【side宗親】
 
 春凪からの視線が、いつもより熱を帯びているように感じられるのは気のせいだろうか。
 春凪は僕の顔と声が好きだと言ってくれる。
 けど、悪いけど僕はもうそれだけじゃ足りないんだ。
 もっともっと深い意味で僕の全てを好きだと言って求めて欲しい。
 僕は春凪より八つも年が上で、しかも彼女の上司だ。
春凪に金がないのを知っていて、彼女の弱みに付け込むような形で春凪を自分のものにしたけれど……欲しいのは身体だけじゃない。
 
 僕が春凪と同等の立場だったなら……例えば、せめて年齢だけでも彼女ともっと近かったなら……。
上司なんかじゃなく、同僚として春凪のそばに立つことが出来ていたならば。
 僕はいまより素直に春凪に「愛してる」って伝えて、春凪のことを「愛しくてたまらない」と抱き締めることが出来ただろうか。
 「春凪……」
 春凪を力で押さえつけているという負い目のせいで言えない気持ちを、たった二文字しかない彼女の名前に託すように熱を込めて呼べば、まるでそれに応えるみたいに、春凪が「宗親さん……」と僕の名前を呼んでくれた。
 熱に浮かされたような春凪の目を見つめながら、今この時だけでも構わないから、春凪の中を占める存在が、僕だけであって欲しいと熱望してしまう。
 
 僕に見せることを強硬なまでに拒んだその身体を、僕以外の人間だって誰一人知りはしないんだと思えたならどんなにか気持ちが救われるし、こんなに焦る必要だってない。
 だけど僕は知っているから。
 春凪の、柔らかくて滑らかなこの肌を、僕以外の男が先に触れてしまっていると言うことを。
 僕だけのキミであって欲しいのに、それはもう永遠に叶わない夢なんだろうか。
 「ねぇ春凪。キミの元カレは……春凪が感じた姿を見たことがないんでしたよね?」
 春凪の、頑なに引っ込んだまま顔を出そうとしない胸の先端を、そのたわわな膨らみごと手のひらでやんわりと押しつぶす。
 「んっ」
 春凪は自分は感じないと勝手に思い込んでいるけれどそんなの嘘だ。
 ほんの少し触れただけで切なそうに眉根を寄せて吐息を漏らすキミが不感症なわけないじゃないか。
 春凪が、自分は不感症なのだと自らを卑下していると知った時、僕は春凪の美しい身体を馬鹿にし、その繊細な心と尊厳を踏み躙った男に心底腹を立てたんだ。
 そのせいで春凪が僕にありのままの彼女の姿を見せることに怯えることも、その理由を考えればなるほどもっともだと頷けたけれど……だけどそんな男の言葉にいつまでも囚われて抜け出せない春凪自身にも、僕は物凄くモヤモヤしてしまった。
 春凪はどうして僕の言うことに耳を傾けようとしてくれないんだろう?
 僕はまだ、元カレほど春凪に信頼されていないと言うことだろうか。
 春凪が欠陥だと感じているところも、一切合切余すことなく全て丸っと愛せる自信があると言っても、春凪は全然信じてくれないから。
 言葉を連ねてもダメなら、僕はもう態度で見せるしかないじゃないか。
 
 「春凪の胸が陥没乳首でよかったって思ってるって言ったら、キミは怒りますか?」
 胸自体に触れただけではこの子の先端は顔を出してはくれない事を、僕は先の経験から習得済みだ。
 春凪自身の身体全体に火をつけなければ、春凪の恥ずかしがり屋の乳首は決して姿を見せてはくれないのだから。
 「な、んでそんな意地悪なこと、言うん、ですか?」
 案の定、春凪は僕が彼女の心の傷に塩を塗るようなことを言ってきたと思ったらしい。
 泣きそうな目で僕を睨みつけてくるのが愛しくて堪らないとか、僕も大概性格が悪いよね。
 「意地悪じゃないよ、春凪。僕は本心からそう思っているんだ」
 パクッと、春凪の柔らかな乳房を先端から食むように口中に含めば、春凪が驚いたようにイヤイヤをして。
 ふわふわの膨らみを吸い上げながら舌先で乳首が隠れている辺りを執拗にいじめてみたけれど、やっぱり春凪の頂は固くしこる気配すらない。
 それが嬉しくてたまらないと言ったら春凪はきっと「人の気も知らないで」って今よりもっともっと怒るんだろうな。
 だけどごめん、春凪。
僕は心の底からキミの〝そこ〟が強情な恥ずかしがり屋さんでよかったと思ってるんだ。
 春凪の乳房を吸い上げるようにしてから唇を離すと、僕の唾液で濡れ光った春凪の白いまろやかな膨らみがふるりと震えた。
 先っちょなんて出てなくったって、今でも十分可愛くて魅力的なおっぱいだと思うんだけど……これで下が勃たないとか、春凪の元カレこそ不能だったんじゃないかと言ってやりたい。
 「こ、んな……みっともない胸、嫌ですっ。男の人は私の胸を見たらみんなガッカリするに違いないんです。……きっと宗親さんだって」
 僕が春凪の胸を念入りに弄んだことを思って言っているんだろう。
生真面目な春凪のことだから、「宗親さんが今みたいに可愛がっても、私の胸はぴくりとも反応しないんですよ? ガッカリしたでしょう?」とでも思ってるんだろうな。
 だけどお生憎様。
 「ねぇ、春凪、キミは気付いてないの?」
 言って、わざと硬く勃ち上がった下腹部を春凪の太ももに押し当てれば、春凪が息を飲んだのが分かった。
 「言いましたよね? 僕は春凪の全てを愛せる自信があるって。実際、今みたいに乳首が隠れている春凪の胸も、僕にはすごく魅力的に見えるんです」
 「でもっ」
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