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病院を出て、ショッピングモールの中を散策中。


「わぁー見て、かわいい」

麗子が棚に並んだ小さなベビー服に手を伸ばした。


綺麗なパステルカラーの中から淡いピンク色の1枚をとり、乃恵に見せる。


「本当に、かわいい」


産科医なんてしていれば生まれたての赤ちゃんは珍しくもないけれど、熊さんやぞうさんの付いたベビー服はちいさくてかわいい。

自分には一生無縁だと思っていても、手にすれば乃恵の口元も緩んでしまう。


「優華ちゃんにプレゼントしてもいいかしら?」

すでに何枚かを手にしている麗子が一華に確認する。


「ありがとうございます。それなら、こっちのにして下さい」


一華が隣の棚から真っ白なベビー服を手にした。


「えぇ、こっちがいいの?かわいくないわよ」


別にかわいくないわけではない。

一華が手にしたものも真っ白で小さなお花のワンポイントが刺繍してあって、素敵ではある。

でも確かに、麗子が手にした方が華やかでとってもかわいい。


「ほら見てください、こっちの縫製は縫い目が中にあるじゃないですか。これだと着たときに縫い目が肌に当たるんです。それに、こっちはコットン素材で、肌にも優しいから」

「へえー」


ウンウンと頷く麗子。


やっぱりお母さんだな。

すでにいくつかのベビー用品を手にしている一華を、乃恵は感心しながら見つめた。


***


「麗子さん、ありがとうございます。本当なら私が何かプレゼントしないといけないのに、」

「いいのよ。私が好きでやっているんだから」


もうすぐ結婚する麗子。

相手は一華の実の兄な訳で、当然お祝いだって渡すことになる。

それでも、一華の気持ちとして何か結婚のプレゼントをしたいと考えていた。


「何か欲しいものはないんですか?」

こうなったら直接本人に聞いてみよう。


「そうねえ・・・正直まだ実感がないのよね。最近は孝太郎のマンションに同棲状態だったし、新居って感じも、新しい暮らしって感じもしないの」

「そんなものですかね」


結婚して、出産して、すぐに浅井の家での同居を始めてしまった一華からすれば、よくわからない感覚。

何しろ一華は、結婚を機に生活が一変してしまったんだから。


「乃恵ちゃんはどうだった?」

一歩後ろを歩いていた乃恵に、麗子が声をかける。


「え、私ですか?私は・・・いつの間にか一緒に暮らしていて、気がついたら入籍していたって感じですかね。仕事も忙しかったので、結婚生活って実感はいまだにありませんけれど」


「「ふーん」」

一華と麗子の声が重なった。


一華だって自分が不幸だと思うわけではない。けれど、結婚してからも自分らしく暮らせている乃恵がうらやましかった。


***


一華にとってこんなにゆっくりと街を歩くのは結婚して以来かもしれない。

独身の頃は仕事に追われていてゆっくりショッピングなんて出来なかったけれど、それでも自由に外に出ることが出来た。

もちろん今だって、家に閉じ込められているわけでもない。

出かけようと思えば出られるけれど、小さな優華を連れて1人で出歩く不安もあるし、「優華ちゃんは見ておくからいいわよ」「優華ちゃんも連れてでるなら雪も一緒に行きなさい」「そんな小さな子をわざわざ外に連れ出さなくても・・・」と、理由を付けて止められてしまう。

それでも振り切って出かければいいんだろうけれど、育児初心者で何の知識もない一華にはそれも出来ない。


「一華ちゃん、さっきから着信」

麗子が一華のバックを指さす。


「ええ」


一華にもわかっている。

でも、出たくない。


「お家からでしょ?優華ちゃんに何か」

「いいえ。優華のことは大丈夫です」


雪さんには連絡を入れてあるから、心配はない。

一応診察は受けたけれど、異常もなく今は元気に遊んでいるって知らせがあった。

それに、着信は全て守口さんから。

きっと、所在確認だろう。


「本当に大丈夫なの?」

「ええ」


はっきりと答える一華に、麗子はそれ以上言わなかった。


***


3人で一通り買い物をし、どこかでお茶でもって話がまとまり近くのカフェへと移動した。



「一華ちゃん、何があったの?」

一華がテーブルに置いた携帯をチラッと見ながら、麗子が聞く。


さっきから5分と置かず着信が続いている。

そのたびに相手を確認する一華だけれど、電話に出る様子はない。


「別に」

何もありませんと答えようとした一華の言葉を

「嘘はダメよ」

麗子が遮った。


「麗子さん・・・」


小さな声で呟き、フーッと息を吐いた後、一華はやっと話し出した。



話とは言っても、取り立てて何があったわけでは無い。

ただ少し窮屈で、息が詰まって、環境の変化になじめなくて疲れてしまっている。それだけのこと。

結婚し相手のご両親と同居をした人は、みんな体験することだろうと思う。


「それで、鷹文くんは何も言ってくれないの?」

一華の話を大体聞いてから、麗子が口を開いた。


こんな時旦那さんがきちんとフォローしてくれれば、大きな問題にはならない。

他人の家に嫁いだ女性にとって頼れるのは旦那さんしかいないんだから。


「言えば何でもしてくれますよ。でも、だからこそ言えないんです」


守口さんだって、優華や、鷹文や、浅井の家のことを思って言ってくれている。

お父様もお母様も優華をかわいがってくれているし、一華のことも大切にしてくれる。

みんな善意の行動である以上、文句の言いようがない。


それに、一華と同い年の鷹文は二十歳の時に不幸な事故にあい、8年間家族との連絡を絶っていた。

やっと元気になり戻ってきた鷹文をまたお母様から離すようなマネはできない。

今、親になった一華だからこそそう思える。

***


ブブブ、ブブブ。

麗子の携帯の着信。


「ちょっとごめんね」

麗子は一華と乃恵に断ってから電話に出た。


「もしもし。うん。うん。いいえ、行かなかったの。そうじゃなくて、途中でお友達に会って。だから、違うから。はい。はい。しつこいわね。今お友達と一緒だから、切るわよ。はい。はい。じゃあね」

一方的に話を切り上げて電話を切った麗子。


「ごめんね。引き継ぎ中の秘書の子が余計な連絡をしたものだから、孝太郎が心配して」

「いいんです、あのお兄ちゃんにものが言えるのは麗子さんだけですから。うらやましい」


「何言ってるの、一華ちゃんと鷹文くんだって仲がいいじゃない」

「そんなこと・・・」


以前は何でも話せる仲だった。

誰よりも信頼できて、遠慮なく思いをぶつけられた。

でも今は、


「鷹文、凄く優しくなったんです」

ポツリと呟いた一華。


「それのどこが不満なのよ?」

麗子は不思議そうな顔。


「何をしても、言っても怒らないし、私の言うことは何でも聞いてくれるんです」

「いいじゃない」


「そのために無理をすることになっても文句も言わないし。昔は何でも言い合えたのに・・・」

「一華ちゃん」


うっすらと涙ぐんでしまった一華を見て、麗子も言葉を止めた。


「まるで私に興味がないみたい」

そう言った瞬間、一華は泣き崩れてしまった。


***


一華と鷹文は6年もの間同期として同じ職場で働いていた。

誰よりもお互いを知り、遠慮もなく気心の知れた仲だった。

そんな2人でも、結婚し生活が変わればすれ違いが生まれてしまうのか。

麗子は複雑な思いで一華を見つめた。


「きっと無い物ねだりなんですよね」

それまで黙っていた乃恵の一言。


「「え?」」


「私、心臓が弱いんです。そのお陰で行動制限もあるし、赤ちゃんも諦めました。産科医なんてやっていますけれど子供はもてませんし、家族のいない徹に家族を作ってあげることもできないんです。それに、お互い両親のいない私達には愚痴を言える親もいなくて、お2人を見ていると本当にうらやましいと思います。でも、お2人にもそれぞれ悩みがあるわけでしょ?」


「ええ、まあ」

「確かにそうね」


一番年下のくせに、乃恵の言うことが一番核心を突いている。

一華からすれば、医者として働き自分らしい暮らしを貫く乃恵がうらやましいと思えたけれど、別の立場からすれば違って見えるものらしい。


「ごめんね乃恵ちゃん、愚痴ったりして」

「いいんです」


「ねえ、せっかくだからこのまま3人で失踪してみる?」

麗子の爆弾発言に、


「いいわよ」

「いいですね」

一華も乃恵も賛成。


それは、不満も不安もストレスも目一杯に抱え込んだ3人のちょっとした息抜きだった。

わがままな女神たち

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