テラーノベル
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「ここは?」
真っ黒で何も無い場所。
光も無い。なのに、なぜか周りが見える不思議な場所。
「お~い!誰か!誰かいないのか〜!!」
必死に叫んでも、ただ何も無いこの空間に俺の声が響くだけ。
ひたすらに走り回りながら辺りを見回す。
いくら走っても何も無い。
もう、何キロ走っただろうか。それでもなお、この暗闇から抜け出せない。
絶望しか無い。もう、声を出す気力さえない。
そんな事を思考していると、急に真っ暗闇の空間から、薄暗く少し嫌な臭いのする裏路地に来た。
ここ、何処かで見たことがある気がすんだが、どうにも思い出せない。
「ここどこ?お兄ちゃん」
後ろから声が聞こえると思って振り向くと、幼い頃の俺、典華が犬のぬいぐるみを手に泣きながら兄貴を呼んでいる。
「お兄ちゃん、どこ?」
幼い頃の俺には、俺が見えてないらしい。
「これは、あの時の光景か?確か、この後」
そんな事を呟いていると、兄貴が息を少し切らしながらこっちに走って来た。
「典華!」
「お兄ちゃん!」
二人は抱き合っている。幼い頃の俺は安心からか号泣して、兄貴は何度も良かったと繰り返していた。
「俺から離れるなと言ったろ」
兄貴は少し強めの口調でそう、幼い頃の俺を叱る。そうすると、幼い頃の俺はごめんなさいと謝りながら泣いている。
そんな幼い頃の俺を兄貴はそっと抱きしめていた。
昔の事を思い出してシンミリしているとまた、別の場所に移動してきた。
「俺の、家?」
俺の口から声が漏れる。
今、俺が一人暮らし(幽霊付き)で暮らしてる家と違って、まだ明るい印象の有る、昔の家。
「兄貴!なんで、消え掛かって、」
そこには、絶望の表情を浮かべた昔の俺がいた。
「帰って来たのか」
少し驚いたように兄貴が目を見開いて至って冷静な声でただ一言そう言う。
こんな事も、有ったな。
「なんでそんなに冷静なんだよ!」
「…………典華、バイバイ」
昔の俺の問いに兄貴は答えずに、そっと手を昔の俺の頭に乗せて、不器用な笑顔を向けた。
硝子片が砕け散るように兄貴の体も消えて行き、リビング一帯にキラキラした物が舞っている。そうして兄貴が死んだ。
「兄貴っ!!」
絶望と悲しみと喪失感と、そんな感情が混じりに混じって、昔の俺は泣くことしかできなかった。
そんな情景を見せられてる俺の目からも涙が流る。
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