テラーノベル
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准は涼の抵抗を押さえ込んだ後、彼の袖を捲り上げた。それにより、涼の予感は確信に変わる。准が見ていたのは、ずっと隠していたかった弱さだった。
「この顔以外にあるたくさんの傷。これは創がやったんじゃないのか?」
「……っ!!」
しまった、と涼は臍を噛む。腕に刻まれた傷がシャツの下から見えてしまっていた。すぐにでも隠したいが、彼にしっかり握られてるせいで振り払えない。
「いえ……違います」
ここで彼の従兄弟を非難し、被害者ヅラしたところで何も変わらない。むしろ今までの経験から、悪い方に転ぶ気がする。
彼は優しいから、まずは俺を慰めることを選ぶかもしれない。でもそんなことは別に望んでない。
同情を買いたいわけじゃない。両親のことを創に話した時も、そんなつもりじゃなかった。だけど彼は涙を流した。その優しさに甘えたことで全てが始まった。
嫌なんだ。今はもう、何もできない子どもの時とは違う。「可哀想」だって思われても、惨めになるだけだと分かった。二十歳って、多分そういう歳。
「……ここまでされて、大丈夫とか本気で思ってんのか? ドMにも程があるだろ!」
口喧嘩なのか力勝負なのか、最早分からなくなってくる。喧嘩自体好きじゃないし、人と衝突したことが少ないから、彼の怒声にまた怯んだ。
直接の暴力よりずっとマシなはずなのに、彼が放つ言葉の方がちょっと痛い。
そんな覚悟もしてたはずなのに。
「……そうだよ! 俺はドMだし、救いようのない馬鹿なんだ! だからもういいだろ!?」
張り裂けそうな声で叫んだ。それでも離してもらえない。どうして、と思って見上げた際に、彼の苦しそうな顔が視界に入る。
もう本当に嫌だ。こんな優しい人に、なんて顔をさせてるんだろう。申し訳なくてまた涙が溢れる。
でも強引なところが苦手だ。逃げたいのに逃がしてもらえないなんて……どうしたらいいのか。
涙が止まらない。
「お願いだから……離して……」
「だめだ。もう絶対、お前を創の元には帰さない」
耳元でそっと囁かれる。後になって、抱き締められたんだと気付いた。
「今も全部は分かってないよ。でもお前が苦しんでたことは分かる。……今も」
准の腕の中に、涼はちょうど収まってしまった。毛布に包まれてるかのように暖かい。目を瞑ってしまいたくなる。
「遅いかもしれないけど、今からでも助けさせてくれよ、涼。また笑って、傍にいてくれ」
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