「それじゃ、今日は君にも手伝ってもらうから。よろしくな」
僕はネクトさんから、説明を受けた。今日の仕事は、ネクトさんの資料探しの横で、目を通した書類を順に整理する手伝いだった。
僕達は、書斎で書類整理をしていた。海軍長さまは、卓上で筆を動かしている。同じ机上で、書類の山をさばくネクトさん。僕は、ネクトさんから渡される資料を、種類分けして束ねていた。
「それにしても、船内にこんな書斎なんてあったんですね」
僕は、これまで現場の作業班として動いてばかりだった。だから、今回のような事務処理班として働くのは、初めての経験だった。
「初めてだと、この書斎の存在すら知らなかったか」
海軍長さまは言った。海軍長さまは、どこの班についているのかも、任務内容も知らない。ただ、僕と同じ作業班ではないのは確かだ。
「まあ、最近は船内に図書室を備えているものも増えてきているからな。この個室の書斎は珍しいのかも」
ネクトさんのことも、よく知らない。二人は船上での任務が多いということしか、分からない。同じクルーのはずなのに、目的も任務内容も秘匿にされているようなものだ。
「お二人はいつも、ここで作業をしているんですか?」
「いや、俺は船内の機材点検が主かな」
ネクトさんは、答えた。それに続くような海軍長さまの答えを待っていたが、一向に来なかった。
「海軍長さまは、いつもどういった任務をしているんですか?」
僕は、問い直してみた。しかし、言葉を発したのはネクトさんだった。
「お前、海軍長なんて呼んでるのか?ネイと同じなんだな」
「え?」
ネクトさんは、沈黙する海軍長さまの代わりに説明をしてくれた。
「海軍長じゃなくて、チーフオフィサーな。一等航海士だよ」
説明によると、海軍長さまは一等航海士という役職を持っているらしい。船長の代行者のような立ち位置で、必要によっては現場の指揮をとる事もある。どちらかと言うと、海軍長官ではなく、指揮官だったらしい。
「では、指揮官長だったんですね!」
「その呼び名も何とかならねぇか」
海軍長さまは呆れたように言う。
ちなみに、ネクトさんは二等機関士という役職なのだと、付け加えて教えてもらった。
「それにしても、なぜそんな方々がこんな事務処理を?」
僕も含めて、この場には任務内容が役職と違う人しかいない。
「この船は、人数不足なのと船長の気まぐれで動いているからな」
僕達はそれから、日が傾くまで作業を続けた。その頃には、ネクトさんの持ってきた資料には目を通し終えていた。
「よし、これで第一軍は終わりだな」
ネクトさんの一言は、仕事終了の合図ではなかった。第一軍…?僕は、言葉を受け流そうか一瞬迷った。
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