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お父さんは有名で人気な遊園地の社長だ。

きっかけは前の会社でやお父さんが提案した小さな企画だった。

お父さんの会社は銀行と協力し、利益が見込まれる企画を考えるという珍しいことをしていた。お父さんはそこで大人から子供まで楽しめるものなら、年齢関係なくお金が入ってくるのではないかという意見を出した。

それは誰でも出る考えだが、お父さんは小さな店や遊園地のようなものを出店などすれば、将来的に利益が見込まれるのではと考えた。

だが、そんなの子供でも出せる考えだと否定され、採用はされなかった。それでも、お父さんは諦めず勉強をした。元々記憶力と理解力、読解力などが備わり、頭の良かったお父さんはすぐに勉強したものをまとめることができたのだ。

その結果、もっと沢山の人が笑顔になり、将来的に利益が見込まれるような企画を思いついた。

本当に小さな企画を銀行と協力をしてやることになっていった。

小さな子供にお金の使い方を教えるイベント。大人から子供まで好きな小さな屋台のようなものを何個か開き、キッチンカーでそれを宣伝して食べて貰ったりもした。勿論、遊園地のように、銀行と会社で協力して作ったキャラクターの着ぐるみや、小さなストラップなども売っていた。

SNSで宣伝したり、街中で声を掛けたりもした。すると、テレビで放送されたり、SNS内でバズったりもした。その結果、沢山の金額が稼げ、お父さんの夢や理想に近かった。

だが、遊園地を開くには沢山の人の協力が必要だった。そんな時になると、テレビやSNSでそれを知った友人や親戚から協力を得た。

勿論、銀行側や会社側からも協力してくれた。

お父さんは元々、学生時代から嫌われるような行動はしないように育てられていたので、昔からの幼馴染や親友、親戚が沢山居て、協力を得ることに心配は要らなかった。

きっと皆、こいつなら、と信じていたんだろう。

みんなの信頼もあり、お父さんは夢を諦めなかった。会議で遊園地のキャラクターをまず三体くらい決め、どんなものを遊園地に置くのか、などを相談していた。時代が進んでいるのもあり、SNSでどんなグッズを出して欲しいか、どんなキャラクターを出して欲しいかなどを募集することもできた。

会社は遊園地へと変わった。元々あまり有名ではなかった会社で、銀行との協力はお金を稼げるようにと言われて企画を考えていたのだ。

遊園地を作る、という提案は私が生まれる前から企画されており、お父さんがそれを提案したのは二十歳だった。それから十年後に遊園地を開いた。遊園地が開いた時、確か私は八歳くらいだった。

元々話題になっていたこともあり、開演からお客さんは沢山来てくれた。子供や大人が楽しんでいて、お金は沢山稼げていた。

お父さんは企画を立てた”社長”として認められ、遊園地に来た沢山の人たちを笑顔にし続けた。

私はそんなお父さんに憧れた。小さな企画から遊園地まで作りあげ、お金が稼げるのは勿論、大人から子供まで、年齢関係なく人々を笑顔にしている、そんなお父さんに。

私は幼かったが、お父さんを夢に、目標に日々努力していた。

だけど、その目標はある時消え失せた。気づいてしまったから。お父さんが笑顔のために遊園地を経営している訳ではないことを。






私が丁度、中学三年生の春くらいの頃だった。

中学三年生になると進路を決めなきゃいけない。まあ、私は進路と言えど高校に行くつもりだった。

そこで、お父さんに相談したのだ。

「ねえ、お父さん」

私が話しかけるとお父さんはいつものように、笑顔で返事をしてくれた。

「進路の話なんだけど…」

そういうといつも笑顔だったお父さんが突然焦ったような顔をして歪んだ笑顔になった。その顔は誰が見ても様子がおかしく、引き攣った笑みだった。

「すみれ」

急に真顔で私の名前を冷たい声で、でも真剣な雰囲気を出して言った。

「将来、すみれが何の職に就くかは自由だが、お金が稼げる仕事を選びなさい」

「……え?」

私は勿論驚いた。お父さんが、人の笑顔を何より大切にしていると思っていたお父さんが、お金を稼げるようにと言ったのだ。

「お、お父さん。わたしね、将来は人を笑顔にする仕事に就きたくって…」

私が戸惑いながらも微笑を浮かべてそう言うとお父さんは言った。

「人の笑顔よりも優先するべきものがあるんだよ」



「…たしかに、ね。そうだよね。私、頑張るね」

私はその時知った。

お父さんが人々を笑顔にさせたかったのは、お金のためだと言うこと。いや、笑顔にさせたかったのではない。笑顔にしなきゃと思っていたのだ、お父さんはきっと…。






「…あーあ。」

私はそうため息をこぼした。

高校生になってもう一年経ち、二年生になった。まだその時は春だった。

私の家は遊園地にあり、遊園地の奥の方にある一番大きな建物であるお城の五階から七階が私の家族の家になっている。家というか住む場所みたいな言い方の方が良いだろう。

四階は全部従業員の仕事場だ。従業員というか着ぐるみ以外の話だけど。

その遊園地からほんの少しだけ離れている公園がある。その公園に私は今独りで悩んでいる。

まだ将来の夢が分からないまま、高校を卒業してしまうかもしれないということが最大の悩みだった。

「…どうしたらいいんだろ」

独りでぼそっと呟いて勝手に涙目になる自分に苛立ちしか感じない。

そんな時、公園で遊んでいた小さな女の子と男の子二人の合計三人が私に話しかけてきた。

「おねーさん、だいじょーぶ?」

「おねえさん、どうしたのー?」

私は驚いた。こんな独りで悩む変な私にも話しかけて心配してくれるのだから。

「…実はね、お姉さんね、将来の夢が決まんないまま大人になっちゃいそうなんだ。」

私が三人に言うと三人は口々に言った。

「だいじょーぶだよ!きっとおねーさんのしょーらいのゆめ、みつかるよ!」

「おねえさんのゆめ、みつかりますようにって、わたし、ながれぼしにおねがいする!」

「おれもおれも!」

そんな無邪気さと純粋さに私は心を打たれ、感動で涙がぽろぽろと零れた。

「ありがとう…ありがとうね…」

三人は私を慰めて、一緒に話までしてくれた。年下で、十歳差くらいの子三人に励まされるなんてみっともないが、それよりも嬉しさが勝った。三人の親御さんが来て私に謝ってくれたが、謝罪は要らない、と言ったしそんなことはどうでもよかった。

こんなに惨めで馬鹿な私の存在を認めて、否定してくれない、そんな愛に私は、喜びを感じざるを得なかった。

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