もまた、別の人生を歩んでいた。
大学を卒業後、芸能事務所に就職。
最初は事務職として働いていたが、現場でタレントを支える仕事に興味を持ち、マネージャー職への異動を希望した。
そして、入社3年目の春。
仁人は新しい担当案件を言い渡された。
「吉田くん、ちょっといい?」
💛「はい!」
上司に呼ばれ、仁人は資料を持って会議室へ向かった。
「来月から、担当を一つ増やしてもらいたいんだ」
💛「担当、ですか?」
「そう。今度、うちの事務所の大型案件で、人気グループのサポートに入ってもらうことになった」
俺は頷きながら、資料を受け取る。
「メインのマネージャーと一緒に、現場のスケジュール管理や連絡調整をお願いしたい」
💛「わかりました」
「ちなみに、担当するのは……」
資料をめくった手が止まった。
そこにあったのは、見慣れた名前。
佐野勇斗。
一瞬、息ができなくなった。
💛「……え?」
「知ってるよね? 今かなり忙しいから、しっかりサポートしてあげて」
資料を見つめたまま、しばらく動けなかった。
💛「……はい。頑張ります」
それだけ答えるのが精いっぱいだった。
初出勤の日。
俺は朝から落ち着かなかった。
鏡の前でネクタイを整え、何度も深呼吸をする。
もう、あの頃の自分ではない。
恋人だった頃のように、気軽に話しかけることもできない。
今の自分は、仕事として彼を支える立場だ。
💛「……大丈夫」
💛「もうとっくに終わってる…」
そう言い聞かせ、現場へ向かった。
撮影スタジオ。
スタッフたちが忙しそうに動き回る中、仁人は担当マネージャーの隣で資料を確認していた。
「佐野さん、そろそろ入り時間です!」
その声と同時に、廊下の向こうから数人のスタッフが歩いてくる。
その中心にいたのは、勇斗だった。
以前より少し大人びた顔。
落ち着いた雰囲気。
それでも、笑うと目が細くなるところは、何も変わっていない。
🩷「おはようございます!」
明るい声が響く。
思わず顔を上げた。
そして、目が合った。
勇斗の足が止まる。
ほんの一瞬。
周囲の音が遠のいたような気がした。
🩷「……仁人?」
俺は、資料を握る手に力を込めた。
💛「……おはようございます、佐野さん」
🍎
6,580
アイ
11,565
その言葉に、勇斗の表情がわずかに変わった。
🩷「……え?」
💛「本日から、現場のサポートを担当します。吉田です。よろしくお願いします」
深く頭を下げる。
勇斗は、何も言わなかった。
隣にいたメインマネージャーが不思議そうに二人を見る。
「知り合い?」
一瞬の沈黙。
勇斗は、ゆっくりと笑った。
🩷「……昔、同じ学校だったんです」
💛「……はい」
「そうなんだ。じゃあ、話も早そうだね」
仁人は笑顔で頷いた。
けれど、勇斗はその笑顔が、どうしようもなく苦しかった。
撮影の合間。
俺は次の現場の資料を確認していた。
そのとき、背後から声がした。
🩷「……仁人」
振り返る。
勇斗が立っていた。
💛「どうしました?」
🩷「……ちょっと話せる?」
一瞬迷った。
けれど、周囲にはスタッフもいる。
💛「業務の確認でしたら、こちらで大丈夫です」
勇斗は小さく息を吐いた。
🩷「……そういうことじゃなくて」
💛「……」
🩷「久しぶりじゃん」
少しだけ笑った。
💛「そうですね。お久しぶりです」
🩷「……元気だった?」
💛「はい。佐野さんも、お元気そうで」
勇斗は、思わず視線を落とした。
その呼び方。
昔は、何度も自分の名前を呼んでくれた。
「勇斗」と。
あの声で。
あの距離で。
なのに今は、まるで他人みたいだった。
🩷「……仁人」
💛「はい?」
🩷「俺のこと、そんなふうに呼ぶんだ」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
💛「……仕事ですから」
その返事に、勇斗は何も言えなくなった。
💛「私情挟んでも、仕事に支障をきたすので」
頭を下げて衣装係担当の方へ向かった。
🩷「仁人、…」
next↪︎
コメント
1件
みぅ🤍🥀です…。 第8話、読ませていただきました。 5年ぶりの再会、しかもマネージャーとアイドルとしての“仕事”での再会……もう最初から胸がきゅうってなったよ💦 「佐野さん」って呼ぶ仁人の声が、すごく遠くに感じられて、勇斗くんの「俺のこと、そんなふうに呼ぶんだ」って言葉に全部の想いが詰まってる気がした。 仕事だからって線を引くの、わかるけど……あの一瞬の間とか、目が合ったときの空気とか、すごくリアルで苦しかった。 次、どうなっちゃうの…? すごく気になります。続き、ちゃんと受け取らせてください🌙