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萌夏ちゃんが行方不明になったのに、遥は仕事に戻ってきた。


「本当に大丈夫ですか?」

いつものように朝のコーヒーを入れ、また同じ言葉をかけてしまう。


「しつこい」

「すみません。でも、」

心配だから、黙ってはいられない。


「今どこにいるのかはわからないんですよね?」

「ああ」


萌夏ちゃんの無事が確認できたと聞いたのは昨日。

場所は言えないけれど、都内の親せき宅にいるんだと連絡があったらしい。


「いいんですか?」

そんな電話一本で、放っておいて大丈夫なんだろうか。


「何度同じことを言わせる気だ?」

「・・・」


すこぶる機嫌の悪い遥。

きっと誰よりも萌夏ちゃんのことを心配しているんだろう。

でも・・・


トントン。

「おはようございます」

ノックをして入ってきたのは雪丸だった。


「おはようございます。お疲れ様です」

「ああ、おはよう。礼、もう体はいいのか?」

「ええ、昨日はお休みしてすみませんでした」

「気にするな」


遥の席に向かう間に挨拶を交わし、意味ありげな視線を送る雪丸。

言いたいことは想像できる。

きっと、空とのことを言いたいんだろう。


「で、なんだ?」

苛立ち気味の遥の声で、雪丸が遥に向き直った。


***


「先日の視察団との経過報告に高野部長がみえます」

「空が?」

「ええ」

「わざわざ?」

「そうです」


そんな会話をした後、2人の視線が私に向いた。


「知りませんよ。私は関係ありませんから」


そりゃあね、HIRAISIの企画部長なんて重責にある以上忙しくないはずはないのになんでわざわざ来るんだろうとは思う。

何か意図があるのかもしれない。

もしかしたら私のせいかもしれないけれど、私は知らない。


「関係なくはないだろう、昨日だって誰がお前の休みの連絡をしてきたと思っているんだ」

ギロリと私を見る雪丸の視線は鋭い。


そんなこと言われたって・・・

仕事で無理をしたのと大地の気苦労が原因で体調を崩した私は昨日一日仕事を休んだ。

自分で連絡するというのに空が連絡してくれた。

雪丸が公私混同だと文句を言いたい気持ちもわからなくないけれど、


「まあいい、好きにしろ」

遥の方は投げやりな感じ。


遥にしてみれば今は私や空にかまっている余裕はないはず。

ただでさえ仕事が忙しいのに、萌夏ちゃんのこともあるんだから。


トントン。

ドアをノックする音。


「みえたみたいですね」

雪丸が専務執務室の入り口に向かった。


***


「相変わらず、三人で仲のいいことだな」

雪丸と遥と三人でいたのが気に入らにのか、不機嫌そうな空が部屋に入ってきた。


「仕事だ」

遥のあきれた顔。


「私は昨日秘書が休んで専務秘書の代役を務めましたので、その残務処理と申し送りに」

私が休んだせいだと言っている雪丸。


「それは、お疲れ様です」


「で、何の用だよ。報告だったらメールでも電話でもいいだろう。それに順調だったって聞いたぞ。それとも、直接礼を言わせたいか?」

やはり、今日の遥には棘がある。


「ずいぶん機嫌が悪いな」

さすがの空も苦笑い。


もし空が個人的な目的でここに来たんなら、褒められた行動ではないと思う。

しかし、仕事であれば遥にだって最低限の礼儀はあるべきで、身内だからとかは関係ない。

大体、一昨日は空のおかげで助けられたんだから。


「すみません、専務はまだ色々と」


私は秘書として態度がいいとは言えない遥の代わりに謝ったつもりだった。

しかし、


「色々ってなんだよ」

さっきまで上辺だけでも笑っていた空の顔が険しくなっている。


「は?」

ここは、怒るところかしら?


今度は私の方がポカンと口を開けてしまった。


***


「なあ、忙しいんだ。痴話げんかは外でしてくれ」

うんざりしたように見る遥の視線。

「はあ?」

思わず私の大きな声が出てしまった。


痴話げんかなんてするつもりはない。

それ以前に、公私混同するつもりなんて、


「礼、外せ」

「・・・」

雪丸の言葉に、反抗の意志を込めて睨みつけた。


一方的に、理不尽に、私だけが責められている気がして腹が立った。

元をただせば原因は私かも知れないけれど、こんな風に責められる覚えはない。


「雪丸と空と話すから、礼は外してくれ」

ため息を一つ着いた後、遥が静かに命じる。


「はい」

秘書である以上、私はおとなしく専務室を出るしかない。




それから二十分。

専務室に続く自分のデスクで、三人が出てくるのをイライラしながら待っていた。



「じゃあまた」

いつもの軽い調子で部屋から出てくる空。

その後ろには雪丸の姿もある。


「礼も病み上がりなんだから、あまり遅くならないようにな」

「あのねぇ」

ここは職場だって、

「大地の宿題もちゃんとやらせて」

「わかっているわよ」

完全に地が出てしまった。


「おい」

雪丸の冷たい声。


ああ、もう・・・。


一人地団駄を踏む私を残し空は帰って行った。


***


「仕事する気あるのか?」


お昼休み明けに呼び出された私は、雪丸のデスクの前に立った。


平石建設営業課長。

年齢的にも勤務年素から考えても異例の抜擢である。

その分プレッシャーも半端ないはず。

人一倍働いて、自分を律していなければ、心だって折れるだろう。

そんな立場にいる雪丸だからこそ、私にも厳しい。

それは仲間だからこそと分かってはいるけれど・・・


「私に言わないで」

つい、いつもの口調になった。


私の態度が悪いって言うなら、それは空のせい。

私だって、きちんと仕事をしたいと思っている。


「仕事にならないなら異動するか?」

「え?」

「また営業に戻ってもいいんだぞ」

「そんなぁ」


秘書の仕事にこだわるつもりはない。

営業での仕事もやりがいはあった。

でも、今ここで投げ出すのは悔しい。


「まず、お前がどうしたいのかをはっきりさせろ。中途半端だからつけいられるんだ」

「それは、」

どちらかというと空のせいでしょう。


「お前が本気で嫌だと思っているなら、手を打ってやってもいい」

「いや、それは・・・」

「その態度が原因だろ」


そう、だよね。

私が悪いんだよね。

でも、


***


「今は遥にとっても非常事態なんだ」

「うん」

わかっている。


こんな時に力になれなくては秘書として失格。

それどころか、友達としても最悪だと思う。


「ちゃんと仕事できるか?」

「はい」

「仕事に支障が出るようなら、強行手段に出るぞ」

ギっと睨む目は本気の雪丸。


子供の頃から長い付き合いの私は、雪丸の怖さも知っている。

彼はやると言ったらやる。

遥や空とは別の意味で怖い。

今回の件だって、空の行動が遥の不利益になると判断すれば容赦しないはず。


「ごめんなさい。ちゃんと、します」

「ああ、そうしてくれ」

そう言うと、一つ肩を落とした。


雪丸は遥を恩人と思っている。

もちろんそれは私も同じだけれど、雪丸にとって遥は特別だから。


親もいなくて高校にも行けずフラフラしていた雪丸は、遥に出会って人生が変わった。

おばさまやおじさまに認められ、学費の援助を受けて、猛勉強の末に国立大に入り一流企業と言われる平石建設に就職した。

全て雪丸の実力に違いないけれど、遥との出会いがなければなかった人生。

それが分かっているからこそ、雪丸にとっての遥は絶対の存在。


「お前が誰を選ぼうととやかく言うつもりはない。ただし、はっきりしろ。フラフラするな。お前は大地の母親なんだからな」

「わかってます」


文句を言いたい気持ちも、言い返したい思いもあるけれど、今はやめておこう。

4歳も年下の極上御曹司とうまくいくはずないと思いながら、彼から目を離すことのできない私がいる。

全ては曖昧な態度の私が悪いんだ。

好きになってもいいですか? ~訳あり王子様は彼女の心を射止めたい~

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