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去年の11月か12月に書いてたヤツみっけたわ。
誤字脱字とか文法とかがおかしかったら言って欲しいっす
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恋というものは、美しくて、儚くて、弱くて、そして、辛い。
あんたに見てほしいものがある。私の心の中。
まるで、炭酸の抜けたソーダのようでしょ?
全部、全部。あんたのせいよ。
机の上で冷めきったソーダの缶が、カランって鳴った。あれを見るたびに、あんたに伝えられなかった言葉がひとつ増える。ほんとは手を伸ばしてほしいのに、そんな願いすら馬鹿みたいで言えない。だって、あんたはいつも誰かの中心で笑ってるから。
私はその輪の外側、ただの空気。
届かないって分かってるのに、どうしても諦められない自分が嫌になる。
ねぇ、助けてよ。
こんなはずじゃなかった、って何度思えば気が済むんだろう。あんたに触れられないこの距離が、いちばん痛い。私の恋心が沈んでいく音、聞こえない?あんたにはきっと、聞こえてないよね。だからせめて、この弱っちい恋心だけは、そっと沈ませてあげたいのに…。
沈ませることはできない。
あんたのせいよ。あんたが、私のことを意識させるから。好きにさせるから。
あんたが、私に伸ばした手。私に見せた逞しい背中。覚えてるわよ。忘れられないよ。
思い出しながら炭酸の抜けたソーダを飲み干した。私の心の中みたいにコップの中から無くなった炭酸は少し切なく感じた。ソーダの缶を洗って、乾かして、棚の奥にしまった。捨てられなかった。もう飲まないって分かってるのに。
明日も、あんたは誰かの中心で笑うんだろう。私はまた、何もなかった顔でそれを見る。恋心は、今日も沈んだまま。泡はもう、戻らない。
部屋の外を眺めていた。私の家の近くには公園がある。あんたはサッカーをして友達と遊んでいた。
あぁ、やっぱり、みんなの中心で、笑っている。
私の事なんて忘れてるんだろうな…心の中で、針が突き刺したように痛くなった。
吐きそうだった。泣きそうだった。
冷蔵庫の中からまた、ソーダを取り出した。
味はしない。炭酸もない。なんて哀しい物語なんだ。もう、前には戻れない。
それでも、缶を開けた音だけは、やけに大きく響いた。プシュ、って。まだ残っていたみたいに、ほんの少しだけ泡が立った。すぐに消えたけど。
「……残ってたんだ」
独り言が、部屋に落ちる。私の恋心みたいに、完全には消えきれないで、しぶとく底に沈んでた。
窓の外では、あんたがボールを蹴って、誰かと笑っている。名前を呼ばれて、振り返って、また笑う。その全部が、私の知らない場所で起きているみたいだった。近いのに、遠い。
手を伸ばせば届きそうなのに、伸ばせない。
この距離が、いちばん残酷だ。
「……ばかみたい」
そう呟いて、ソーダを流し込む。味は相変わらず、しない。でも、不思議と胸の奥が、少しだけ落ち着いた。
沈んだままの恋心を、無理に浮かせなくてもいいのかもしれない。泡が戻らないなら、戻らないままでいい。炭酸が抜けたソーダだって、ソーダだったことに変わりはない。
あんたに見せるつもりは、もうないけど。
それでもこれは、確かに私の心の中。
恋というものは、美しくて、儚くて、弱くて、そして、辛い。
…でも、確かに、存在していた。
私は空になった缶を、そっと棚の奥から取り出した。捨てるためじゃない。
ただ、そこにあった事実を、確かめるために。
今日も、恋心は沈んだまま。
それでも、私は息をしている。
翌日、夢の中にはあいつが出てきた。
とても素敵な、綺麗な夢。
「…あれが現実だったらいいのに…」
ボソリと、机の上に肘を立てて呟いた。
朝は、毎日コーヒーを飲んでいる。
とても苦いコーヒーをね。
あいつは私のことを考えてないだろう。
心が締め付けられた。もう、慣れているけど。
いつもみたいに、外を見た。静かな公園だ。誰もいない。
「…久しぶりに、外の空気を…」
今の時期に合わないサンダルを履いて、外に出た。
久しぶりの外はどうだったって?あぁ、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、心が軽くなった。
久しぶりにコンビニに立ち寄った。
「…前はここのコンビニ、混んでたのに…」
呟きながら入っていった。誰もいない。
店員はいたけど。
炭酸飲料の棚の前で、私は立ち止まった。
透明なボトルの中で、泡がきらきらしている。まだ生きてるみたいに。
前は、何も考えずに手を伸ばしていた。
今日は少しだけ、考えた。
考えて、それでも……同じものを取った。
レジに置くと、店員は何も言わずにスキャンした。ピッ、という音が、やけに乾いて聞こえる。
袋はいらない。そう言う前に、声が喉で詰まった。
店を出て、缶を開けた。
プシュ、って音。期待していたほど、泡は立たなかった。一口飲む。やっぱり、味はしない。
分かってた。分かってたのに。変わらない。
私はまだ、あんたのいない場所で、あんたのことを考えている。恋心は沈んだまま。
沈んだままでも、人は選択をしてしまう。
泡は戻らない。
でも私は、また同じものを選んだ。
それだけの話。
道を歩いている時に、前から数人の男子が自転車を乗って走ってきた。
別に、なんとも思わなかった。だけど、その輪の中に、あいつがいた。
あいつは私の存在に気づいてはいた。でも、スルーされた。
他人でもないのに。
「……はッ?」
自転車の音が遠ざかって、通りはまた静かになった。何も言われなかった。それだけ。
胸の奥が少しざわついたけど、すぐに収まった。
期待していなかった、と言えば嘘になるから。
家に戻って、靴を脱いで、電気をつける。
いつもと同じ部屋。いつもと同じ棚。
その奥に、あの空き缶がある。
取り出してみる。
軽い。中身は、もう何もない。
分かってる。当たり前だ。
捨てようと思った。
ゴミ袋を広げて、缶を持ったまま、しばらく立っていた。
でも、音を立てて落とす気にはなれなかった。
結局、缶は元の場所に戻った。
棚の奥。見えないところ。
なかったことにするには、まだ近すぎる。
今日も、何も起きなかった。
あいつは私に気づいて、気づかないふりをした。
私はそれを見て、傷ついて、それでも明日も同じものを選ぶ。
泡は、もう戻らない。
でも沈んだままの恋心は、
片付けられないまま、そこにある。
私はあいつに伝えられないまま、今を生きるしかない。諦めるしかない。