助けられなかった人達を前に私は立ち尽くしていた。もう少し早ければ、そんな考えが浮かんでは消えていく。フェルの時もそうだった。そう思うとやるせない気持ちになる。
「ティナ、残念ですが……」
「うん……分かってる。アリア、他に生存者は居ないかな?」
『ステーション内部を探知可能な範囲で調査しましたが、他の動的反応は全て寄生された人々であると想定されます』
「そっか……上手くいかないね」
「ティナ……っ!」
「フェル?」
後ろから柔らかい感覚が……フェルが抱き付いてきた?
「ティナの行動は決して無駄ではありません。間に合わなかったけれど……この人達の最後を伝えることが出来ます。何より、私はティナの想いに救われました」
「フェル……」
……そうだよね。せめて、この人達に何が起きたのかを伝えてあげないと。本星には家族だって居るかもしれないし。
「ありがとう、フェル」
「私にはこれくらいしか出来ません」
「そんなことはないよ」
嫌な考えに沈みつつあった私を引き上げてくれた。それだけでどんなに助かるか。
「アリア、残されたデータを全て回収して。そして、ステーションを爆破する。他の人達もこのままじゃ忍びないよ」
『畏まりました』
「フェル、せめてこの親子だけでもちゃんと弔ってあげよう」
「はい、ティナ」
私達が作業に取り掛かろうとした瞬間、アリアが強引に割り込んできた。
『ティナ!フェル!すぐに脱出してください!』
「アリア!?」
『救難信号にセンチネルの文字が紛れ込んでいます!これは罠です!』
「えっ!?」
アリアの報告に私達は目を見開いた。救難信号に細工をしていた!?
じゃあ、センチネルは誰かが彼らを助けに来るのを待ち構えていた!?
『ワープアウト反応を多数確認!間も無くセンチネルが到着します!速やかに避難を!』
「分かった!すぐに戻る!」
アリアに返事をした瞬間、扉から大きな音が響いた。直ぐにフェルが透視する。
「ティナ!外に寄生された人が集まっています!外に出るのは危険です!」
「嘘でしょ!?」
ここは会議室、出入り口は一つだけ!それが使うないとなれば!
「アリア!プラネット号を居住区に近付けることが出来る!?」
転移魔法を使って逃げるしかない!でも、私の魔法は精々100メートルが限界!イメージが大切だから、ステーション内部の別の場所に飛ぶのは無理!なら、直接プラネット号に飛び込むしかない!その為には、近付いて貰わないと!
『転移魔法を使われるのですね。可能な限り近付けます。少しだけお待ちください』
また大きな音がした!扉が変形してる!長くは持たない!
「出来るだけ早くして!私とフェルが彼等のランチになる前にね!」
「私は美味しくありませんよー!」
次の瞬間、壁が破られて寄生体が雪崩れ込んで……。
「スライサー!」
「でやぁあっ!」
フェルがウォーターカッターみたいな魔法で先制攻撃して、先頭の集団にダメージを与え、私は魔力を身体に込めて会議室にあった大きなテーブルを投げ付けた。
とんでもない勢いで投げたテーブルは、フェルの攻撃で動きが鈍った寄生体達を巻き込みながら、扉まで押し返した。テーブルを即席のバリケードにしてみたよ。あんまり意味は無いだろうけど!
「やっ!はっ!」
テーブルの陰に隠れながら、ビームランスを突き立てる。出入り口は狭いから、大量に侵入されるより対処は簡単だ。バリケードがどれだけ持つか分からないけど!
「プロテクト!」
フェルがバリケードに硬化魔法を掛けてくれた。これで少しは……!
「いや多いって!」
バリケードの隙間から廊下を見ると、寄生体がうじゃうじゃしてた。こんなに取り残されてたの!?
多分1000人以上は居るんじゃないかな!?
「アリア!早くして!私の心がポッキリ折れちゃうから!」
バリケードを叩く寄生体にビームランスを突き立てながら相棒を急かす。数十人ならなんとかなったかもしれないけど、この数は流石に無理!
『お待たせしました!』
「ティナ!外を見てください!」
会議室にある窓に視線を向けると、直ぐ側にプラネット号が近寄ってる!今しかない!
「フェル!」
フェルに掛けよって抱きしめた瞬間、バリケードが破られて寄生体が雪崩れ込んで来た!もう防げない!
「転移!」
転移する瞬間、フェルが私を押して何歩か後ろに下げられた……様な気がする。
私達を包んだ光が消えると、プラネット号のブリッジ内へ転移していた……危なっ!?真後ろに壁がある!あと数歩足りなかったら、壁の中に……もしかして……。
「フェル……分かってたの?」
「ティナ!早く準備を!」
私の問い掛けに答えず、フェルはオペレーター席に座る。
「……ありがと。アリア!進路をゲートへ!目的地は太陽系近海!同時にゲート、ステーションの自爆処理も!」
フェルに感謝して艦長席に座った。時間がない!
『畏まりました!全速力でゲートへ向かいます!』
「ワープアウト反応多数!来ます!」
フェルの声が響いた瞬間宇宙にたくさんの閃光が起き、巨大な宇宙艦が……遠い銀河でドンパチやっちゃう映画の戦艦に似た船がたくさん現れた!センチネルの艦隊!?
「センチネルスターシップを確認!数は10隻以上!」
「中規模艦隊じゃんか!」
「スターシップよりスターファイターの発進を確認しました!数は……10……100……1000……嘘!?まだまだ増えます!」
「これだからセンチネルは!アリア!」
『ゲートへ突入します!』
間一髪プラネット号はゲートへ飛び込むことが出来た。そして、その最中にステーションが大爆発を起こす様子が見えた。
……助けられなくて、ごめんなさい。女王陛下のご加護があります様に……。
私は静かに祈りを捧げつつ、ハイパーレーンに突入した。目的地は太陽系、大事なファーストコンタクト。
何よりも最初にしなきゃいけないのは、地球の皆にセンチネルの脅威を伝えること。宇宙へ向けて自分達の情報を発信するなんて自殺行為だ。センチネルに気付かれるまでに止めさせないと。
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