数ヶ月が経って、そろそろ会社の雰囲気にも慣れてきた頃──
「今日は、各店舗を回るんで付き合ってもらってもいいかな?」
蓮水さんから、そう問いかけられて、「はい」と、頷いた。
「それじゃあ、車を出してもらえるだろうか」
それぞれのショップがオープンする時間などタイミングを見計らって、テナントを巡って行くことになり、最初の目的地の大型ショッピングモールに着くと、車でただ待っているよりはと一緒にお店に向かった。
「ようこそいらっしゃいませ!」
蓮水さんが店内へ足を踏み入れると、店舗スタッフの方たちが一斉に頭を下げた。
(これってお店の視察なんだとしたら、スタッフさん達も緊張してたりするのかな……)
そう思って、自分はあまりお店の奥までは入らずに、少しだけ離れて遠巻きに見ていたら、
「……蓮水CEOのお付きの方でしたら、どうぞもっとこちらへ」
と、女性スタッフさんから中へ入るよう声をかけられた。
「ああ、いえ…私は、車の運転手なので」
手を振って答える。
「……運転手さんなんですか? 珍しいですね、女性の方だなんて」
「ええ、ちょっと成り行きでなったような感じでして」
当時のことが思い出されて、やや苦笑いを浮かべて話した後で、
「……CEOが来られると、やっぱりみなさんも緊張されたりするんですか?」
ちょっと気になっていたことを、思い切って尋ねてみた。
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