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「仁美、ハッピーバースデー!」
8月19日。その日は休日で、そして私の誕生日だった。
一花ちゃんがいろいろとお菓子を買ってくれて、二人きりで私のお誕生日会をしてくれた。
「見て見て、私たちのボイスドラマ、こんなに再生されてるよ!」
「あ、ほんとだ、すごい……」
お菓子を食べながら、一花ちゃんは、動画サイトに投稿した私たちの作品のページを見せてくれた。
私は驚く。
「私たちのお芝居、こんなにいろんな人たちに聞いてもらえるんだね。なんか、ちょっと嬉しいかも」
「私も、こんなにたくさん聴いてもらえるなんて思わなかった。仁美の演技がいいからね」
「ち、ちがうよ! 一花ちゃんの声が素敵だからだよ! 私、本当に一花ちゃんの声、すごく好きだもん!」
「ありがと。あ、それでね、仁美」
「う、うん?」
「これ、私からプレゼント」
そう言って、一花ちゃんは小さいプレゼントの箱を私に手渡した。
「あ、ありがとう。開けてもいい?」
「うん」
私は包みを開ける。
そして中身に私は驚いた。
「え、これ、一花ちゃんと同じイヤホン?」
「うん、私とおそろいのだよ」
「だ、ダメだよ! こんなの受け取れない!」
「どうして?」
「だ、だって、これってとても高価なものでしょ?」
一花ちゃんが普段から使っているそのワイヤレスイヤホンはブランド品だった。
私も一花ちゃんとおそろいのが欲しくて調べたけれど、私が使っているスマホよりも高価で、とても私に手が出せるものではなかった。
「こんなの貰ったりしたら、申し訳ないよ……」
「だって、仁美、いつまでもちゃんとしたイヤホン買わないんだもん。せっかく素敵な演技なんだから、もっと良いイヤホンで聞いてほしいなって」
「そ、それはそうだけど、だからってこんなの受け取れない」
「仁美。私ね、仁美にすごく助けられたの」
「え?」
「私の声を好きって言って、私の演技を素敵だって言ってくれて。私、あの時が人生で一番しあわせになれた。とても嬉しかった。お金に変えられない、一番の思い出を仁美からもらった。このイヤホンがあればね、私の声、仁美はもっと素敵な音で聞けるんだよ。私のお芝居も、通話をすれば私の声も。だからね、私が仁美にプレゼントしたいのはイヤホンじゃない。仁美が私の声を、いつでもどんなときでも聴いてもらうためのプレゼントなの。だから、これを受け取って、私の声をいつでも聞いてね」
「一花ちゃん……」
じんわりとした温かい気持ちが心に広がる。
嬉しかった。
一花ちゃんは、私が一花ちゃんの声が大好きな気持ちを分かってくれた、そんな私が一番喜んでくれると思ったから、このイヤホンをプレゼントしてくれたんだ。
その一花ちゃんの気持ちが、これまで感じたことがないくらいにたまらなく嬉しかった。
「受け取ってくれるでしょ?」
「ぐす、えっぐ、あ、ありがとう、一花ちゃん……」
「もう、そんな泣いたりしないでよ」
一花ちゃんは私にイヤホンの使い方を教えてくれた。
一花ちゃんがお家に帰っちゃった夜。
さっそくこのイヤホンをつけたまま一花ちゃんと通話した。
前よりもずっと明瞭に、一花ちゃんの凛として透き通った声を感じられた。
夜寝るとき、このイヤホンをつけたまま、一花ちゃんのお芝居の音声を聞きながら寝た。
一花ちゃんが、これまで以上に近くにいるように感じられた。
本当に幸せだった。
「一花ちゃん、だいすき♪」