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「うん。春凪自身はみんなみたいにココがツン、と天を向いてる胸を見る方が嬉しいんだよね?」
耳朶を食むようにして、わざと意識して春凪が好きだと言う低音ボイスでささやくように問いかければ、僕の下で春凪が小さくコクッと頷いて――。
「分かりました。――じゃあ、春凪。僕が前みたいにキミを内側から感じさせてあげる……。だからお願い。キミのココに僕が挿入る許可を頂戴?」
僕の言葉に春凪がキョトンとしたのが分かった。
今日は最後までしようとお互いに納得してベッドにいるはずなのに何を今更って思ったのかな。
だけど僕は敢えて春凪にそれを問うことで、意識してもらいたいんだ。
春凪が僕を受け入れることは、キミの意志なのだと。キミが望んだことなのだと。
どこまで行っても僕は卑怯だよね。
そうしてもらうことで、少しでもこの不毛な関係に〝そうじゃないところ〟を見出そうとしているんだから。
「今更……です」
案の定春凪は僕から視線をそらせると、眉根を寄せて口元を歪ませた。
だけど明るいからよく分かるんだ。
春凪が照れて耳まで真っ赤にしてること。
「無理強いは……したくないから」
どうあったって僕の方が立場が強い。
春凪は以前、家にいるときは僕と対等でいたいと言ってくれたけれど、それにしたって根底の部分で力関係を全く意識しないなんて無理に決まってる。
だから――。
お願い、許可を頂戴?
キミの意志で……僕を受け入れてもいいと思ってるって口にして?
「……ぃ、です。私はもう、……んぶ、……さんの、……の、なので、……むしろ……んりょ……いで……貴方の、うように、う、……くして……たいです」
ややして、春凪が僕から顔を背けると蚊の鳴くようなか細い声でそう言って。
僕はその声が聞き取れなくて、春凪の頬にそっと触れてこちらを向くように仕向ける。
「ごめんね、春凪。よく聞こえなかったからもう一度だけ。今度はちゃんと僕の目を見て言ってくれないかな?」
わざと春凪の耳元に唇を寄せて。
低くささやくようにそうお強請りをしたら、春凪が泣きそうな顔をして僕を睨みつけてきた。
その表情でさえも可愛すぎて困る……とか思ってるの、恥ずかしいからどうか気付かないで?
そんな僕の下、春凪が胸元を隠しながら、一生懸命僕の手から逃れようとしてくるから。
「僕の方を見て言ってくれるまで逃がすつもりはありませんよ?」
照れ隠し、意地悪く口の端に微かに笑みを浮かべたら、春凪が「腹黒……」ってつぶやいて。
僕は「その通りです」って、今度こそニッコリ微笑んで見せることが出来た。
そのやりとりで観念したのかな。
小さく吐息を落とした春凪が、恥ずかしそうに僕を見上げてきて言った。
「……いい、です……。私はもう全部全部宗親さんのものなので……むしろ……え、遠慮しないで、その、貴方の思うように……奪、い尽くして頂きたい……です」
想像した以上の熱烈な告白をもらった気がして思わず息を呑んだら、春凪がハッとしたような顔をして慌てて付け加えるんだ。
「へ、変な意味じゃなくてっ、ここまできたら……そ、そのっ……ま、まな板の上の鯉ですって意味ですっ。……お、重く捉えないでくださいっ」
言って、真っ赤になって視線だけフイッと僕からそらせるのが可愛くて、僕は今すぐにでも春凪の中に分け入りたい衝動に駆られてしまう。
「――春凪。お願いだからあんまり僕を煽らないで?」
――ゴムをつける間でさえも、もどかしくなってしまうから。
なんてガッついた10代の若造みたいな本音、言えるわけない。
はやる気持ちを抑えながら、ベッドの宮棚にあらかじめ忍ばせておいた避妊具を手に取ると、僕はわざと春凪に見せつけるようにして包みを咥えて開封した。
――今からキミを、僕のものにするから。
そんな思いを込めて春凪を見下ろしたつもりだったんだけど――。
「避妊……なさるんですね」
って意外そうな声を出されて、僕は物凄く驚かされてしまった。
「――え?」
思わず声がうわずってしまうとか、自分らしくなくてイヤになる。
きっと感情を表に出すなと、僕を幼い頃から教育してきた両親に見られたら思い切り叱られていただろうな。
だけど、まさかうら若い春凪からそんなこと言われるなんて、思ってもみなかったんだから仕方ないじゃないか。
「ふっ、夫婦、なのでっ」
僕の反応にさすがに恥ずかしくなったらしい。
春凪が慌てたようにそう付け加えて。
僕は思わず笑ってしまった。
「春凪は仕事、出来なくなってもいいって思ってるの?」
聞けば、「まだ……入社したばかりなので……出来れば続けていたいです」と窺うように僕を見上げてきて。
それで、僕は気が付いた。
「もしかしてキミは……僕の妻になったから、とか色々考えて無理をしていませんか? お願いですからそう言うのはナシにしましょう? 僕はね、春凪には……僕に対して変な負い目を感じたりせず、自分の気持ちをちゃんと言える人であり続けて欲しいと思っています。そこがキミの魅力だって……、僕はキミのそう言うところが気に入ってるって……、前に話したことがあるの、忘れてしまいましたか?」
春凪の頬に添えていた手で、彼女の顔を労わるようにそっと撫でたら、春凪が泣きそうな顔で僕を見上げてきた。
「忘れかけて……ました。ごめんなさい」
大きな目でじっと見上げられて、僕はやっぱり春凪が大好きだと再認識させられる。